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142 ⛩(☴) 展示会①

 展覧会の当日は、朝から蒸し暑い程の晴天だった。


「暑い……」


 なお、流石の純でも暑さは苦手なのか、私達の周囲にだけ風を吹かせている。それでも暑そうにしていた。


「しかも、膝までのズボンなんて」


 珍しく純がそう愚痴ったように聴こえた。が、愚痴ってくれるということは、それだけ私を信用してくれているということだと思う。

 ただ、流石にそんな態度と言葉にはうんざりしていた。


 なお、純はスカートをはきたかったらしい。


「いつ襲われても良いようにしておかないと逃げられなくなるでしょ? それに、襲撃時の傷で電車に乗ったら大事になるし」

「電車使わず走って行けば良いのに」

「今も頭上を飛び回っている奴らに見つかっても良いの?」

「……せっかくの息抜きが台無しになるわね」


 そう答えた純は思い切り溜め息をついていた。



 各駅停車のこの電車は、私達をゆっくりと遊園地へと運ぶ。

 それが不思議と、私達の焦る気持ちをゆっくりと解していってくれていた。



 次第に景色が緑色に輝く田畑を映し出す。


「ここは……もう、区内ではないのね」


 窓の外を同じように思って眺めていたのか、不意に純が呟いた。

 私は頷いて答える。


 遊園地は郊外にあった。

 海では無く山側の方面で、このような催し物が無い限りは滅多に客も来ないような辺鄙な場所にある。


 専用のこの路線も、もう最初に開園から何十年も経っているからか、今では園周辺に住んでいる通勤利用者が多いだけで観光という雰囲気は全くない。


「少し進んだだけでこの景色。本当は、純みたいにもっと都心に住みたかった」

「都心も良いことばかりではないわ」

「そう? 街を一歩出たらお店がある何て素敵だと思うけど」


 私の返答で純は黙り込んでしまったので、私もそれ以上は何も言わなかった。


 多分、純は純なりに何か考えがあって答えたのだと思う。

 だけど、その答えを聞く間も無く遊園地のある終点駅に到着してしまっていた。




 遊園地とはいっても、どこぞの離島を丸ごと夢の国にしてしまっているような場所とは違って、大元は深い森だったところにあるためか、敷地は然程広くはない。

 誰もやったことはないと思うけど、1時間も無く園内を1周出来てしまうのでは、という噂は耳にしていた。


 実際に入ってみれば、確かに自然が多い為か、外周側は木々で覆われていて人が歩けそうな道もあまり無かった。

 恐らくは、それも理由の1つなのだと思う。


「展覧会は中央の建物でやっているみたいね」


 純はどこか嬉しそうに飛び跳ねながらやって来た。

 手には展覧会のパンフレットがある。


「いつの間に、どこからそんなモノを……」

「入口で場所を聞いたから」


 そう答えながら、先程チケットを通した方向を指す。


 私が通った所は機械式だったものの、確かに純が通った所には1人のお姉さんが立っていた。

 いってらっしゃい、とばかりに笑顔で手を振られている。



 1本しか無い道を道なりに歩けば、その建物へはすぐに辿り着けた。


 が、展覧会自体は11時からだったらしい。

 私が仕方なくその建物の階段に座り込もうとしていたら、純が私の服を引っ張った。


「あの機械は……トロッコ?」


 そう言いながら指したのは、斜め上を通っているジェットコースターだった。

 まだ開園して然程経っていないからか、頂点に向かう座席には最前列のカップルしか乗っていない。


「えっと……」


 説明しようとして、丁度頂点に辿り着いていた。


「電車よりも凄い速さで、あのレールの上を駆け抜けてゆく、絶叫系の乗り物だよ」


 重力に逆らわず急降下したそれは、瞬く間に私達の前から姿を奥の方向にと消えて行った。


 それを見ていた純は目を輝かせて違う乗り物を指す。

 今度はゴーカートだった。


「あれは、子供でも運転出来るおもちゃの車」

「その奥は何?」

「メリーゴーランド。様々な形の乗り物で、軸を中心に自転するの。乗り物は上下にしか動かないけど、滅多に乗れない馬や馬車、豚などの形をしたモノに乗れるから、楽しいと思う人も居るわね」


「……遊園地って、大きなおもちゃ箱だったのね!」


 純はそう答えながらも、更に奥の方を見ようとして懸命に背伸びしていた。


 だから、私は敢えて純にも解りやすく大きな溜め息を付いてから腰を上げる。

 きっと初めて来たのだろう、何て思いながらも答えてあげる。


「展覧会の時間になるまで、園内、散策しようか?」

「良いの?!」


 はっきり言えば面倒臭かった。

 とはいえ、そんな純の様子を見ていたら可哀そうになってしまった、何て口が裂けても言ってはいけない気がした。


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