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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
廃病院と失われし過去
123/252

123 ⛩(☴▲) 廃病院③

 火事が起きてから何年も経っているとは思えないほど、8階は凄く綺麗な状態で残されていた。


 個室の1つを覗きこもうとして、先に覗いていた純に止められる。

 そして制止されても覗き込んだ紗穂里の表情を見て悟り、私は見るのを止めておいた。


 扉が無くなっていた所から覗き込みながら思い出してきたようで、純から聞く限り、個室には全て()()()()鍵がかけられるようになっていたらしい。どれもが鉄製で、ガラス窓は扉に1ヶ所、それも小さいのが取り付けられているだけでそれ以外からは覗き込むことさえ出来ないようになっているようだった。

 それは、まるで白い牢屋のような印象。そう思ったら、純と紗穂里が傍に居ても恐怖に感じていた。


『ここよ』


 純はそう言いながら1つの扉のドアノブに手をかけた。そして扉をゆっくりと開く。


『私が居た病室だけど、火事の当時は誰も居なかったみたい』


 中はベッドの残骸が1つ残っているだけで、本当に何も無かった。

 ただ、他の部屋と違ってベッドからは窓の外が覗き込めるようになっていたらしい。その分、窓も大きめではあったようだが、今は割れてしまったのか風が吹き込んでいる。


 緊張していて冷や汗が出ていたのか、その風ですら心地よく思えた。


『本当に頑丈に造られていたみたいデショ』


 紗穂里はそう言いながら壁に触れていた。

 壁紙は既に風化して触れただけでポロポロと落ちてしまっていたが、壁板だけは紗穂里がどんなに押してもビクともしない。


『だから炎による爆発が起きても守られていた。でも、その代わりに中は灼熱地獄だったのデショ』

『不思議なものね』


 純は答えながら部屋の奥に進み、窓から外を覗く。


『ここに来たら記憶がどんどん蘇ってくるわ。もう何年も昔のことなのに……』

『ボクも同じデショ』


 紗穂里は答えながらも天井を見る。そして軽く目を閉じる。


『この上の階に行ったこと、あったと思う』

『……え?』


 驚いた純が紗穂里を振り返っていた。

 紗穂里が視線に聞いたのか、純を見て頷く。


『立ち入り禁止の向こう側が気になって、両親の目を盗んで行っちゃった☆』

『いや、そこ、可愛く言われても……』


 呆れながらツッコミを入れたところで、部屋の入口付近に居た私を紗穂里が振り返る。


『風見さんの言うことが真実だとして、もしもこの "神毒" がボク達にあまり効かないんだったら、今からこの上に行っても多分、大丈夫デショ』

『それはどういうこと?』

『9階の奥には、常に薬が含まれた空気を吸わないと生きていけない人が居る、と優しい看護師さんが教えてくれたデショ。9階にはその薬が充満していた。薬って、恐らくは "神毒" のことデショ? だから当時のボクもそれ以上の奥には進まなかった。本当は香穂里も9階に移されなければいけなかったみたいだが、そうしてしまうとボクが会いに行けないということだったから、香穂里の父親に頼んでもらってこっちで治療してもらっていたんデショ』


 純の質問に答えた紗穂里は私の目前から廊下に飛び出る。そして振り返って言った。


『何かあるなら9階だと思う。行ってみるデショ』




 3人で9階への階段を上がる。

 その度に空気は重く、まるで濃厚な霧に包まれるかのような錯覚を感じた。否、それは錯覚ではない――この灰色の濃厚な "神毒" こそが、9階全体を出入り禁止にしていた理由なのかもしれない。


 それは2人も同じだったのか、先頭を歩いていた純が私の腕を取る。

 だから私も、自然と隣に居た紗穂里の腕をもう片手で掴んでいた。


 黙ったまま登り切れば、そこはもう、一面の黒い霧で覆われていた。

 あまりにも濃過ぎて目前の状況すら良くは解らない。


 すると、純が余っていた片手で風を生み出し、私達の手前側の霧を避けてくれる。

 だけど、それも少しの間しか効果は無かった。


 それでも垣間見えた光景には、特に異常は無いようで、ただただ廊下が続いていた。


『どうする?』


 純が紗穂里に訊ねた。先に進むか、進まないかの問いだったと思う。

 紗穂里は頭を横に振った。


『何かが残っているとすれば、この先しかないと思うデショ』

『何かって……』

『大半は燃えてしまったかもしれないが、そう簡単に研究成果を手放す研究者は居ないと思うデショ。それに、8階の個室のベッドがあんなに綺麗に残っていたということは、1階で起きた火の手はこちら側まで来ていない可能性もあるかと。尤も、火の手が来ていなくても熱伝動による肉体及び皮膚の蒸発の可能性が全く無い、とは言い切れないが』

『そうね』


 純は魔力を風にして前に押し出す。


『ここまで来たのだから、何か結果を持ち帰らないと。……?』


 霧の合間に何かが見えたのか、純が急に動き出す。

 手で繋がれていた私は自然と引っ張られていた。


『ちょっ?!』

『あっ、ご、ごめんなさい! でも、今……あれは、何?』


 純は霧の中を真っ直ぐに進んだ。


 何が何だか、そもそも足元も覚束ない状態。

 私達は純に引っ張られる形で、しかし転ばない程度で純の後に続く。


 そして辿り着いた先で、私達は3人で目を疑った。


『え?』


 そこには結界が張られていた。


 純共々、結界の中にすんなりと入れ、更にその結界の外にはあの霧が見える。

 足元はもちろんのこと、霧の中では見られなかった2人の表情まではっきりと解った。


 2人も驚いて結界を、足元を見ている。


『結界が、どうしてこんなところに……?』


 思わず純を見て訊ねた矢先、純の視線の先には何かが転がっていた。

 が、それを目にした私は悲鳴を上げそうになる。


『最後の最後まで、ここで何かを守っていたみたいね』


 目先には、上半身だけ白骨化した1つの遺体が壁に横たわっていた。太ももから下と頭だけは皮膚が融けてしまっていたものの、赤々とした筋肉が未だに残されていた。強力な結界のお陰か腐ってもいない様子。


 驚愕して純に抱きついた私を他所に、紗穂里は平然とその遺体に近付いている。


『神毒に侵された人は、こんな感じの最後を迎えるのか? 風見さんの祖父はこういう感じだったのデショ?』

『私自身は覚えていないのよ、祖父の手記から知っただけだから。でも、こういう感じだったのだと思うわ』


 平然と会話を交わす2人に恐怖を感じながらも、私は結界ギリギリのところで2人に訊ねる。


『そそ、それよりも! ここには何で結界が残って……』

『怨念を結界という形でコレに継ぎ込んだのデショ』


 紗穂里は平然と遺体の手から光る2つの何かを取っている。

 片方は綺麗な黒光りする魔法石だった。


『いやぁ……流石に、遺体を触れるとか、無いわぁ』


 私の一言に紗穂里が失笑していた。


『慣れているだけデショ』

『……え? どこで?』

『ボクも良く解らないけど、死体は怖くないデショ。祖母が亡くなった時も死体は見ているが……ボク達と大差ない人間だったのだから、死体といえど怖がったら失礼デショ?』


 紗穂里は答えながら私にもう片方を見せてくれる。


 それはただの鍵だった。輝いてもいない、本当にただの鍵。

 だけど、何故かは解らない。

 それから光のようなモノが出ているように思えた。


『自ら魔力を継ぎ込んで絶命したのよ』


 純はそう言って悲しそうな表情をする。


『遺体が結界を作り、鍵に魔力を込めてこの場所を守っている……それほどまでに、大切なモノがこの奥にあるのね』


 そう言った純は鍵の光が示す先を見つめていた。


 光は壁に突き刺さっている。

 純がそこを素手で押してみた。


 すると、その壁が何故か10センチ程度の正方形に少しだけ浮き上がる。

 が、それ以上は何度押しても出て来てはくれないようだった。


 純が残念そうに溜め息をついている。


『壁紙の裏側? それとも……』

『それなら任せて』


 紗穂里は答えながらも鍵を純に渡し、早くもその浮いた場所に魔力を注ぎ込む。


 しばらくして、その周囲が更に大きく膨れ上がっていた。

 そこを紗穂里が簡単に爪で引っかけ、破く。


 出て来たのは、1つの小さめの木箱だった。火に耐性のある木だったのか、燃えている感じもしない。それを簡単に純が抜き取った。

 箱を一回転させて確認した後、手にしていた箱の鍵穴に鍵に突き刺し、既に回している。


『開けるわ』


 純の一言に2人で頷きながらも、私達はその箱を床に置いて中を覗き込む。


 中は紙の束になっていた。

 それを純が取り出し、広げようとして手に取る。


 いくつかに分かれているようで、その箱の中から各々、適当に手にして見る。


『……これって、』


 まずは真っ先に広げていた純のモノを見た。

 それは病院の図面らしい。しかし、私達の知っている情報と差異は無かった。地下も描かれていない。


 なので次の、紗穂里が広げたモノを見る。

 それは冊子になっているようで、表紙には「ルールブック」とだけ書かれてあった。パラパラと見てみたものの、特に変な記載は無い。


 そして、最後に広げた私のモノも冊子のようで、こちらは内側の1ページ目に「名簿」と書かれてあった。


『『名簿?!』』


 思わず紗穂里と2人で言葉を発していた。

 純が早くとばかりに次のページをめくろうとしている。


『ちょ……ま、待って、待って』


 震える手で純と一緒にページをめくる。と、他のページの間から何かが下に落ちていった。

 それを紗穂里が拾い、裏返す。


『……え?』


 純が素直に目を丸くしてそれを眺めていた。

 なので私達もその紙を見る。


 何てことはない1枚の大きめの写真だった。そこには2人の大人と4人の子供が写っている。

 その中の1人を指して、純は口を開いた。


『これ……私だわ!』


 確かに、今よりもかなり細身ではあったものの、面影はあった。

 その子を見ている内に、その隣の子を見て私が目を丸くする。


 だけど、それは紗穂里も同じようだった。


『これ、お兄ちゃんだ!!』『香穂里が居る……?!』


 ほぼ同時に言い、そして互いに目を合わせた。


『……彼が千尋の兄上だったのね』


 純はそう小さく呟いた。

 驚いたまま純を見れば、純は写真を見つめたまま答えてくれる。


『彼のこと、良く覚えているわ。岸間さんのことは覚えていないけど、彼は私の弟のことを気にかけていてくれたの。だから、覚えている』

『もしかして、全てを思い出した?』


 私の質問に頷きで答えた純は静かに語り出す。


『子供の大半が女子ばかりだったからか、同じ男子ということで毎日のように貴の……弟のベッドの脇に来てくれていたの。だから、違う部屋だった私も良く覚えているわ。この写真を撮ったのは若い女性の看護師で、比較的症状の浅い私達の担当の人だった』

『じゃぁ、その女性がこれを……?』

『それは違うと思うデショ』


 紗穂里はそう言いながら遺体に目線を落とす。


『骨格的に男性だと思うデショ。恐らくは女性から写真を貰って大切にしていただけ……なんじゃない?』

『あれ? でも……』


 私は紗穂里の手にしているルールブックを見る。

 もしかしたらその中に記載されているかもしれない、何て思いながらも答える。


『写真撮影はダメだって。お兄ちゃんが、個人情報の流出になるとか言っていたような……』

『うん、そう書かれているはずよ。実際、この撮影をした後にカメラごと院長に没収されたって看護師が私達に言っていたから』

『じゃぁ何で写真が残っているの?』


 私の疑問に純は首を傾げていた。


 紗穂里は足元を見て、転がっていたらしい何かを発見する。そして、それを拾った。

 そして黒い煤を払う。


『もしかしたら、院長が現像したのかも、デショ』


 拾ったソレを見せてくれた。「栗原院長」と書かれたバッヂが空しく光る。


『じゃぁ、この人が院長……』


 私の発言を聞きながら、純が静かにその遺体に両手を合わせていた。


 結界を使えるくらいだから、きっと院長も超能力者だった。沢山の超能力者を救い、守るために医者になり、この病院を建てた。

 別に人間に怨みがあって神毒を開発した訳ではないと思う。


『そう、その時、』


 紗穂里から受け取った写真を間近で眺めていた純が目を細めて写真を離す。


『もう1人居た子……下の名前を忘れてしまったのだけど、』

『何、何?』

『確か私と同じ、フウミという名前だったはず』


 フウミなんてそうそう居ない。

 私はそれを便りに名前を名簿で探してみる。


 その間にも、紗穂里はまだ見ていない書類をルールブックと交換してパラ見、純は何か思い出すように図面を見ている。


『あれ? 何だろう……』


 最初に口火を切ったのは紗穂里だった。紗穂里は私達に広げて見せてくれる。


 それは数ページに渡る写真集だった。巨大な水槽の中に何人もの子供が裸で入れられている。

 でも、それは凄く小さいようで、どんなに見比べても人間の指くらいのサイズしか無い。


『クローン実験……』


 その写真の上に書いてあった日本語を読みあげた純が、紗穂里を見る。


『ここで超能力者のクローン実験があったことは、噂で聞いてはいたわ。でも、まさか本当にやっていたとは……』


 違うページを見ていた紗穂里がそれを指しながら答える。


『成功例が1つだけあったみたいだけど、それ以降は失敗続きだったみたいデショ。報告書みたいだが……内容が最後まで記述されていない』

『それ、隠されているんじゃない?』


 答えながらも紗穂里の手の上から魔力を送り込んでみる。空白のそこから微量の魔力が感じ取れた。

 純は頷いて、私達の下に手を入れて紙を触る。


 だけど、空白はうんともすんとも言わない。


『……条件は何だと思う?』

『解らない』


 私の質問に即答した純が手を放す。

 だけど、やはり文字は浮かんでこない。


『文字が隠されている、か』


 紗穂里が意味深に呟いていた。


『なら、これは保留にしておいてもらえないか?』

『ん? 良いけど……心当たりでも?』

『いや。とりあえず持ち帰って検証しようかと』


 そう答えた紗穂里は腕にしていたらしい時計を見ていた。


 すっかり時間のことなど忘れていた私達はほぼ同時にその時計を覗き込む。

 既に針は4時半を回っていた。


『何事も無く病院から出られたとしても、あの霧の中を進んだら恐らくは遅くなるデショ? そろそろ撤退しないと、日暮れの時間帯のこの辺りには悪鬼が出没すると聞いたことがある』

『そうね、何があるか解らないものね』


 純が応じたので私も頷いた。

 そして箱をどうするかと話し合う。


 結果、とりあえず箱ごと入りそうなリュックを持って来ていた紗穂里に全てを預けることにした。


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