140 ☈ 遺言と買物 (*)
森の中の悪鬼は、咲九のお陰で一掃されてあった。
一部の強めの個体は、蓮の誘導通りに結界を強くしたことで、悪鬼も上手いこと弾いてくれているらしい。
だが、数日間の雲1つない晴天と比べても、蓮の表情は暗いままだった。
そして私も、まだ昼間だというのに、修行もそっちのけでリュウ様が残した多量の漫画を読んでいた。
「……お姉さん、」
不意に、横になる私の顔の前に蓮がやって来た。
その手には、真っ白の、咲九のオーラが宿る紙が有ることに気付く。
「ここに、姉さんの遺書があるのですが」
「……はぁっ?!」
あまりにも突拍子の無い言葉に耳を疑い、慌てて体を起こしていた。
蓮は驚くこともなくその紙を広げる。
「遺書って……」
「『死んで2日くらい経ったら、もう2日経たない間に、2人で仲良く見てね☆』って言われて渡されたもので……」
「なんて適当な期間なんだよ。くらいって何だよ、くらいって。あと2ばっかりじゃねぇか」
「姉さんでも、自分の死期を正確には解らなかったんじゃないですかね」
何て答えながらも、蓮は早くもその紙を開いていた。
内容は、凄く短かった。
【死んじゃってごめんね。でも、これが最善策だと思うから許して下さい。そして、蓮はこれが契約の最後の条件の1つだと思って下さい。サーカス団のテントに行けば、私が貴方達とは別に、秘密裏で連絡を取り続けていた者がいるはずです。蓮と遠音でその者と会って下さい。】
それと一緒に挟まれていたのは、2枚の遊園地への入場券だった。
乗り放題チケットではなく、ただ入場するだけのチケットを見た蓮が呟く。
「なるほど、日付指定ですか」
「あぁ、だから期間を限定してきた訳か」
何て答えながらもカレンダーを見た。
その日付は明日。
私は思い切り溜め息をついた。
「オレが遊園地何て行って大丈夫なのかよ。ってか、この森の結界とか……」
「結界を出る時に、結界の主に会って行けば、恐らくはそれなりの対応はしてくれますよ。ただし、代わりに結界の主に別途、休暇を与えなければならないのですが」
「なるほど……その為の結界の主なのか」
何て答えながらも、内心では反省もしていた。
知らなかったとはいえ、数週間も山神の方へ行ってしまう前に結界の主とやらに会っておけばよかった、と。そうすれば、咲九は少しでも、数時間でも長生き出来たかもしれない。
「まぁ、そうですね。ですが、休暇といっても単純に魔力が尽きて休息が必要になるだけですよ」
蓮はそう答えながらも紙を元のように折り畳む。
「それだけ、神と妖怪、一般の超能力者では魔力に差があるんです。覚えておいて下さいね」
「はいはい」
適当に返事をして、私はまた横になろうとする。
「……あの、」
蓮が困惑した表情で私を見つめていたので、動作を止めて蓮を見た。
「何?」
「……その服装で行く気ですか?」
そう言われてから、あぁ、と気付く。
服は全て咲九からのお下がりを着ていた。その服は大概が軽く羽織れる着物。
確かに、これでは目立って仕方ない。
が、かといって咲九の私服を借りてもサイズが合わない(特に下が)。
「あー……そうか、私服、ね」
「確かに、結界は少しくらい張りますけど、ね。でも、行く場所は森どころか、東都も越える結界の外。どう考えても、その服はマズイです」
「しかし、金が……」
「お金なら気にしなくても良いです!!」
蓮はそう言いながら、どこからともなくリュウ様の財布を取り出していた。
「なっ?!」
「財布は預かっていましたので」
「何でお前が持ってるんだよ!? それ、リュウ様の、」
「この家の家計は僕がやっているんですよ。その僕が財布を持っていて何かいけませんか?」
「そういう問題じゃ……」
「それに、もう必要無いからと、銀行に預けていた多額の現金を全額おろして消えましたからね、あの人。流石にこれから何が起こるか僕でも解りませんから高級なモノは買いませんが、お姉さんに似合う私服くらい買いに行きましょう?!」
その蓮の一言で、流石の私も黙認するしか無かった。
リュウ様の件は、蓮には敢えて言わなかった。
きっと蓮も薄々、私がリュウ様について何か知っていることは気付いていると思う。
でも、聞いてくることは無かった。
26.04.02・改修、タイトルの※→*




