第98話 続過去の夢 その4
マリーの弟子になってから、そのまま冒険者ギルドで冒険者の登録を済ませて、さっそく依頼を受けた。
「これからライトの学校が終わったら、ここで待ち合わせて依頼を受けに行くよ。強くなれてお金ももらえるから一石二鳥だろ?」
ということらしい。
初めての依頼はゴブリン退治だった。
「巣に殴り込みに行くからよろしくな」
えっ!? ……それほんとに初心者用の依頼なのか!?
手続きとかは全部お任せしちゃったけど。
「あたしがついてるから大丈夫さ。……ところで、ライトはこれ使ったことある?」
マリー……あ、これから師匠って呼ぶことにしたんだった……が、1枚のカードをひらひらと振った。
「いや……ないけど。というか、それ何?」
「こいつは魔法陣符っていってね、魔力を流すだけで魔法を発動できるんだ」
「ほんとに?」
「ああ。ただし、このカードにあらかじめ魔法陣を描いておく必要があるのと、対象の魔法を普通に使うより、少し魔力を多めに消費するから注意が必要なんだけどな。かなり便利だよ、ライトも魔法を使えるなら、一度試してみるといい」
そう言って、俺に一枚貸してくれた。
師匠は最初、俺を剣士だと思ったらしい。
俺が魔法の勉強をしてるって言ったら、剣だけじゃなくて魔法も教えてくれることになったのだ。
「さて、問題です。そのカードに描かれているのは何の魔法陣でしょう?」
「うっ……、これ……は、回復?」
「正解。さすがにそれは分かるか。……よし、それじゃゴブリン退治に行くよ」
師匠はスタスタと城壁の方へ歩いていく。
えっ、ちょっと待って、装備品の準備とか確認とかやらなくていいのか?
師匠は振り返らない。
俺は置いて行かれないように、急いで後を追いかけていった。
ゴブリン退治……いや、正確にはゴブリンの巣の殲滅……から戻ってきた俺は疲労困憊だった。
「初めてにしては悪くない動きだったね。はい、これがライトの分」
冒険者ギルドの待合室みたいな所にあるテーブルに突っ伏している俺の頭の横に、師匠が革袋を置いた。
チャリンと音がする。
俺はそれでも顔を上げられなかった。
いや、この依頼……俺じゃ絶対受けられないやつだったよな。
四方八方からゴブリンが襲いかかってくるあの恐怖……俺は回想しながらぶるりと身を震わせた。
同時に師匠が鬼のように強いことも分かった。まぁ今更だけど。
そして、異なる魔法を同時に発動できる、両の腕を振るう者だった。
俺のクラスに魔法陣の最後の一筆を入れずにいくつか描いといて、連発する猛者もいたけど、それはあくまで一撃ずつ発動する感じだ。
師匠のは違う。一瞬で二撃発動する感じだ。
だから組み合わせる魔法によっては、えらいことになる訳で。
……「炎」と「風」を使用して、炎の渦がゴブリンたちを巻き込んでいった時には、生きた心地がしなかったんだよ、ほんとに……。
「明日も、学校が終わったらここで待ち合わせだ。……ちゃんと来るんだよ」
そう言って師匠は手を振りながら建物から出ていった。
……俺、生き残れるかな……。
この一年と半年、途中、何度かヤバい目に遭いながらも、俺は何とか生き残って、ついにこの日を迎えることができた。
「卒業おめでとう、ライト」
そう言って、師匠は右手を差し出してきた。
「ありがとう」
俺は師匠の手を握り返し、握手をした。
師匠のお陰で、学校の模擬戦闘で俺に勝てる人はほぼいなくなった。
「……でも残念だな、せっかくBランクまで上げたのに、やめて田舎に帰るなんて」
師匠はほんとに残念そうに手を放した。
「うん、ごめん……。でも決めたんだ、じいちゃんの跡を継ぐって。まぁもともとそのつもりでじいちゃんも俺を学校に通わせてくれてたから……」
「ああ、それはライトの人生だから、あたしがとやかく言うことじゃないさ。……ライトさえ良ければ一緒に旅でもって思ってたけど、しょうがないね」
そう言って師匠は肩を竦めた。
「ライトの故郷はインディア……だったっけ?」
俺はうなずいた。
「セプテントリオネモンスウェニレエスピリトゥスドラ神殿へ巡礼に行く人が通る村よね」
……すげえ、あの神殿の名前をガチで言える人がいた。……じゃなくて。
「そうだよ」
「……ところでライトは今いくつだっけ?」
「えっ? ……15だけど?」
師匠は意味ありげにニッと笑った。
「そうだね、あと三年後ぐらいにお邪魔しようかな。……それじゃ、気を付けて」
師匠は俺の背中をばしりと叩いた。
俺はよろけながらも師匠の正面に来て一礼した。
「今までお世話になりました。ありがとうございました!」
俺は手を振りながら師匠と別れた。
それが師匠を見た最後の日だった……。




