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157 ☉ 悪夢か凶夢か③


 ――何度目だろう。



 目が覚めると、そこは自分の家の中だった。


 昨日までの記憶が思い出せないまま、ベッドから落ちるように床の上に転がり下りる。

 これが、私の普段の起き方だった。


 全身が痛いことから、昨日もパパから修行を受けていたのだろうと思った。

 そして思い出そうとする、修行の内容を。


 でも、修行の最中はもう1人の私が出て来てくれていたのか、詳しくは思い出せなかった。

 もう1人の私に声をかけても、最近は全く答えてはくれない。


「香穂里お嬢様」


 メイドが私を起こしに来た。


 だけど、どうしてだろう。

 メイドに違和感があった。


 とりあえず、メイドに着替えを所望する。

 私の着替えを準備して、手際良く私を着替えさせてくれた。


 違和感は私の気の所為だったのか、すぐに馴染む。


「本日は薔薇の紅茶を用意させて頂きました」

「えー、」


 私はそれが苦手だった。

 あの独特の香りが嫌いで口を尖らせる。


「何でそれにしたのよぅ」

「奥様の希望でして」


 その一言に私は驚いた。

 が、すぐにその理由も忘れ、素直に受け止めることにした。



 パパとママとの豪華な朝食を終え、パパが仕事に出掛けた。


 すぐに部屋に籠ってしまったから、その間のことは解らない。

 が、しばらくしてママが私の部屋を訊ねて来た。


 絵本を読んでいた私の前にママが軽く座ったので、ママを見つめる。


「香穂里、今から大事なお話をするから、良く聞いてね」

「うん!」


 ママのことは大好きだった。パパとは違って優しいし、温かい。


 そんなママが嬉しそうに口元に人差し指を付けてウィンクする。

 これは、ママと私だけの秘密を共有する時の合図だった。パパには秘密ということ。


 だから、誓いの証拠として私もママと同じように仕草を返す。


「今日ね。ママの大切なお友達が来るの」

「ママの?」

「うん、そう。香穂里はママのお友達と仲良く出来る?」

「もちろん!」


 ママの友達ということは、私だって仲良く出来るはず。

 そう思って思い切り答えていた。


 ママも、それはもう嬉しそうに喜んでくれている。


「なら、ママと一緒に1階で待ちましょうね」



 それから数十分としない間に、そのママの友達はやって来た。

 そして、私は自分と同じくらいの女の子が一緒に居ることを知った。


 その子は私の前まで来ると、私の両手を取って口を開く。


「はじめまして!」

「え、あ、……」


 私はママを振り返った。

 ママは笑顔で頷いてくれたので、安堵してその子を見て答える。


 許可が無ければ、友達を作ることは許されていなかったのだから仕方ない。


「こ、こんにちは」


 今にも消えそうな声だった気がする。

 だけど、そんなことも気にせずにその子は笑顔になってくれた。


「ボクは紗穂里! キミが香穂里ちゃんだよね?」

「う、うん……」


 どうやら相手は私のことを聞いていたらしい。

 教えておいてくれても良かったのに、何て思って少しだけママを恨む。



 だが、そこからはまだ私も子供だった。


 あっという間に紗穂里と仲良くなった私は、パパの目を盗んでは何度も会うようになっていた。

 が、パパが帰宅した日の夜や休暇の日は、パパの修行の所為で会うことは出来なかった。


 それでも、紗穂里が居たから修行に耐えることが出来ていた。


 明日は、明後日は、また紗穂里に会えるから。

 そう思えたら、頑張れた。


 それだけが私の生き甲斐になっているとか。

 パパのその修行の所為で命を削っているとか。


 そんなことも気付かずに、ただ必死にそんな生活を送った。



 そんな幸せな日々は、しかし、そう長くは続かなかった。


 紗穂里と一緒に公園で遊んでいたある日、唐突に胸が痛くなった私は、そのまま倒れ込んでしまったらしい。

 病院に送られたものの、その時にはもう、余命1年を切っていた。


 それでも修行をしようというパパをママが引き止めてくれたものの、パパは言うことを聞くような人ではなかった。


 看護師やママをあっさりと殺したパパは、それでも私を家に連れ帰った。


 胸が痛いまま、私は修行に耐える。

 全身が悲鳴を上げても、私はパパの修行に耐え続けるしか無かった。


『――香穂里!!』


 パパが私を引き摺って部屋に投げ込んだ途端、私の耳に紗穂里の声が聴こえてきた。


『事情は病院から聞いている! 今すぐ家を出て! 家の前で待っているから――ボクと逃げよう?!』


 私は頷いた。

 だけど、もう声が出なかった。


 蘇生術の修行には、私の血が必要だった。


 だからだろうか。


 血を出した途端に止血出来なくなって、パパに殴られた。

 が、そんな殴られた場所からも血が出て来て、自力では止められない状況に陥っていた。


 だから、今日の修行は諦めてもらえていた。

 しかし、そんな状態で動けるはずがなかった。


 もちろん、紗穂里の声にも答えることは出来ない。

 明らかに魔力が足りなかった。



『魔力暴走する一歩寸前、というところかしらね』


 不意に耳元で声がして薄めを開ければ、私を覗き込む1人の黒いワンピースを着た子が見えた。


 大きめの鎌が背中の向こう側にあるのが解る。

 顔までははっきりと解らなかったものの、それが死神だということは理解した。


「私を、殺して」


 掠れながらも出した声は、自分のモノには思えなかった。


 紗穂里の声にも答えられない自分が嫌だった。

 涙が勝手に流れ出て来る。


「死にたい……」

『……そうね。それが良いわ』


 死神は答えながらも、私をゆっくりと持ち上げてくれたらしい。

 が、もうそんなことも感覚だけでしか解らなかった。


『でも、()の中では死にたくないでしょう? こっちで死んだら、貴方はまた蘇生され、辛い思いを強要される』


 頷くことも出来ないまま、私の身体は家の外に運ばれていた。


 涼しい夜風が私の全身を包み込む。


 不意に、凄く温かな手が私の両の頬に触れた。

 それが死神と、紗穂里の手だと解る。


 ――が、その時点で死を覚悟した。






 ――何度目だろう。



 目が覚めると、そこは自分の家の中だった。


 昨日までの記憶が思い出せないまま、ベッドから落ちるように床の上に転がり下りる。

 これが、私の普段の起き方だった。


 全身が痛いことから、昨日もパパから修行を受けていたのだろうと思った。

 そして思い出そうとする、修行の内容を。


 でも、修行の最中はもう1人の私が出て来てくれていたのか、詳しくは思い出せなかった。

 もう1人の私に声をかけても、普段は全く答えてはくれない。


「香穂里お嬢様」


 メイドが私を起こしに来た。


 だけど、どうしてだろう。

 メイドに違和感があった。


 とりあえず、メイドに着替えを所望する。

 私の着替えを準備して、手際良く私を着替えさせてくれた。


 違和感は私の気の所為だったのか、すぐに馴染む。


「本日はツバキの紅茶を用意させて頂きました」

「ツバキの……?」


 珍しいモノには興味を惹かれる。

 当然ながら、飲んでみたいと思って一気に目が覚めた。



 パパとママとの豪華な朝食を終え、パパが仕事に出掛けた。


 すぐに部屋に籠ってしまったから、その間のことは解らない。

 だけど、今日はパパの帰りが早いことは知っていた。


 だから絵本を読んで静かに待っていようと決めていた。


 お昼を過ぎ、おやつの時間を過ぎても、メイドもパパもママも私の部屋には訊ねてくれなかったらしい。

 いつの間にかベッドで寝てしまっていた私は、日が暮れ始めてから目を覚ます。


「・・・?」


 不思議に思った。


 お昼にはメイドが迎えに来てくれるし、パパが帰ってきたらすぐ修行だからパパが迎えに来てくれるし、おやつの時間にはママが迎えに来てくれるはずだった。

 なのに、誰も来ない。


 それどころか、普段のこの時間であればメイドが夕飯を作ってくれているはずなのに、今日は凄く静かだった。


 今日は外食だったかな、なんて思いながらもリビングの扉を開ける。



 そこは一面、赤く染まってしまっていた。


 まるで私が修行で人殺しをした後のように、真っ白のソファーが、壁が、天井が、床が、何もかもが赤く染め上げられていた。

 そして、庭に続くところのロッキングチェアにママがダラリと座っている。


「ママ……?」


 声をかけてみたが、反応が無い。

 私は近付こうと一歩を踏み出して、何かを踏む。


 足を上げて良く見れば、それはパパの顔だった。

 が、後頭部が無い。


「……なん、で……?」


 今日の朝までは、パパとママは楽しそうに会話を交わしていたはず。

 なのに、何があったらこういうことになるのか、私には全く解らなかった。


「ママ!!」


 私はパパを踏みつけないようにしてママに近付いていく。

 だけど、ママは全く反応してくれなかった。


 私がママの傍に立っても、ママはピクリとも動かない。


 だから、ママを揺すった。


 それでもママは動かない。

 ただ椅子から滑り落ちるだけ。


「……何で……」


 何があったのか、解らなかった。

 どうしたら良いのか解らなくて、私はその場でしゃがみ込む。


 頭が痛くなってきて、やがて自分が涙を流していることに気付いた。


『覚えていないのね』


 不意に声がして顔を上げれば、1人の黒いワンピースを着た女の子が立っていた。それを死神だと感じ取った瞬間、私は無意識に距離を取っていた。


『私は敵では無いわ。ただ、事実を伝えに来ただけ』


 そう言った死神は悲しそうに空を指す。

 空には黒い壁があった。


『この壁の内側を隅々まで見て来なさい。そうしたら、きっと貴方でも思い出せると思うから』

『……死神の言葉何て誰が聞くものか!!』


 そう答えてから、私は目を丸くしていた。

 もう1人の内なる私が続ける。


『そんな戯言、聞くな!!』

『それを決めるのも貴方よ』


 死神は答えてから手にしていた鎌を構えている。


『何が起こったのか知りたいのであれば、見て来なさい。ただし、どちらにしても貴方はここで死ぬわ。貴方が事実を知っても、知らなくても、私には関係のないことだから。だけど、事実を知りたいのであれば、時間はあげる』

「知りたい……」


 私は答えた。


 もう1人の私は煩いくらいに行くな、聞くなと騒いでいたものの、それを抑え込みながら死神に口を開く。


「事実を知りたい。だから、時間を頂戴」


 どちらにしても死神に殺されるのであれば、知ってから殺された方が良いに決まっている。

 それに、死神に炎神の私が殺されるということは、それだけ神様の私がやってはいけないことをやってしまったからなのだと、心のどこかではそう感じ取っていた。


『……解ったわ。10分あげる』


 死神は答え、鎌を下ろしてくれた。


『でも、それ以上は待てない』

「解った」


 私は答え、自身の犯した罪を見に行った。



 黒い壁の中の住人は、大半が心臓の部分だけを抜かれて死んでしまっていた。

 中には元が人間だったのかすら解らない状態のモノもあった。


 相変わらずもう1人の私は煩かったものの、死神が居続ける場所に戻って来た私は目を覚ます。


「あ、あ、ああぁ……!!」


 急に喉から酸素が吸えなくなり、代わりに瘴気が嫌と言うほど私の回りに集まり始めていた。

 それを吸う度に、何があったのかを思い出す。



 その日は、部屋に籠って静かに本を読んでいた。


 しばらくしてパパが帰って来た。

 そのパパが、私に言う。


「今日は特別な修行だ」

「特別?」


 その単語に嬉しくなってパパに飛びつきながら、訊ねる。


「何をするの?!」

「ママを殺しなさい」


 その一言に、私は耳を疑った。


「……え?」

「だから、ママを殺すんだよ。いつも殺している方法と変わらないよ。殺して、頭をパパの前に持って来なさい」

「え、……え??」

「解らず屋だな!!」


 急にパパが私の身体を引き剥し、広い部屋の窓際の壁まで投げ飛ばす。


「ママを殺せって言ってんだよ!! 言うこと聞けよ、この餓鬼が!!」


 理解出来なかった。

 パパがそんなこと言う何て思えなかった。


 だけど、今の弾みでもう1人の私が出て来てしまう。

 こうなってしまうと、私でももう制御は出来ない。


『……ママを、殺す』

「あぁ、そうだ。それで良い」


 私はだるい身体を引き摺るようにして1階のママの元に向かった。

 ママは解っていたのか、笑顔のまま私を振り返り――そのまま私に殺された。


 それを見ていたパパは歓喜している。


 そんな声が私に聴こえる前に、もう1人の私はパパをも魔弾で殺していた。


 パパの上半身が吹っ飛んで散り散りになる。

 その頭だけは2等分で済んだのか、残された下半身の前に転がった。


 あまりの瞬時の出来事に声を出すことすら忘れていたのか、ママの為に入れていたらしいカップを下に落としたメイドが残っていることを、その音で知った。


 だから、殺した。


 すると、どこからともなく瘴気が集まって来て、やがて私の中に取り込まれて行くのが解る。


「止めて……」


 私が必死に言う。


 だけど、もう1人の私は止まるどころか、瘴気を集め続けていた。どうやらもう1人の能力でも止めることが出来なかったらしい。

 そして、その集めた瘴気を一気に外に放つ。


 それは黒い壁と化し、全てのモノを殺す悪魔の部屋を作り出していた。



『解った?』


 私の傍に死神がやって来ていた。

 頷いて、私はその死神の前に膝を着く。


「……お願い。これ以上、誰も殺したくないの。だから、」

『解っているわ。その為に来たのだから』


 死神は答えてから、鎌を構える。

 これで終わりだと思って、私もゆっくりと目を閉じた。


『これで、今回も終焉には向かえなかったわね』

「これは、終焉ではないの?」


 目を開けて、訊ね返した。

 死神は微笑みながら答えてくれる。


『えぇ。貴方がこの世界から消えてしまったら、この世界も終焉に向かえなくなるの。終焉に向かえない世界は、新たな世界には進めない。つまり、誰も成長出来ないの』


『それは、()()?』


 もう1人の私が答える。


 死神は頷いてから、その鎌を振り上げていた。


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