134 ☈ 神主からのヒント
数日経っても、森の中の悪鬼の気配は消えることは無かった。それどころか、日に日に増えている気がする。
相変わらず蓮は鳥居の上に座り続け、結界を張りながらも咲九とリュウ様の帰りを待ち続けている。
「遠音ちゃん、」
解放された境内の一部屋を借りて寝ていた私に、元音神の神主が声をかけてきた。
珍しいことだっただけに、警戒しながらも起き上がって神主を見る。
神主は部屋を出た廊下のところに立っていた。
「香を作ろうと思っているのだが、興味は無いかい?」
「コウ……お香、ですか?」
頷く神主に、私は首を傾げた。
「何でそれをオレに……」
「いや、興味が無いのであれば、強制はしないよ」
神主はそう答えてその場を去って行ってしまった。
しばらくして。
不意に、懐かしい匂いを感じて目を覚ました。
「(この香りは何だったっけ……あぁ、そうだ。修学旅行の時に咲九が持って来た、疲れが取れる奴か。ってことは……)」
咲九が戻って来たのか、何て思いながらも身体を起こす。
「おや、起こしてしまったかな?」
振り返れば、先程と同じところに神主が座り込んでいた。
どうやら、そんな妙な場所で瞑想していたらしい。
そのすぐ近くには、1つの紙カップが置かれてあった。
「この匂い……」
「あぁ、さっき作った香だよ」
神主はそう答えながらも目を開け、紙カップを軽く浮かして中を混ぜているような仕草をする。
香と言うからてっきり固形だと思っていたが水溶性だったらしい。
「神は疲れ知らずだと言うが、それは違う。疲れて魔力が溜まりにくくなっていることも多い。それを解消するために、この香を私が作ったのだよ」
「前に、咲九に貰いました」
「そうかい。咲九ちゃんが、ねぇ……。あの子にとっては毒だろうに」
「……どういうことですか?」
すると、何故か神主は私に微笑んだ。
「咲九ちゃんに言われて、山神のところにお遣いに行ってくれただろう?」
「えぇ、まぁ……」
「その時、山神から何か聞かされなかったかい?」
それは、嫌でも頭に入っていて良く覚えている。
「 "世界の加護" の話し、ですよね。神も人間も関係なく、全ての生物には魂があって、それが転生を繰り返すことで、地界の結界をその流れで守り続けている、という……」
「もう1つ、何か重要なことを言っていなかったかい?」
「どれのことだろう……?」
沢山の話しを聞かされ続けた。だからもう、どれについて聞かれているのかさえ解らなかった。
「あの『閻魔転生』のゲームを作った、という話しはしていなかったかな?」
「あぁ、されましたね。あのストーリーを監修した、とか……」
「そして、山神は他に何か言っていなかったかい? 例えば……地界がどうの、とか」
「あぁ……地界の神々が嘘を付かないのは、死神よりも恐ろしい存在が居るから、だとは言っていましたね。その恐ろしい存在を題材にしたのがあのゲームだとも……あれ?」
そうなると、山神も嘘を付けないということにはならないだろうか。
なのにも関わらず、ゲームのストーリーを監修している。監修だから全てではないにしても、『閻魔転生』のゲームは、実はただの物語ではなくて事実だとしたら――。
「気付いたようだね」
神主はそう答えながら、紙コップを持って立ち上がる。
あのゲームは、閻魔の力を得てしまった主人公が2人の仲間と共に、世界の敵に立ち向かうという大掛かりなストーリーになっていた。
仲間の2人は、女神・死神・鬼神・邪神から1人、水神・風神・雷神・炎神・地神から1人選べる。
選ばなかった他の仲間は世界の敵に仮面の魔力で操られ、倒さなければならない相手となって立ちはだかる。が、最終的には世界の敵から仲間の魂を奪い返し、主人公にしか扱えない鳥籠に世界の敵ごと封印すればハッピーエンドになる。
ただし、鳥籠を後世に残せば再度同じことが起きるということで、主人公も一緒にその鳥籠に封印されてしまうので、主人公の観点からすればバッドエンドと捉えられなくもなかった。
ちなみに鳥籠の中は永久ループの世界になっていて、ゲーム自体はまた最初からにはなるが、一度ハッピーエンドを迎えられたら、今度は仲間を変えて異なるストーリーを進めることが出来るようになっている。
結果は同じなのに大ヒットとなっているのは、RPG好きには堪らないシステムと、組み合わせを変えることで異なる会話が楽しめるようになっている為だと世間的には言われている。
「……咲九ちゃんはね、神ではないのだよ」
神主はそう言って紙コップの中の水分を飲んだ。
「神ではない者が、神以上の魔力を扱える事例はあまりない。ましてや、普通の人間の魂が魔力を得れば、それだけの負担が身体にかかることになる。だから短命になってしまう」
「咲九が神ではないなら、どうして蓮に神の核を譲れたんですか?」
「そこまでは、私も知らないのだよ」
どこか悲しそうに神主は答えた。
「厳龍なら何か知っているだろうが、咲九ちゃんとの契約に関わるから話せない、そう言っていたよ。だから私でも解らない。だが、咲九ちゃんは "天界の人間" という分類になる。恐らくは、このあたりにヒミツが隠されているのだと思うよ」
「……普通は "地界の人間"、ですよね?」
その質問に、神主はただ笑って答えてくれただけだった。




