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158 ☴ 悪夢か凶夢か④


 ――何度目だろう。



 本家から我が家に、わざわざ出向いて頂いた兄上が私に命じた一言に耳を疑っていた。


「あの、兄上……今、何と……」

「宮本家の幼き巫女を殺して来い、と言った」


 兄上はそう言いながら庭を見た。


「あの巫女は恐ろしい! 我が風見家の風紀を乱す恐れがある」

「し、しかし!!」

「お前がやれぬというのであれば、貴に命じるまで。別にお前では無くても良い」

「み、宮本家は!!」


 私は居ても立っても居られずに話そうとした。だが、兄上に逆らってはいけない。私は思いをぐっと堪えて、下を向く。


「……畏まりました。兄上の言う通り、殺して参ります」

「そうか、そうか」

「その代わりに、1つだけ許可して欲しいことが、ございます」


 顔を上げた私の発言に兄上が目を丸くしていた。気にせずに続ける。


「任務を果たして戻って来た際には、私のその任務の記憶を消して頂きたいのです」

「何……だと?」

「約束して頂ければ、確実に任務を成功させて戻って参ります」


 その最後の一言が決め手だったのか、兄上は頷いて答えてくれていた。



 黒い仮面を着けた私は千尋の前に立っていた。


 周囲に居た雑魚共は既に気絶させている。

 残るは、千尋だけだった。


 だけど、私には千尋を殺す勇気までは、無かった。


「うっ……」


 胸が苦しくて、焼き切れそうだった。それでも兄上には逆らえない。



 そんな葛藤が、私を堕転に導く。



 全て殺した私には、もう何も残されてはいなかった。

 何の気配もしない大地にただ独りで立っているかのような錯覚。


 そこに何者かが唐突に現れた。


 それをも殺そうとし、短剣で相手の喉元を狙う。

 だが、そんな相手もかなりの強者だったらしい。私の喉元に鎌の刃が宛がわれていた。


『動かないで』


 相手の一言に素直に従った。

 ということは、即ち私よりも相手の方が上手ということ。


『これ以上、貴方を堕としたくはない』


 その一言で私は全てを悟った。

 相手の姿を見て死神だと悟った私は笑顔を見せる。


 転生には時間がかかる。

 だが、転生しなければ私は風神としてこの場に帰って来ることは出来ない。


 堕転した魂が転生出来るかどうかは五分五分。

 それでも、私はまたこの場に戻って来たかった。


 ――出来ることなら、千尋を殺さない道を選びたかった。


『その想い、絶対に忘れないで』


 死神の一言と共に、私に終止符が打たれていた。






 ――何度目だろう。



 黒い仮面を着けた私は千尋の前に立っていた。


 周囲に居た雑魚共は既に気絶させている。

 残るは、千尋だけだった。


 だけど、私には千尋を殺す勇気までは、無かった。


「うっ……」


 胸が苦しくて、焼き切れそうだった。

 それでも兄上には逆らえない。


 葛藤が、私を堕転に導いていた。

 しかし、それを助けてくれたのも、千尋だった。


 千尋は私の刀を下に振り落としてから肩に手を乗せる。


「大丈夫?」


 それだけで、何故か涙が溢れ出て来ていた。


 殺さなければならない相手に同情されることは、非常に情けないことだとは解っていた。だけど、この気持ちを理解されることは今までに無かっただけに、私はもう訳も解らず泣きじゃくってしまっていた。

 仮面の下から涙が溢れ出て、服まで濡らし始めている。


「千尋ちゃん!!」


 誰かの声がしたかと思ったら、私の背中が温かくなったことに気付いた。そして、背中に何かが刺さったことを悟る。


 ――それで良いと、思っていた。


 目の前の千尋が目を丸くして、倒れ行く私を見つめている。


「また、だ」


 千尋がボソリと言葉を漏らす。


「また、助けられなかった」


 不意に周囲の風向きが変わった。

 その風が千尋を中心にしてまとまり出す。


 風神の私でも驚くほどの魔力で、()()()()()()()()()()()()()()()


『彼女は貴方を助けたかったの』


 そんな声が私の耳元に聴こえて来た。

 だが、私はもう顔を上げることも、千尋の風を見ることも出来ない。


『もう二度と、目の前で誰も死んで欲しくないから。彼女は前回の貴方のことも助けてあげたかった。でもね、無理なの。貴方が選んだこっちの世界では、どちらも救うことは出来ないの』


 私はその言葉を耳にしながら力尽きていた。






 ――何度目だろう。



 本家から我が家に、わざわざ出向いて頂いた兄上が私に命じた一言に耳を疑っていた。


「あの、兄上……今、何と……」

「宮本家の幼き巫女を殺して来い、と言った」


 兄上はそう言いながら庭を見た。


「あの巫女は恐ろしい! 我が風見家の風紀を乱す恐れがある」

「し、しかし!!」

「お前がやれぬというのであれば、貴に命じるまで。別にお前では無くても良い」

「み、宮本家は!!」


 私は居ても立っても居られずに話し出す。


「わ、我が家にとっては恩人……決して今の関係を乱してはなりませぬ!」

「……もう良い。お前は下がれ」


 冷たく兄上は答え、私に絶望したかのような目線を向けていた。




『結局、(これ)が正しい選択だった』


 私は呟いてゆっくりと目を閉じる。




 過去の私は、斜め下あたりで兄上の儀式を疑いも無く受けている。それが記憶を改竄されるものだとも知らずに。

 だが、こちらの選択をしなかったら――千尋も私も今頃、またこの世界に戻されていただろう。


 そう思うだけでゾッとした。


 ただし、こちらだと事件に私が関与しないので、千尋がどうなったのかという結末を知らなかった。



 この後、私は病院で "カナコ" から "白金小次郎" という刀を貰う。その神器を大切に、しかし兄上にはバレないように保管していた。

 しかし、記憶を奪われた私は普通に良いモノだからと使用する。そして千尋の家に襲撃した際に誤って紛失した。


 ――ところが、その刀は千尋が拾ってしまうらしい。


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