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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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103 ☴(⛩) 美乃ちゃんの告発

 今、艶さんは高齢とは思えないほどの速さで木々の間を抜けて行く。


 その後を、修行僧を含めた数人で追い駆けるものの、すぐに突き放されてしまう。

 突き放したと解っているのか艶さんがスピードを落とし、私の良く利く鼻で何とか残り香を掴むことで追い付けるものの、それでは意味が無いとばかりに、この駆け抜ける修行を何度もさせられる日々を過ごしていた。


 体力派の修行を選んだ私の一方で、千尋は技術派の修行を強いられているようだった。

 寝室が同じ部屋ということもあってか、18時に切り上げて入浴後に部屋に戻り、今日の出来事やコツなどを交換する。


 これが6日間続いた7日目、艶さんは唐突に私達を呼び出した。




 1日目の話しは大したことでは無かった。


 艶さんが知り合った千春こと私の祖父は、ここで同じ修行をした仲だったらしい。

 その修行中に不運にも悪鬼が襲撃を仕掛けて来る。その時に祖父は大怪我をしてしまい、一時は歩けるまでに戻ったものの、悪鬼の瘴気によって完治は出来なかった。そこで仕方なく、祖父に近隣の闇医者を紹介したのが艶さんだった、ということだった。

 ところが、その闇医者でも完治までは出来ずに失踪。その後、祖父とは一切連絡が出来なくなってしまった、ということだった。


 あとは、守護神がどういう存在なのか、ということ。それは千尋からも少し聞くことが出来た。

 守護神は大体が2人1組で行動するものらしい。1人が土地を守り、もう1人が住人を守る。この里には居ないものの、艶さんにも相方に当たる存在が居たらしく、その存在が居たからこそ、艶さんは特殊な里を形成して育成に励むことが出来ていたらしい。

 本来の守護神はそういう存在であることを知った。


 その土地側の守護神の、リーダー格に当たるのが属性神らしい。

 とはいえ、属性神は特に何かをする訳では無く、魔力を神器に送ることで、その神器が全自動で全ての環境を良くしてくれるという、何とも名ばかりの存在だと云われているらしい。

 故に、属性神の誰が欠けても環境というバランスは崩れる、とは風の噂。




 今回の呼び出しは、一体どんな話しなのだろうと思いながらも私達が艶さんの部屋に向かえば、居たのは美乃ちゃん独りだけだった。


『お呼び出ししてすいません。お2人には話しておきたいことがあったので……少し良いですか?』


 そう言いながら、美乃ちゃんは左端にあった可愛らしい4人掛けのテーブル席に私達を案内した。

 私達は素直に座り、向かい側に美乃ちゃんが座る。


「おばーちゃんが居ない間に……と思って、です。こっちでお話ししても、結界があるので外には漏れないです」

「艶さん……やっぱり、どこか悪いの?」


 千尋が訊ねれば、美乃ちゃんは少し暗い顔をした。


「です。実はお2人が来る前に、里を移転したのはその為で……」


 千尋がなるほど、という表情をしていたので訊ねる。


「悪鬼の襲撃にでも……?」

「あ、いえ、そっちではないのです」


 慌てた様子で美乃ちゃんは答える。


「悪鬼は悪いヤツですが、追っ払うだけなら問題はないのですよ」

「じゃぁ一体何が……」


 と言いかけた千尋を私が止めさせた。

 千尋が驚いていたが、私は黙って美乃ちゃんの返事を待つ。


 ――千尋は他人を急かす。それが悪い癖。


「……この山には、沢山の妖怪が里を持っています」


 妖怪、と急に言われて私が唖然としていれば、千尋があぁ、と納得した表情をしていた。


「そう言えば去年、この里で妖怪を見かけたような……」

「ですです。彼らは狼族の一派で、この里を半年間だけ守る代わりに、その期間だけ若い衆に同じ修行をさせて欲しいと頼み込んで来たのですよ。私は良い案だと思ったけど、おばーちゃんは断ったのです……」

「断る? 誰でも受け入れる里なのに、何でまた……」


 私は何となく断った意味を理解した。だからその千尋の疑問に答える。


「狼族の他にも、この山には様々な種族が住んでいて、1つの種族だけに肩入れすることは出来ない、ということではないのかしら」

「そー言っていました、です」


 美乃ちゃんは答え、そして視線を下げる。


「その所為で里は何度も狼族に襲撃され……移住を余儀なくされたのです。その度に、おばーちゃんが新しい里に結界を張り直し、今の里が出来上がっています。ですが、竜族であってもおばーちゃんは高齢……その中でも長生きしている方で、年内には竜神の核を私が受け継ぐことになっています」

「ってことは、艶さんに会えるのは今年が最後……」


 千尋の言葉に美乃ちゃんが頷き返した。

 だけど、恐らくはそれが本題では無いはず。

 私は美乃ちゃんを見ながらも、本題を聞き出すために口を開く。


「それと妖怪が住んでいることに、どんな関係があるの?」

「……妖怪同士の大戦争が、この山で始まろうとしています」


 その発言に唖然とした。

 そうなれば、ここも戦場になる。死人が出る。


「いえ、実際には大きくないだけで既に始まっているのです。ただ、何れはこの里にも戦火はやって来るだろうと、おばーちゃんはそー言っていました」

「そんな……」

「……こんな時に、美乃ちゃんが核を受け継ぐの?」


 千尋は真っ青な顔で美乃ちゃんを見ていた。

 美乃ちゃんは顔を上げ、しかし、力無く頷く。


「です。でも、仕方ないのですよ」

「そんなの危なすぎる……! それこそ美乃ちゃんの命にだって関わって来るのに?!」

「でも、仕方ないのですよ」

「仕方なくないよ! そもそもこの情報だってどこからか漏れていても解らないじゃない?! そんなのっ」


 またしても、私は千尋を止めさせた。

 千尋はハッと我に返ったのか、急に静かになる。


 美乃ちゃんはもう意を決めていた。だからこうして話しをしてくれている。

 ならば、私達に言えることはもう何も無い。


 だけど、それが美乃ちゃんの言いたいことではないはず。

 どちらかと言えば、今の美乃ちゃんは私達を心配しているように思えた。


「この里に戦火が来れば、里の者が総出で守護する手筈になっています」


 美乃ちゃんはか細い声で呟いた。


「この里は既に有力な妖怪の里から包囲されていて……これ以上、里ごとの移住は出来ないのです。だから、戦う以外に選択肢はないのです」

「戦うって……」

「そうなってしまったら修行は出来ないですし……そもそも、この山の規定では、里間の争いに山の者以外を巻き込んではならない、ということになっているのです。だから、千尋おねーちゃん達は、皆と一緒に強制的に家に送り届けることになっているのです」


 私は瞬時に理解した。


 強制送還の魔法は禁忌とされている術の1つ。そんな術を組んで使えるとしたら、禁忌とされる前に知っただろう艶さん以外にありえなかった。

 しかし、この里で修行をする者は、私が思っていたよりも多い。これだけの人数にその術を使えば間違いなく魔力は底を尽きる。つまり、里の結界は消えてしまうことになる。


 この里に住む人も、大元はどこか違う街からやってきた者達ということは聞いていた。里の掟で、ここでは竜族以外に子供は作れない。つまりは、完全な山の者は2人しか存在しない。

 その者達を含めて、艶さんは強制送還するつもりなのだろう。


 しかし、そうなれば艶さんは敵襲に対抗する魔力が無くなり、確実に命を落とすことになる。

 そこで竜神の核を美乃ちゃんに譲るということだろう。


 だけど、残された美乃ちゃんはどうなるのか。


「待って」


 私は思わず美乃ちゃんの次の発言を止めた。


「美乃ちゃんは、それでどうするの?」

「私は、逃げるです」

「どこに? さっき逃げられないって……」

「舐めてもらっては困ります! 独りであれば、問題無く逃げ切れますです!」


 自信満々に美乃ちゃんは答えたものの、すぐに表情に影を落とす。


「問題は、万が一にもおばーちゃんが……魔力不足の理由で術式を失敗した場合なのですよ。失敗したら、全員を強制的に家に帰せなくなってしまうです。その場合、おねーちゃん達は真っ先に溢れてしまう予定なのです……!」

「それは私が神様だから?」


 千尋は間髪を入れずに訊ねた。

 金色の目で美乃ちゃんを半ば睨みつけているようにしか、私には思えなかった。


 美乃ちゃんもビクッと肩を震わせてから、仕方なさそうに頷く。

 それを見ていた千尋は悲しそうな溜め息をついた。


 理由は容易に想像が付く。

 単純に、修行僧の中でも千尋と私の出身が他の者よりも()()()()()だからこそ、自力で逃げられると踏んでいるのだと思う。


 確かに術の種類という点だけで言えば他の誰よりも多く知っている自信はあるものの、だからといってそれを完全に使いこなせている訳ではない。結局は場数を踏まなければ解らないことばかり。

 もっとも、どんなに私がそう強く思っていても、他人からしてみれば知らないよりは知っている方が有利だと考えられてしまう。


 結局は、そういうことなのだろう。


「山の者以外には手を出さない、という規定はあるようで無い……ということか」

「ですです。"巻き込んではならない" とあっても所詮は強い者が修行をする里……どんな姑息な手段を使われてもおかしくはないのです。実際、前の里の時は "だいなまいと" と呼ばれる爆弾を投げ込まれて死者も出ましたです……」

「物騒な!」


 即行で千尋は怒りを露わにしていたものの、私はそうかとどこか納得していた。


 かなり前にも、似たような話しを体験した気がする。


 その時も確か、私は同じくらいの女子と幼い子と一緒に居たと思った。

 この話しを聞いた3日後の朝に全く同じような事が起きて、同じくらいの女子が怪我を負って……私はその女子を見捨てて帰宅するしかなかった。


 だけど、もしもそんなことが起きたとして、今の私は千尋を見捨てることなんて出来るだろうか。


 不吉なことを考えていた所為か、私も思わず溜め息をついてしまっていた。

 そもそも、千尋だってあんな大怪我をするほど負傷することは思えないくらいに結界の力は高い部類。でも、もし千尋に何か起きたとして、その時は私が命を張ってでも千尋を守りたいと思う。

 だって、千尋が居なかったら私がここに来ることは無かったし、ここに来なければ艶さんから属性神の情報を聞くことも出来なかったのだから。


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