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166 ☈ 悪夢結界③

 ギリギリ間に合ったのか、何とか4人の悪夢結界が完全に閉じきってしまう前にすべり込むことは出来ていた。だが、流石に肉体までは間に合わず、結果的に思念体として上空から俯瞰して観ることしか出来ない。

 携帯のおかげで声は拾えるが、建物内だと姿までは観られない。


 もっとも、悪夢内の肉体は本物では無い。思念体が勝手に人間の形を保っている、という感じらしい。

 が、それでも無いよりは有った方が良い状況だった。


 結界の主から聞いた限りでは、現実で悪夢結界を "悪魔の部屋" 化しないよう結界を張りつつ、悪夢内へ思念体だけを送って維持することは、かなり危険らしいし、今ならその意味も理解できる。

 しかし、そうでもしなければ咲九の手帳通りに3人を上手く誘導できない気がした。


 とりあえず、"悪夢の中の今日" は何も起きない。

 だから休んでおくように伝えてから、必要最低限の魔力を思念体に残し、肉体がある "現実" に戻って来ていた。


 その間、現実では何事も無かったらしくて安堵する。

 恐らくは、誰かがどこかで敵を夢中にさせてくれているのだろう。


 そして、足場の若干少なくなった狭い柱の中の空間に入り込む。

 そこに4人の本物の肉体は入れてあった。


 私が無理に押し込んだせいで、衣服は乱れて()()()()()格好になってしまっているが。

 流石にこちらが恥ずかしいので整理整頓する。


 困ったことに、ここから少しでも離れたら二度と悪夢の中に入れないことは、何となく察している。


 幸運か、不運か。

 4人がそれぞれの核を鬼面の奴らに奪われたお陰で、目的を達成したらしい黒い仮面の集団がこちらに向かって来る気配は全く感じられなかった。


「全く、どうしたものか」


 独り愚痴って溜め息をつく。




「核を奪われたらどうなるのかって?」


 咲九が驚いた表情で私を振り返った。

 私が頷くと咲九は失笑している。


「別に、何とも無いわよ。ただ核の中に含まれている魔力分、魔力が少なくなるだけで」

「じゃぁ、別に奪われても……その奪った奴が神様になるとか、そういうことは無いのか?」

「無いとは言い切れないけど、ほぼ無いわね」


 そう答えた咲九はホワイトボードに "C" を描いた。

 それが核なのだと察する。


「核に根付かれた者は、例え核を奪われても神には変わりないの。そもそも、核は相当特殊な方法で保管されない限り、大元の神の手元に戻ってしまう。ただし、その間に肉体側を襲撃されたら堕転しやすくなる、くらいで」

「それって危険なんじゃ……」

「その為の神器なのよ」


 咲九はそう言いながら、その "C" の先に "S" を描く。


「襲撃された時に身を守る刀にも、鞘にも成れる武器――それが神器よ。特に初代の天帝が創ったと言われている "元祖神器" にもなれば、何千、何万という年季物。優秀な効果があると言われているわね」

「元祖……神器? 名前がまんまだなぁ」

「元祖神器はそれらの名称よ。全部で10個あって、それぞれ使える神が数人に限定されているの。もっとも、それだけでは扱うことは不可能で」


 そう言った咲九は、"S" の上に "※" を描く。


「それぞれの条件がいくつも設定されているから、それらを全てクリアしないと、所持するどころか触れることすら出来ないの。ただし、クリアさえしてしまえば、神であれば誰でも悪用出来てしまう。だから、それらだけは境界の中に置いてあるわ」

「ということは、お前はその置いてある場所を知っているってことか?」

「えぇ」


 答えた咲九は、しかし、複雑な表情のまま目を閉じてしまう。


「実際には、その中のどこかにはある、ということだけね。大切なモノだから、きちんと管理人が居るの。その管理人が生きていれば場所を教えてくれるとは思うわ」

「生きていれば……」


 思わず、咲九と同じような表情をしてしまった。


 咲九の言葉には2つの意味があったと思う。

 1つは、寿命で死んで居なければ。

 もう1つは、殺されていなければ。


 しかし、どちらも可能性が高い話しだけに黙り込んでしまう。


「まぁ。きっと、大丈夫よ」


 咲九はそう言って目を開け、微笑む。


「私達がこうしてまた出会えたのだから、何れ時が来れば神器にも出会えるわよ」




 私は夢を見ていたらしい。

 そして、懐かしくて涙を流していた。


 気付けば、外は夜になっていた。


 近くに蓮のオーラが残っているものの、今はその気配も遠くにある。

 どうやら、寝ている間は蓮がここを、私らを守ってくれていたらしい。


「……いつまで皆に迷惑をかければ気が済むんだよ」


 自分にツッコミを入れてから、思念だけを4人の悪夢の中に飛び込ませていた。


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