155 ▲☴ 悪夢か凶夢か②
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▲ 視点
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――ここは、どこ……?
もう、心がボロボロになりそうだった。
香穂里が父親から受けていたモノは、決して修業と呼べるような内容では無かった。
何人もの人間を殺し、その度に方法が違うと父親から殴られている。
やっと父親から帰宅の許しが出た時には既に顔は膨れ上がり、メイドの(恐らくは固有能力だろう)整形術で治してもらっていたものの、その時には異音と共に香穂里の悲鳴が部屋から聴こえて来る。
そんな光景を、
もう何度も、
何十回も、
何千回も、
何度も、何度も、……見させられていた。
香穂里を助けに行きたいのに、私の身体はどこも動かない。
ただ毎回、その場面を香穂里の斜め上や部屋の外から眺めているだけ。
そのためか、心底から怒りとも、憎しみとも解らぬ感情が込み上げて来ていた。
香穂里の父親を殺さない限り、香穂里は決して幸せにはなれない。
だけど、香穂里は父親の許しを貰えることを、父親に褒められることを凄く喜んでいる。
だから稀にメイドが見るに見かねて父親に抗議しても、そのメイドの行為を香穂里自身が止めに入ってしまっていた。
そう――香穂里にとっての幸せは、父親に褒められることだけだった。
だから、香穂里の父親は殺せない。殺してはいけない。
この葛藤に苛まれてしまうあたりで、また同じ翌日はやって来てしまう。
――これが、香穂里の過去なの?
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☴ 視点
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本家から我が家に、わざわざ出向いて いただいた 兄上が、私に命じた一言に耳を疑っていた。
「あの、兄上……今、何と……」
「宮本家の幼き巫女を殺して来い、と言った」
兄上はそう言いながら庭を見た。
「あの巫女は恐ろしい! 我が風見家の風紀を乱す恐れがある」
「し、しかし!!」
「お前がやれぬというのであれば、貴に命じるまで。別にお前では無くても良い」
「み、宮本家は!!」
私は居ても立っても居られずに話し出す。
「わ、我が家にとっては恩人……決して今の関係を乱してはなりませぬ!」
「……もう良い。お前は下がれ」
冷たく兄上は答え、私に絶望したかのような目線を向けていた。




