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164 ☈ 悪夢結界② *

 悪夢結界の中に入ると、予想通りに2人の鬼面の術者が4人に瘴気を送り込んでいた。

 鬼面の2人は私に気付き、ほぼ同時に私を捕えようと身構えている。


 が、私だって何も考えずに入って来ただけでは無い。


『悪夢結界は術者をどうにかしねぇとならんが、それ以前に、外側の1つ目の結界を解けねぇと話しにならん』


 結界の主の発言を思い出しながらも、私はその結界に神器を突き刺す。


 転生の輪から強制的に外す神器なのだから、当然ながらこの結界自体もその輪から外されることになる。

 だが、この方法は前回もとっている。


『鬼面が操る瘴気は、鬼面から流れています。それを止めてしまえば、悪夢は操れなくなるはずです』


 今度は蓮の言葉を思い出しながらも、青の鬼面の、気配が消えては背後に回られていて攻撃される、という作戦をあっさりと避ける。


 その間に、もう1人の赤の鬼面が外側の結界の再生を唱えていることは、解っていた。

 青の鬼面の目的は、最初からその時間稼ぎということも過去の体験から解っている。


『あんまり、乱用はしたくないんだがなぁ』


 そう答えてから、私は神器を足場に刺した。そして魔力を送り込む。


 新東都タワーの構造を、関節部分だけに神器の魔力を注いでから神器を抜き、その先端を4人の支柱に向けてから、魔弾として放ってやった。


 青の鬼面は何をしたのか理解出来なかったようで、それだけで魔力を使い切って抵抗しなくなった私に怖くなったのか、少しだけ距離をとってくれる。


 しばらくして足元が揺れだしてくれた。


『狙いは、このタワーの崩壊ですか』


 冷静な赤の鬼面が私に訊ねた。

 ニヤリと笑って答えてやれば、赤の鬼面は呆れた様子で答える。


『ここが崩壊したら、貴方の仲間も死にますね。4人分の核は奪いましたから……あの4人は、今はもう、ただの女の子ですし』

『そうだな。でも、4人がここで堕転するよりはマシだろ?』


 4人から属性神の核が抜かれていることなんて、最初から解ってはいた。

 それでも、この4人が属性神であるという事実に変わり無い。


 この4人以外に、核が適応する者はこの世界には誰も居ない。

 だから、他の誰かが属性神に成り変わるということも有り得ない。


 それに、核を抜かれても数日経てば自然に戻って来る。

 もう二度と、そんな脅しには乗らない。


『お前らは、足場が無くなったら大変だよなぁ』


 そう言いながらも、背後から来た青の鬼面の攻撃を避ける。

 避けられるとは思わなかったのか、青の鬼面は制動距離で赤の鬼面の傍まで進んでいる。


『鬼面は、元は瘴気を治める女神の白い神器でした。ですが、その瘴気を集め過ぎたばかりに、女神が堕転してしまったようです。結果的に、鬼面も堕転を促すモノに堕ちてしまった』


 蓮の言葉が蘇る。


 女神の神器の大元は咲九が所持していた。しかし、咲九は神器が不完全だと解っていた。つまり、欠けた分は敵の誰かが所持しているのだろう。

 もっとも、そうなると鬼面の製造には限界があることになる。咲九曰く、それは64個くらいだと言っていた。それ以上の個数を作れば効果が薄れてしまう、とも。


 私は神器を、私が扱いやすい槍の形に変化させて身構えた。


 目標は、あの2人の鬼面を壊すこと。

 その為なら、私の魔力が程度に無くなっても良い。


 ……とは思いながらも、飴を口に放り込んだ。

 1日に1つまでと言われてはいても、こんな時に死んでしまったら元も子もない。




 もう何日経ったのか、どのくらい眠っていないのかも、既に解らない。


 何度目かの攻撃で、やっと2人の鬼面にヒビが入ってくれていた。

 そして、最後の一撃をほぼ同時にお見舞いする。


 2人からの重い攻撃を腹部と後頭部に受けたとはいえ、青の鬼面には完全に深いヒビが入っていた。

 そして、とうとうその鬼面の一部が割れる。


 その中から垣間見えた顔を見て、私は思わず固まってしまっていた。

 数ヵ月前のトラウマが一気に蘇って来る。


『お前ら――』

『煩い!!』


 そう先に怒鳴ったのは青の鬼面だった。

 青の鬼面は顔を隠しながらも続ける。


『元はと言えば、貴様らの所為だ!! 貴様らが属性神でなければ、私らが属性神だったらよかったのに!!』


 過去の記憶を辿りながら、私はやっとのことで2人から咲九が恨まれるようになった原因を探り当てていた。



 魂は双子で生まれる。ただし、どの身体にどの魂が入るかはランダムに決められているらしい。

 なので魂が双子でも、この世界で双子とは限らない。まして同性とも限らない。


 ただし、属性だけは同一だと伝わっているらしく、片方が神に成れたらもう片方も神に成れる素質はある、とは噂で聞いたことはあった。

 どういう理屈かは解らないが、四大神はその魂が双子だったと知ることが出来ると云われている。


 里の主が四大神の1人・邪神であれば、青の鬼面が宮本と魂の双子であったことを言い当てていて、且つ、言い様によっては宮本や、引き継ぐことが出来なかった神の核を収集し、次の後継者を選ぶ役目だった閻魔の咲九を、青の鬼面から怨まれるように仕組んだ可能性は高い。


 が、こればかりは反論のしようがなかった。

 確かに、大元は咲九が悪かったのだと思う。でも、咲九が選んだのが水神に成り得た宮本というだけ。


 ただ、そのことが青の鬼面には気に食わなかった。

 もし逆の立場なら、私も青の鬼面のように咲九を恨み続けたのかもしれない。



『貴様らさえ居なくなれば――』


『そこまでにしようか』


 おぞましい気配と共に、それは突如として2人の傍に現れた。

 過去の記憶から瞬時に "死神様" を名乗る里の主だと悟る。


 しかし、過去にそんな場面は一度も無かった。だから様子を窺うことにする。


『しっ、死神様?!』


 青の鬼面は頭を下げようとするものの、里の主は気にする素振りすら見せず、返答の代わりに2人の首根っこを掴んでいた。

 瘴気が2人に注がれることが解る。


 その場面は、違う場所で何度か見たことがあった。

 だからその2人の結末が見えていただけに、この場に居ないもう1人の鬼面はどういう行動に移るのかと不安にさえ感じていた。


 瘴気をたっぷりと与えられた2人が変貌する。

 その間にも、里の主は私を一度も振り返ることなく消え去っていた。


 2人は苦しそうにしていたかと思えば、突如として笑い出す。

 これも、過去と全く同じ光景だった。


『さて、と』


 困惑しながらも、私は臨戦態勢になる。


 相手が誰であろうと、今の私に戸惑いはない。

 このままでは4人が危険なことは、解っているのだから。


 これが咲九なら2人に構わず真っ先に4人を助けに行く。

 そして結界で守るだろう。


 だが、私にはそこまでの度量は無かった。


 既に戦う意志を見せている2人――否、3人に対して失笑してしまう。


『少しキツイかな。しかしまぁ……問題は無い、か』

『問題無い訳がないだろ』


 私の隣には緑の鬼面が降り立っていた。

 その緑の鬼面は大きな溜め息をついている。


『宛てにされては困る。私は敵だぞ??』

『そうだったな』


 答えながらもチラリと隣を見て、向かいの2人を見ながら、2人がほぼ同時に放って来た魔弾を余裕で避ける。

 もっとも、これが目晦ましだったことも、良く解っていた。


 青の鬼面がこちらに向かって走って来ている。

 それを気配だけで追い、避け、背中に一撃を食らわせようと神器を揮う。


 しかし、瘴気を貰った青の鬼面は予想外に頑丈だった。

 神器が跳ね返されて、代わりに仕込んでいたらしい相手の一撃を腕に貰う。


『足を狙う。他はみねうち程度にする。だから、そっちは任せても良いか?』


 私の問いに緑の鬼面が頷いた。


 私だってまだ殺人鬼には成りたくない――過去においても、私は一度も人殺しをしたことがなかったのだから。

 それに今ここで本気を出せば、悪夢を見る4人に(私の放つ瘴気の)影響が出ないとも限らない。


 そもそも、過去に同じようなことが起きた時にも、誰かが間に入ってきていることは覚えていた。が、残念ながら誰だったのかまでは覚えてはいない。

 その誰かが2人を連れ帰ってくれたことだけは間違いないのだが。


 青の鬼面の攻撃には癖があった。

 気配を絶ちながら短剣は揮えないらしく、姿を見せる時に気配も現れていた。

 しかし、その気配や動きには法則がある。


 だから、私はわざと隙を作ってやった。

 その隙に強固な結界を張っておく。


 案の定、飛び込んで来た青の鬼面に強力な一撃を食らわせてやった。

 が、狙いの足は守られてしまう。


『(足がやられたらダメだってことは解っているんだな。それなら、ちょっと荒技だが……)』


 私は敢えて結界を解き、代わりに電撃の術式を広げる。

 気配は無くとも、その術式に入って来ただけで足に電撃が走るという至って簡単なモノ。


 我を忘れて居なければ入って来ることは無いのだが。

 それでも青の鬼面は罠に入って来る。


『あががががががぁ……』


 機械が故障したかのような声を上げて、青の鬼面が失神して倒れていた。

 その隙を見逃さずに青の鬼面を思い切り神器で引き剥す。


 そこには、やはり予想通りの顔があった。

 しかし、無理に剥したためか瘴気の影響で顔の大半に術式が書き込まれたような状態になっている。


 驚愕した赤の鬼面が声を発しようと、その名を呼ぼうとしていた。


『帰れ!』


 それを遮って私は怒鳴っていた。

 そして緑の鬼面を振り返って金色の目で睨みつける。


 もう、4人の悪夢が輪廻している時間は殆ど残されていない。

 悪夢の輪廻が終われば誰かが堕転するだろう。


 だから感傷に浸られる前にこの場を立ち去って欲しかった。


『お前らが何をしようが構わないが、オレらの邪魔だけはしないでくれないか。オレらはただ、オレらが皆で生きている未来に進みたいだけ。それを邪魔する者はクラスメイトであっても許さない』


『……未来』


 赤の鬼面がボソリと呟いていた。と同時に赤の鬼面が立ち止まる。


 それを聞くか聞くまいか。

 緑の鬼面が私の傍で伸びていた青の鬼面を回収し、空間に巨大な黒い穴を開けてくれていた。


『仲間が邪魔をした。このまま連れて帰るから、そっちの4人を起こせば良い。もっとも、もう手遅れかもしれないが……』

『手遅れにはさせない』

『……そうか』


 緑の鬼面は答え、赤の鬼面と共に穴に一歩を踏み出す。


『瘴気はその神器である程度まで祓える。皆で輪を作る様にすれば、巡り巡って瘴気を薄くすることは出来るはずだ』


 そんなアドバイスに私が唖然としている間にも、緑の鬼面は2人を引っ張って穴の中に姿を消してしまっていた。

 答えようとした時には既に穴も消えてしまっている。


 私は溜め息をつきながらも、小走りで宮本に近付いて行った。


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