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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
116/253

116 ▲ 新たな疑問

 香穂里からメールが来ていることに気付いた時には、既に時計は13時を回っていた。お昼を過ぎたことにも気付いていなかったらしい。

 とはいえ、持って来ていたお握りはこっちの図書館に持ち込んでいたし、毎日のように子猿にも半分を分けてあげていた所為か、子猿も場所探しを手伝ってくれていた。(子猿が本を読む様は、小さな子供が大きな絵本を読んでいるようで可愛らしいので、お陰で癒されてもいる。)


 メールを開き、内容を見て目を丸くした。

 インターネットを使うとは考えてもいなかった自分に腹を立てながらも、肩まで登って来たその子猿にメールを見させてあげる。


 すると、見てすぐに子猿は本を取りに行ってしまった。

 が、その本はすぐさま私の頭上に落ちてくる。


 それを見ずに華麗にキャッチした私はそのまま開く。


 その本は写真集になっていた。

 太陽が水面に反射して輝いている小さな泉や、田畑を見下ろす形の一面の雪景色や、美しい緑に覆われた赤い鳥居の中にある小さな祠などの写真が載せられている。


 改めて最初のページを見れば、説明書きにきちんと、それが香穂里のメールに書かれてあった舟山の写真集であることが書かれてあった。


「絶版になっていても、有るところには有るものデショ……」


 後から落ちて来る子猿に向かってそう言いながらも、私はあるページで手を休めた。


 それは普通の、どこにでもあるような赤い鳥居だった。

 だけど、私はこの鳥居をどこかで見かけたような気がしていた。どこにでもありそうなその鳥居には、1点だけ、他とは異なった漢字が掲げられている。

 普通の神社であれば、こんな漢字は使わない。だから鮮明に記憶に残っていた。


「キッ」


 見事に着地した子猿がその写真の隅を指す。

 何かの屋根だろうか……その片鱗が写っていた。


「キキッ」


 子猿が私の鞄のポケットを指した。そこにはあの写真が入っている。


 しばらく考えて、やがてその真意に気付いた私は写真を取り出し、写真集のそれと見比べた。


 2人の女性の背後にある小屋、更にその奥には何かの建物らしき影がある。構造としては、その2つは同じようにも思えた。だけど、決定的な証拠にはならない。

 すると、子猿が次のページを見ろ、とばかりに私の左手を押し上げてくる。


「何よ、もう……っ?!」


 言われるがままに次のページをめくれば、そこにはあの小屋が――写真と全くそっくりな小屋が写されていた。

 目を丸くしながらも、隅に書かれた説明文を目で追う。


【ここは隠者が身を潜めた小屋。神器を封じ、神器を守っていたと伝わる。この場所で私達姉妹は再会を誓った後に知ったことで、この小屋の別名は ”再会部屋" と呼ばれていたらしい。隠者が誰かを待っていたように、ここに封じられていた神器もまた、新しい主と出会えることを願い続けていた故に付けられたそう。しかしながら、隠者の願いも、私達の願いも叶わなかった。】


「ここに行けば何かが解るのか……?」

「キッ」


 子猿はもう1冊、今度は近場から抜いて持って来る。

 何かと思って写真集を置いてそちらを開いて見れば、何やら沢山の文字らしき綴りが載っていた。恐らくは辞書あたりだとは思う。


『古代魔術文字……』


 不意に声がした。

 驚いて子猿を見れば、子猿が目を細める。


『この声が聴こえるとは……やはり、君も神だったのか』

『子猿が、しゃべっ……』

『本の神』


 子猿はそう答えて目を開く。


『呪いで魔力が少ないから長くは話せないけど、僕は "本神" だから、同じ神であれば特殊な回線を引いて、近くであればお話しが出来るみたい。君の写真の裏に文字が出ていたから、解読にはソレが必要かと思って』


 納得はした。

 確かに神様という概念で考えれば、神様なら何でも出来てしまいそうなイメージは根強い。

 しかし、今は時間が惜しい。

 故に今は子猿のことを考えずに写真のことだけを考えようと思った。


『……でもこれ、何から何の辞書デショ? 見たこともない文字がいっぱいで』


 パラパラとめくりながら訊ねれば子猿は自慢げに答える。


『現代魔術から古代魔術への事典。でも、禁術に関わる単語は載ってない』

『禁術……禁断の術だから仕方ないのデショ』


 噂では聞いたことがある。

 禁術は命に関わる魔術。本来は様々な術名が当てられていたらしいが、今ではその術名も、方法や手段さえも忘れられ、口伝のみで引き継がれているらしい。


『でもその単語は僕でも見たことない……もしかしたら禁術の類のような気がする』


 子猿はそう答えながらも首を傾げていた。


『この単語……1文字だけど綴りが違うし、こっちだと3文字も違うから発音自体が間違ってしまう』

『意味は解る?』


 私の問いに子猿は首を横に振っていた。


『僕はここの本のこと、魔術文字のことなら何でも解るけど、1文字違うだけでいくつもの単語が候補として上がってしまうから、この姿の僕では解らないよ』


 そう言われてしまうと、持って来てもらった辞書でも難しいのではないかと思った。

 だけど、ここまで来て諦める訳にはいかない。


『ちなみに、その写真の場所はここと同じ "キョウカイ" に存在しているはずだよ』

『えっ?!』


 私は驚いて子猿を見た。

 子猿が逆に驚いている。


『何をそんなに驚いているの?』

『ねぇ! その、キョウカイって何なの?!』


 私のそんな一言は、逆に子猿をもっと驚かせることになっていたらしい。

 だけど、そんな子猿はあっさりと答えてくれた。


『境界は地界の隙間に存在する、天界と同じ環境の世界のこと。超能力者でも只者では入れないらしい。この図書館は、僕と同じ木属性を持っていないと入れないようにわざとしているけど、地界の学園と同じ大きさの境界の学園の中に存在している、列記とした場所だよ』

『その境界に神器があるって聞いたんだが――』

『数だけなら地界より境界の方が、(神器の数は)多いと思う。でも、この図書館には1つも無いよ。それに今のこの図書館は地界の学園以外には繋がっていないから、探しに行くことは出来ない。本来の境界は1つの世界だったらしいけど、天界の崩壊に伴って、住人が居ない場所が崩壊してしまった所為で、この図書館みたいに小さな空間に分離してしまっているのだよ』


 私は思い切り溜め息をついてしまっていた。

 とりあえず、境界については理解した。空間が繋がっていないのであればどうしようもない。


『……それで、その写真の場所だけど』


 子猿は不思議そうに私を覗き込みながらも続ける。

 場所は香穂里の言う通り、如月さんの住む美島市内の山で間違いはないだろう。だから、その点では新しい情報は求めていなかった。


『禁術の使い手……如月一族が住んでいた舟山の伝説の境界だと思う。でも、最初の怪盗ホーリーは岸間一族の出身だと記憶していたけど、違うの?』

『……ん?』


 考えてみれば、そういうことになる。


 香穂里の母親は初代の怪盗ホーリーだった。このことは香穂里も覚えていたのか、メールでもそのように書いてあった。

 その怪盗ホーリーの妹に当たる人は、怪盗ホーリーと一緒に舟山の境界内に居る。


 子猿の話しが本当ならば、舟山自体は如月家の土地ということになる。


『ねぇ……これって、どういうこと……?』

「キッ」


 子猿は魔力が切れたのか、頭を横に振って答えていた。

 何でも知っている子猿でも解らないということは、本にはなっていない事実がその舟山にあるということ。


 考えられるとすれば、昔から如月家と岸間家には何かしらの交流があったということ。それなら如月さんが私達の事情を知っていてもおかしくはない。

 でも、どうして母親達はわざわざ岸間家ではなく如月家で写真を撮ったのか、という疑問が残る。


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