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144 ☈(※) 展示会③

 やっと遊園地に辿り着いた時には、既に日は西側に傾きかけていた。


 まさか私鉄しか動いていないとは思ってもいなかった挙句に、途中で徒歩区間があったのだから仕方ないとはいえ、始発で出て来た身としてはもう疲れ果てていた。

 が、蓮はそれすらも覚悟していたらしい。


「だから、情報は大切だと言いましたよね?」

「解ってるっつーの。……にしても、」


 入園してからずっと思っていた、妙な違和感。


「何でこんなに濃厚な瘴気が漂って……」

「……何か起きるのかもしれないですね」


 蓮はそう答えながらも奥を指す。

 その先にはテントの頭だけが見えていた。


「サーカス団のテントは園内でも一番奥のようですね。とりあえず、先に進みましょう」


 その一言で私は溜め息をついた。

 が、もう歩きたくない、という本音は飲み込む。


 恐らくは、私よりも蓮の方が気疲れしていると思う――ここに来るまで結界を張り続けてくれていたのだから。

 故に、蓮に続いて渋々歩き出すことにした。




 蓮が言っていた通りに、園内でも最奥にあるのがサーカス団のテントのようだった。

 しかし、今日は中央の建物で特別なイベントが行われているらしく、サーカス自体は始動していない。更にその周辺の乗り物はメンテナンス中らしくスタッフの姿すらなかった。

 その影響か、周辺には人の気配が全く感じられない。


「ここから中に入れそうですね」


 テントの回りを1人で一周した蓮は、色褪せた "立入禁止" の三角コーンの奥へと進んで行く。

 それに習って続けば、やがてテントの裾が捲り上げられた箇所を発見する。


 そこから私らは中に入ることにした。



 中は外よりもかなり涼しかった。が、悪霊が好みそうな暗さなのに漂っていないことに気付き、奥の薄気味悪さも相まって余計に身震いしてしまう。


 蓮は中を見回し、やがて何かに気付いて立ち止まる。


『貴方が例の堕天使ですか?』


 蓮が私の腕を強く下方に引っ張り、引き摺られる形でしゃがみ込む。

 と、頭上を何かがかすめて通り過ぎて行ったことに気付いた。


 それが複数の魔弾の1発目だったことは、しばらくこの体勢で待っていてから気付く。


『……姉さんと秘密裏に会っていたのは、貴方で間違いないんですか?』


 蓮は冷静を装っていた。

 しかし、私の腕を握る手にはかなりの汗を掻いていたし、何より声が上ずってしまっている。


『姉さんは、数日前に死にました。だから、遺言に沿って会いに来ました』

『……そうでしたか』


 凛とした青年の声だった。蓮の舌足らずな声とは違う。


 すると、急に周囲が明るくなった。

 そして、ほぼ目前にその声の主らしき青年が現れる。


 私らと同じようにしゃがみ込み、前方に居る蓮の顔をマジマジと見つめていた。


『結界は張ってあります。私が居る為か、ここには悪鬼も寄りたがりません。安心して下さい』


 蓮と同じような口調で話す青年は、そう言いながらも立ち上がり、腰に軽く手を当てていた。


『しかし、大分延命なされたみたいですね。予想より君達の到着が遅くて困惑しています』

『それは……』

『まぁ、あの方ならそれも予測の範疇なのでしょう。困惑はしていますが、良しとしておきましょう。死者には敬意を払わなければ呪われてしまいますからね』


 蓮の言葉をも遮って答えた青年は、どう見ても人間の青年にしか見えなかった。

 顔はどことなくリュウ様に似ている気はする。


『今、厳龍に似ていると思いましたね?』

『……え?』

『それはそうでしょう。私は――』

『お兄さんの兄弟だから』


 これには蓮が答えていた。が、蓮はその青年を睨みつけている。

 当の青年は笑顔のまま蓮を見つめていた。


『まさか、貴方が生きているとは思わなかったですよ』

『何と! 厳龍がそんなことを言ったのですか?』

『いや……確かに、一言も死んだとは言っていなかったですが……勝手にそう思い込んでいました』

『まぁ、それも仕方のないことですね』


 青年はあっさりと蓮を許し、私を見つめる。


『兄弟とは言っても、転生する前の、魂の段階での兄弟です。だから、そこまで似ているという訳ではありません』


 その一言で目を丸くしてしまった。

 そして呼び起こされる記憶の数々。


 魂が新たに誕生する際には、必ず2つの魂が生まれる。その魂は兄弟と知ること無く大概は新たな器、又は体に宿り、世界のどこかの両親の元に誕生する。

 だから性別や性格が双子のように同じという訳ではなかったし、そもそもその魂の時点での記憶は残らないはずなので、本来なら兄弟であるという事実も解らない。


『そう――本来は、ね』


 青年はそう答えながらも笑うのを止めた。

 私も蓮も、その異変に気付く。


 そして3人揃って今し方入って来た方向を見つめた。


『始まりましたね』

『何が……始まったんだよ?』


 思わず訊ね返していた。

 青年は険しい表情をして結界を厚くする。


『株主による選考会……と言って通じますか?』

『……なるほど、そういうことですか』


 蓮は答え、同じように険しい表情をする。


『だからわざと、あの方の展覧会を開催したということですか?』

『大正解です。情報を付け加えるとすれば、困ったことに本人の許可を取らずに開催している点ですね。まぁ、事務所側は無許可に気付きつつ、株主がチケットを送付してきたことから、敢えて見逃したようですが』


 これだけの情報が出ていても、私には理解出来ていなかった。

 青年はそんな私を見ながら答えてくれる。


『簡単な推理ですね。今日は、ここの遊園地の株主が貸し切りを所望していました。そして、その株主は本日限りのイベントとして "キサキ" という写真家の展覧会を開催しています。そのキサキという方は、固有能力で写真を撮るとオーラや霊気が写り込むという能力を持っています。超能力者としてそっちの業界では世界的にも有名な人物ですね。すると、どんな方がお客様として来ると思いますか?』

『そりゃ、主に超能力に興味がある者か、超能力者が来るだろうな』

『正解です。では、その株主が里の主に操られているとしたらどうなりますか?』


 私は目を丸くしていた。


 ここに来る途中、私鉄の上部のモニターにはずっとノイズ入りの映像が映し出されてあった。

 それは蓮の特殊な結界で何とか凌いでいたものの、『死神様以外の神は不要、賛同しない者は全て殺せ』という嫌な言葉は耳に入ってきていた。


 そしてそんな私鉄の中では、平然と黒い仮面で乗り込んで来ていた親子の姿もあった。しかし、誰も黒い仮面であることを恐れては居なかった。

 あれだけ黒い仮面が酷いことをしているというのに、誰一人として見向きさえしなくなっていたことを思い出す。


 もし株主が里の主 ―― 黒い仮面の集団のボスに操られていたとしたら、やることは仲間に引き込む為か、多量に殺す為かのどちらかしかないと思われた。


 しかし、そのどちらにしてもヤバイことには変わりない。

 ここだって、巻き込まれるのは時間の問題だろう。


『何てことを……』

『……それだけが目的では無かったようですね』


 不意に青年がテントに触れた。どうやらテント自体が青年の結界のようで。


『属性神、全員がここに揃ってしまっているようです。しかも、本物の』


 その一言で私はやっと、咲九がどうして今日、ここに来るように言ったのか、真の意味を理解したような気がした。


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