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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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108 ⛩(☴) 水神と風神

 途中から純の意図に気付いて話しに参加してしまっていたものの、そうなると私達は熊族を引き付けていなければならないという事実に後から気付き、冷や汗を掻いていた。

 が、言ってしまったものは仕方ない。それに、これは美乃ちゃんを助けるためにも必要なことだと自分に言い聞かせた。


 こんなことを思っている時にも安全な場所まで逃げ切れるのであれば、それもそれで良い。

 雰囲気的に狼族も私達を咎めるようなことは無いと思う。


『ごめんなさい』


 不意に純から声をかけられた。

 私は驚いて純を振り返る。


『勝手に交渉してしまって……千尋を危険な目に合わせてしまうことを、考えていなかった。私、凄く必死で……』


 私は頭を横に振った。


『むしろ、ありがとう』


 私には、他の部屋の気配に気を遣う余裕は無かった。

 自分の現状に必死で、既に他の部屋に修行僧の仲間が居ないことに気付けなかった。だから沢山の疑問が浮かんでいるばかりだった。


 なのに、純は反応が早かった。

 それはきっと、先程の数少ない会話から、艶さんが竜神の核を美乃ちゃんに譲ったことを悟っていたから。


 もう少し早く狼族が襲撃して来てくれたら、もう少し早く私達がこのことに気付けたら、艶さんは死ななくても良かったのかもしれない。


『誰かを守る為の死、か……』


 あの日も、おじいちゃんとお兄ちゃんは私を庇って死んだ。あの時の私はただおろおろするばかりで、凄く無力なただの子供だった。


 でも、美乃ちゃんは違う。

 あの時の私よりも(歳はいくつか知らないけど)小さいはずなのに、しっかりとした意志を受け継いで逃亡という道を選べている。


 もしもあの時、私がもっと早く "助けを呼びに行く" という選択をしていたら、お兄ちゃんだけでも助けることは出来たのではないか。


『千尋、』


 急に純が私を我に返らせた。私は名前を呼ばれたことに驚き、目を丸くする。


 ――純が私の名前で呼んだ。


 この事実が嬉しかった。思い切りハグしたかった。

 だけど、純の金色の目を見て思い留める。


『純、その目――』

『金色の目は神様の証し』


 純はあっさりと答え、続ける。


『ずっと考えていた……私が風を操れる意味を。それで、気付いたの。私は風神だと思う』


 先程、狼族のリーダー格がそんなことを言っていた気がする。

 でも、驚かなかった。


『風神……やっぱり、純が……!』

『千尋と同じで、記憶は無いのだけど』


 そう言いながら純が私の胸元に触れて来る。


『私、知っているの。ここにあるネックレスは、水神の核に間違いないわ』


 自分が水神だとは解っていた。

 だけど、ネックレスが水神の核だと赤の他人から指摘されたことは今までに一度も無かった。


 そもそも、このネックレスはお兄ちゃんの形見。確かにこのネックレスを受け取ってから全てが始まったとはいえ、水神の核が形見の中に含まれているとは今まで考えたこともなかった。


『でも、ごめんなさい。それ以上のことは、まだ思い出せないの。でも、何となくだけど……それの、水神の核のことなら解る気がするから、もう少し待ってほしい』


 純がそう答えて目を元に戻した。そして私の手を握る。

 更に驚きつつも、私は純の手を握り返した。


『これから、熊族を引き付けようと思うわ。でも、きっと千尋の足の速さでは、もしかしたら追い付かれてしまうと思う』


 ギクリとして手を強く握れば、純はふぅと軽く溜め息をついていた。


『だから、私は風を使おうと思うの。風神だと自覚した今なら、多分、千尋と一緒に飛べると思う。でもきっと、私だけでは魔力が足りなくなるかもしれない……』


 純の魔力は、確かに私よりもずっと少ない方だと思う。それは純自身も解っていたのか、この期間の修行でも魔力をあまり使おうとはしていなかった気がする。


 風を使うのにどれほど魔力があれば良いのかは解らない。空を飛べる咲九は30分が限度と言っていた。

 だけど、それで少しでも熊族より速く人里まで降りることが出来たら、危険から少しでも距離を置くことは出来る。


『純に協力すれば良いのね?』


 私は素直に応じた。

 今は私のプライドなんて捨てよう。純が私を水神だと認めてくれたように、私も純を風神だと認め、信じよう。


 ――純は決して嘘をつく目をしていないのだから。


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