133 ☴(⛩) 話さなかったこと(閑話)
千尋がキサキさんに電話をかけている最中、私はずっと縁側から見える、空にかかる結界を見つめていた。
あちらこちらにヒビが入ってしまい、修復には何十年もかかると思う。
だけど、それまで千尋の母上の身体が持つとは思えない。
もし千尋が後を継ぐのであれば、間違いなく千尋は二度とこの敷地から出られなくなる。
しかし、こんな状態では水神としてここに居続けることは難しいと思う。守り切れないと断言できる。
「キサキさん、今、海外に行っているみたい」
そんな千尋が私に言いながら隣に戻って来る。
「昨日向かったばかりらしくて……早くても1ヶ月はかかるみたい。キサキさんの所属している事務所の所長さんがそう答えてくれたよ」
「そう……」
何てタイミングが悪い、なんて思った。
が、千尋はピースサインを作っている。
「代わりに、遊園地のチケットを送ってくれるって。そこで数日後に開催されるイベントに、キサキさんを良く知る人物を呼ぶ予定らしいとか。息抜きにもなるし、送ってもらうことにしちゃった☆」
そう言った千尋は笑顔だった。でも、それは作り笑い。
私は溜め息をついた。
「本当のこと、隠していることを、話して」
「・・・」
「解っているの、千尋が何か隠しているって。顔、引き攣っているから」
「・・・」
「千尋の母上のこと、ではないの?」
皆に "夏祭り" と呼ばれたあの寂しいイベントを終え、家が襲撃されて皆で離れに過ごしながらも、心のどこかではずっと探しつつ、思っていたこと――あれから千尋の母上を一度も見ていなかった。
同じ離れに居るのであれば、お手洗い、洗面所、風呂場など、どこかで出会っていてもおかしくはない。まして、どこかの部屋に居なければならない。
なのに、どこにも居なかった。
その気配が全く感じられなかった。
「……本当は、」
「私にも、わ、解らないの!」
慌てて答えた千尋は、しかし、私から目を逸らす。
「誰も教えてくれないから……でも、皆笑顔で……」
「……そう」
黙る千尋に対し、私もそう答えることしか出来なかった。
私達以外の家族は、今も平然と庭の掃き掃除をしたり、家の残骸の手伝いをしたりしていた。新たな木材を仕入れていることから、もしかしたら建て直しするつもりかもしれない。
だけど、それを含めた情報を私達には何も教えてくれていない。今もこうして肩を並べて縁側に立っているだけ……私達は無力で、しかし、見ているのに手伝う気力さえも無くて。
あの電話の時に、千尋は私の手帳を狙って襲撃しに来た鬼面2人のことを話さなかった。
話し忘れていただけなら、それでも良かった。
だけど、違う。
恐らく千尋は正体に気付いてしまったのだと思う。だから言えなかったというのが正しいのではないか。
その正体を、今も千尋は自身の胸の中に封じている。
でも、そのことを私には話してくれていない。




