136 ⛩(☴) 非常事態
夜中だというのに家族全員で、そうじゃなくても狭い台所にある小さなテレビに釘付けだった。
普段なら、深夜のおかしなテンションのテレビかアニメあたりが流れている時間帯。
それが今、どのチャンネルもスノーノイズを写し出している。
だが、1つだけ写る番組があった。
その番組は、何故か黒い仮面をした人物が1人だけ座っている。
口を開いて何を言う訳でもなかったが、しかし、その言葉は嫌でも聴こえて来る。
—— テレパシーを使って。
『電波は、我々が、占拠した。これより、死神様による、人間の選別を、行う。繰り返す。電波は、我々が、占拠した。これより、死神様による、人間の選別を、行う。繰り返す。電波は、我々が、占拠した。これより、死神様による、人間の選別を、行う。繰り返す。……』
「……テレビ局に、行かないと!」
私が飛び出そうとして、しかし、それを出口付近に居た純によって止められた。
「これはテレビ局ではないから、行っても無駄だわ」
「どうしてそんなことが解るの?!」
「この背景……兄上がお気に入りの、銀獅子の障子だから解るの。それがあるのは兄上の部屋だけ。世界で1つしかないモノだと言っていたから間違いなく、里の中から中継していると思うわ。テレビ局はそれを放送しているだけ」
それを聞いた私は力を失くし、純の手が離されても先に進むことは出来なかった。
「この様子だと、飛行機も飛べないだろうなぁ」
不意に弟子の1人がそう呟いた。
振り返ってその弟子を確認する。
「それ、どういうこと?」
「黒い仮面の集団は『電波を占拠した』と言っているということは、今や電波で通信や連絡、安全体制を敷いている交通機関が麻痺する可能性が高いよ。携帯だって、この通り」
そう言いながら他の弟子をかき分けて出口に来たその弟子は、恐らく自身のだろう携帯を見せてくれた。
番号はお父さんのものが表示されている。
耳を近付けると、通話中を知らせるプープーという音が鳴っていた。
しかし、この場にはお父さんも居る。
携帯も手にしているが鳴ってはいないし、通話中でもない。
私は、慌てて自分の携帯を見る。
そしてキサキさんの携帯にかけた。
しかし、数日前とは違う反応を示す。
それは恐らく、弟子がお父さんにかけたのと同じだと思われた。
脱力して、困惑する。
「何でこんな時に、電波ジャックなんて……」
「簡単な話しだよ」
不意にお父さんが口を開いた。
先程までコソコソと雑談をしていた弟子達が一斉にお父さんを見る。
「電波を使って洗脳するためだろう」
「洗脳……って、」
「洗脳に引っ掛かった者は生き残り、引っ掛からなかった者は殺す。そういうところだろう」
不意に、純が私を後ろに引っ張った。
そんな私の目前を黒い何かが掠る。
引っ張られたまま距離を保たれれば、先程まで携帯を見せてくれていた弟子をお父さんが床に抑えつけている光景が目に入った。
「は、はは……ははは……!!」
狂ったように笑い出す抑えつけられた弟子が、叫ぶ。
「みんな、みんな死んじゃえ!! 死神様万歳!!」
「何? 何?? 何が、あったの??」
「むしろ、何で気付かなかったんだ、お前は」
呆れながらも、他の弟子にその場を譲ったお父さんが埃を払いながら立ち上がる。
他にも暴れた者が居たらしく、数人の弟子によって完全に取り押さえられていた。
捕えられた弟子3人は暴れながら叫んでいる。
「電波の中に、違う言葉が紛れているの。それが見ている人の耳に入り、心に響けば、洗脳なんて簡単にされてしまうのよ」
後ろに居る純が説明してくれた。
が、純はまだ私の右腕を放してくれそうにはない。
「心に響かなかったまでも、耳に入ってしまった時点で危険なことに変わりはないわ」
「そうだね」
お父さんは平然と答え、悲しそうな表情をした。
「娘に警戒されるのは不本意だが、一度耳に入ってしまったものは、どうしようもない。しかし、気に留めなければ良いのだろうが、それも難しい話し」
「でも、それって純も耳にしたってことじゃ……」
「そうね。だけど、私には耐性があるから」
「……そういう問題なの?」
思わず純に訊ね返したものの、お父さんまで頷いているのだからどうしようもない。
「それに、神様が洗脳されたら大変なことになるわ。もしかしたら、千尋の中の水神が自然と聞かないように反応したのかもしれない。私も全ては聞き取らなかったから」
純はそう答えてお父さんを見つめた。
お父さんが大きな溜め息を付く。
「先日、孤独死した方の家が空いているはずだ」
「……お父さん?」
「そこならテレビも何もないはずだから、しばらくそっちに居なさい。食事は、ウチから届けさせよう」
「ありがとうございます」
勝手にお父さんと純で決定されていた。
私は唖然として、何も言えない。
まして現状の理解もまだ追い付いていない。
「……純ちゃんは、その内容を理解していると考えて良いのかな?」
「はい」
しっかりと頷き答えた純は、更に私の腕を強く握る。
私の腕が壊れてしまいそうなほど強くて痛いのに、どこかその手は優しくて温かかった。
私のことを守りたい。
そんな気持ちが純から伝わって来ているだけに、余計に何も言えなかった。




