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161 ☈ 悪夢結界① *

『ミスったな……』


 私は独り愚痴りながらも電車から降りていた。


 すっかり忘れていたが、電車は私鉄しか動いていない。

 そして、当たり前ながら私が現場に到着する時間を遅らせようとする輩は目の前に現れていた。


 人身事故で道中の駅で足止めを食らった私の周囲には黒い仮面による弧が出来ている。

 黒い仮面が、かなりの人数を人質にしていた。


『さて、操縦されているって解っているのに、ゾンビゲームみたいに易々と生きた人間を殺したくはないしな。仕方ないから、この場から逃げてやんよ!!』


 私は怒鳴り、そして咲九から教わっていた禁術を使う。

 自らの指先を少しだけ噛み切り、わざと血を出してその血で両足に魔法陣を描いた。そして、その魔法陣に魔力を込める。


「(……やっぱり、クソ痛ぇ……!)」


 禁術は、使い過ぎれば危険が伴う。だから永久凍結されている術。

 使用した血は時間が解決してくれるが、描いた陣に魔力を込めることで火傷のように痕が残ってしまう。しかも、使用しなくても血を落とさない限り魔力は消費され続けるし、血を落としても火傷の痕が残る限りその治療で霊力を消費し続ける。


 それでも、今はまだ人を殺したくは無かった。

 それでも、皆を助けに行けるのは私だけだった。


 故に、咲九ですらあまり使いたがらなかったという飛行の術を使い、その場から離脱することにした。




 その後は、悠然と空を飛べていた。


 黒い仮面で空を飛べる者が少ないことは、前々から咲九や蓮が言っていて知っていたことではあったが、それでも予想より少ない気はする。

 というか、遥か上空の巨大な影にさえ気を付けていれば黒い仮面に奇襲されないとは聞いていたが、ここまで平和だと逆に緊張してきてしまう。


『……どこかで、誰かが暴れてくれてんのかもな』


 何となく呟いてみた。

 が、それが正解のような気がして失笑してしまう。


 空を飛ぶという禁術の所為でかなり魔力が消費されている為か、咲九のように戦う余力は全くない今の自分に溜め息をついてしまう。

 そして、この事実をも知っているとすれば、蓮か白雲運河あたりだろうとは思う。



 雷神の記憶を取り戻してからというものの、予期したことは大体が当たりという幸運を味方に付けるようになっていた。逆に言えば、それだけ推理・推測出来るくらいの情報を持っているということにもなる、なんて咲九は遠回しに言っていた。

 自分でも、どうしてそのような結果を導き出したのかも解らない間に、どんどん先が読めるようになっていた――まるで咲九の思考や情報が入って来ているかのように。


 とはいえ、油断は禁物。


 ――過去に油断した私は、このあたりで堕転している。


 堕転ははっきり言って清々しい気持ちになる。

 強欲な私が、全てを手に入れられないなら壊してしまえば良いと願った結果、その過去の世界では悲惨な結末を迎えた。


 世界が幾度も、それこそ地面が1ヶ所も無くなるほど崩壊したというのに、あっさりと何事も無かったかのように輪廻したということは、私ら属性神の結果とは関係なく違うモノが作用して輪廻しているということだとは思う。

 しかし、4人を助け出すこの件に関しては輪廻のことを悩まなくて良い、と森を出る直前に蓮と結界の主が言っていた。つまり、輪廻のことを知っているのは属性神以外にもいる、ということ。


 恐らくは咲九やリュウ様も知っていたからこそ、私を支えてくれていたのだとは思う。

 しかし、どれも確証がある訳では無かった。




 そんなことを考える間にも、私の目に新東都タワーが見える位置まで来ていた。

 そして上部に黒い結界があることが解った。


 まだ遠目だが、その中の支柱に東西南北の方向で4人が縛られていることも、その4人の中で一番危険そうなのが、現状では風見だということも見てとれた。


 不意に、私のすぐ近くに迫って来た建物の上部から強力な気配を感じ取る。

 敵意は感じなかったのでスルーしようとしたが、相手は私を待っていたらしい。


『……来たか』


 その一言で一瞬だけ咲九の気配を感じた私は振り返る。が、それは全くの別人だった。

 緑の鬼面が私の視界に入る。


 鬼面は敵だと蓮が言っていたものの、それでも相手からは敵意を感じなかったので一旦下りてみることにした。


『ここで何をしていたんだ?』


 降り立った私は相手を見てそう訊ねてみた。


 私が来ることを知っていたということは、相手も過去を覚えている者なのだろうと思ったからだった。

 が、今までの過去にこういうことは無かった。


 相手は少し悩んだのか、しばらくしてから返答する。


『あの中に守りたい人が居るから、雷神がここに来るまで4人の堕転を抑えていた』


 その一言に私は黙ってしまう。

 それは、敵か味方か――訊ねようとしたものの、あまり聞かない方が良いと判断して溜め息をつく。


 もし過去を覚えているのであれば、この場で堕転したのは風神だったことからも、相手は風神を、風見を守ろうとした、ということだろうか。


 しかし、禁術による魔力の消費が激しかったからか、思考能力も低下していたのだろう。あまり深くは考えたくなかった。

 故に、今の内に少しでも羽休めしておこうと思考を変えた。


『だが、予想よりかなり早い到着だったから、その必要も無かったようだが』

『そうだな。少し飛ばして来たことに変わりは無い』


 そう答えてから、咲九が使っていた魔力回復の飴を口の中に放り込む。


『お前も、要るか?』

『……貰っておく』


 相手がそう答えたので、私はもう1つを投げて渡した。

 相手も上手くキャッチして口に放り込む。


 しばらく間が空いたものの、その鬼面の相手を知るには十分だった。

 飴を通して強い意思と複雑な心境がオーラに乗って伝わってくる。


 ――咲九もこうやって相手のことを知っていたんだろうな。


『行ってくるわ』


 私はそう言いながら足に魔力を込めた。

 相手は何も言わずに私を見上げている。


『まだそこに居るつもりなら、しばらく周囲を様子見していてくれないか?』

『敵である自分に、それを頼むか?』


 その通りではあったが、今は違う。

 過去を知る者同士、恐らく目的は一致している。


『お前は友達を助けたいんだろ? 友達をオレに殺されたくなかったら、そのくらいやってくれ』


 そう答えた私は相手の返答を聞かずに4人の方角へと向かった。


 答えは、聞かなくても解る。

 私と同じくらい仲間を守りたい、助けたいと思っている相手が断れるはずが無いのだから。


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