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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
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102 ▲(☉) 情報収集

 香穂里が私の部屋で一緒に寝るようになってからしばらくして、意志を固めたような顔で頷いてから私を真っ直ぐに見つめて来た。

 が、ベッドの上に胡坐を組んでいる所為か、せっかくの場面が台無しになってしまう。


「紗穂里。私、パパを探しに行きたい」


 とはいえ、答えは解っていた。

 だから私も向かっていた机ではなく香穂里の居るベッドに向かって座り直す。


「パパは囚われたのだと思う。だってパパが勝手に、何の連絡も無しに長期間、私の前から居なくなることなんて一度も無かったから。パパが悪い人だと解っても、…… 娘の私を騙すような人では無いと思う」


 香穂里はこの現状を受け入れていた。

 きっと、これが香穂里なりの成長だったのかもしれない。それならば、私も今の香穂里を受け入れるしかないと思う。


「解ったデショ。でも、今は体が大事。無理はしないでおくれ」

「うん。解ってる」



 あれからも、香穂里は何度か倒れては、断片的に言葉を残すようになっていた。

 それを調べるのはもっぱら私と姉で、母親が私達の情報を総合して家族に話してくれている。


 香穂里はそれをも理解し、飲み込んで、それでもこの答えを導き出した。



 属性神の核は世界の大自然の均衡を(神としては無意識でも核を所持しているだけで)平均に保っているらしい。その核を奪われてしまえば途端に均衡が崩れ、下手をすると世界崩壊を招く……とされている古代の文章が存在するらしい。

 しかしながら、それを担っているのは核だけにあらず、属性神の神器にもその能力は宿されているらしい。その神器は天界でもなく、地界……この世界でもない、どこか全く異なる次元に保管されている、という噂。


 こんな内容を集積し、まとめている間にも、黒い仮面は無関係な人間まで巻き込んでいるというニュースが母親から齎された。そういう日はずっと香穂里が怒りの所為か黒い炎を醸し出していたものの、その力は今までとは異なり、どこか弱々しく感じられてはいた(とはいえ、姉は始終怖がっていたけど)。


 今の私はといえば、あの日あの時の事象と同じような、無意識の香穂里が言っていた "キョウカイ" を探している。

 が、単純に "キョウカイ" と言われても漢字にしても "教会"、"協会"、はたまた新しい単語という可能性も考えられる。

 そこに居る神様なら全ての神器が封印されている場所が解る、ということだったが、残念ながら判明しては居なかった。


 無意識の香穂里は本当に何も覚えていないようで、しかし、その直前までの記憶は残っているようだった。

 そのためか、私達の情報を聞いてかなり驚いていたり、(恐らく岸間家の間で流通していただろう)情報を提供してくれたりしてくれている。



「今日もパパの情報は無し、か……」


 香穂里の父親のことに関しては、私の父親が(どういう方法で、などは解らないが)白雲運河と連絡をとってくれていた。

 が、あれから白雲運河も忙しいらしく、未だに一度しか情報提供はされていなかった。その情報というのも、『生きていて、誰かと会話をしている』というだけで居場所まで明らかにはなっていない。



 情報と言われて、私は何気なく如月さんを思い出していた。

 きっと、如月さんなら情報を持っている。だけど、どのくらいの報酬料がかかるのか、までは解らない。

 そもそも、白雲運河でも知らないことを如月さんが知っているとは思えなかった。


「……ねぇ」


 ベッドにいつの間にか横になっていた香穂里が呟く。


「如月に聞いたら……早いのかね?」


 同じことを思っていたか、何て小さく呟いてから答える。


「どうデショ」

「……私ずっと思っていたんだけどさ、如月って白雲運河の雰囲気に似てない? あの白いオーラに、無感情の口調に、私らより強い魔力を持ちながらも参戦しない態度……」


 ――それは私も思ってはいた。


「でも、何かが違う気がするデショ」

「そうなんだよねー。何と言うか……」



「如月が白雲運河に真似されているような」

「白雲運河が如月さんを真似しているような」



「「・・・」」


 言い方は異なっていたものの、言った内容は同じ。

 つまり大元が如月さんで、それを真似しているのが白雲運河、ということ。


 何でそう思うのかは解らないまでも、私達だけで同じ考えをしているのだから……きっと他の誰が見てもそう思うような気がする。


「神器の情報に関しては、もしかしたら如月さんが知っている可能性は高いデショ。何せ音神……ほら、広範囲の音を聴き取れる訳だし」

「そうねー。じゃぁ、連絡をとってみたら良いんじゃない?」

「でも前に言ってたデショ? 休暇中だと連絡が付かないって」

「……あぁ、携帯の電波が立たない山奥に住んでいるとか言っていたっけ」

「だから無駄かなぁ、と。そもそも、訪ねるにしても住所が解らないし……どうしようもないデショ」


 というのは言い訳で、本当は大体の調べはついてある。

 それでも行かないのは、姉が少し意味深なことを呟いていたため、というのが本心だったりする。


『今、美島市の結界が強化され、いくら電車に乗っていても美島駅付近だけ眠りに入ってしまって、その市の住人ではないと乗降出来なくなっているらしい。多分、通勤・通学では特殊な切符が使用されているから、それで分離されているみたいだけど』


 つまりは、その市でも何かが起きている、ということ。市内で何が起きているのか、までは姉でも母親でも探れていない。

 そういう所に今の私達……特に、追われているだろう香穂里を向かわせる訳にはいかなかった。



 卓上のカレンダーを眺めていた香穂里が何かに気付く。


「そう言えば、再来週、紗穂里は図書委員の集まりがあるんだっけ?」

「……そう言えば、そうだねぇ。すっかり忘れていたけど」


 ――うっかりしていた。


 私は慌てて、しかし心境を悟られないように本棚の下に入れていた鞄に筆箱を投げ入れ、手元にあった携帯を充電し始める。

 が、本当にうっかりしていたことが伝わったのか、香穂里は失笑を漏らしていた。


「忘れていたのか……」

「し、仕方ないデショ! ……紫も、忘れていそう」

「確かに」


 そう呟かれる前に私は携帯を手にしていた。ちゃっちゃと『再来週、図書委員あるよ。忘れないでね』と打ち込んでメールを送信する。

 すると、早くも紫から発狂メールが戻って来ていた。


「ホント、何かに夢中になると忘れるよね、紗穂里は……」

「うっ。……し、仕方ないデショ。反省はしている、つもりだ!」

「そこ威張るところじゃないって」


 何て会話をして笑い合う。



 ――こんな日が、続けば良いのに。


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