第95話 犯人
次に目を開けると、すぐ側にカーペットと壁が見えた。 どうやら床に転がっているようだ。
猿轡をされ、後ろ手に縛られていては何もできない。 身じろぎをすると、誰かが近付いてきた。
「……お目覚めのようだ。主様をお呼びしろ」
上から声が聞こえた。……いよいよ犯人とご対面か?
しばらくすると、ドアが開く音が聞こえ、数人が部屋へ入ってきた。
壁の方を向いているため見えないが、誰かが椅子に座ったようだ。
「連れて来い」
その人物の言葉で、俺は無理やり上半身を起こされ、両脇から抱えられた。
あれ?うまく立てない……。
なかば引き摺られるようにして、椅子に座る人物の前に連れていかれ、跪かされた。
椅子に座る人物は、華美な服装ではないが、それなりに良い生地が使われているのが見て取れ、ブロンドの長髪を後ろで緩く結っており、切れ長のダークブルーの瞳をしている壮年の男だった。
「ふむ、しっかり薬が効いているようだな」
うまく立てなかったのはそれの所為か!ほんとになにしてくれてんだ……!
俺は椅子に座る人物を睨みつけた。
「なかなか威勢が良いようだ。そういう所を王女様はワイルドと表現されたのかもしれんな」
王女様……? ……あ。まさか……。
「王女様は去った君のことが忘れられないそうだ……ノルドツァンナへ嫁いだ私の娘が言っていたよ。君を王女様に引き合わせることが出来れば……娘や我が家に、相応の恩寵があるに違いない」
それが理由ってことだな、ほんとに傍迷惑なやつめ。
「だが、ただ引き合わせるのも面白くない。……私はこう見えて、少し隷属魔法を扱うことが出来てね」
その人物が椅子から立ち上がり、俺の前までやってきた。
そして顎を掴んで上を向かせ、視線を合わせる。
「あの美しく偉大な精霊竜を使役できる君は、精神力が強いのだろう……だから少し薬を盛らせてもらったのだよ、隷属魔法にかかりやすくするためにね。君はこれから私の傀儡となり、我が家のために働いてもらおう」
その人物の瞳が妖しく光る。
だめだ、目を逸らせない……!見ちゃいけないって分かってるのに……。
ベヒモスに頼む訳にもいかない。リナベル、どこにいるんだ!? これ以上はヤバいって!
その時、入口の扉が荒々しく開かれた。
「そこまでだ!その者を放してもらおう!」
入口から入ってきた黒装束の10人程の部隊が、素早く動いて、あっという間にその部屋にいる全ての人物を拘束した。
「ライト君、大丈夫!?」
支えを失って床に倒れ込みそうになった俺を、リナベルが抱きとめた。
危ないところだったけど、何とか……。
俺はほっとして、身体の力を抜いた。
そんな俺を見たリナベルの瞳孔が、縦長になった。
えっ、何で……!?
「……後はお願いしてもいいのかしら?」
リナベルは黒装束の一人に声をかけた。
「はい、この者達の処理は我々にお任せください」
「ありがとう、よろしくね」
悪態をつく貴族達をよそに、リナベルは俺を抱えて、その部屋を後にした。
そして、どうやら王城から離れた場所に移動させられてたみたいだったけど、リナベルは俺を抱えたまま、あっという間に王城の俺たちが案内された部屋に戻ってきた。
見ると、リナベルの耳が尖ってる。
「ごめんねライト君、もう我慢できないわ」
俺はベッドに下ろされた。猿轡と手の拘束はそのままだ。
ま、まさか……!
「抵抗されないと思ったら気分が高揚しちゃって」
いや、それダメなやつ……!
「んんっ……!」
リナベルが俺に覆い被さり、首筋に犬歯を突き立てた。
「はぁ……ここしばらくご無沙汰だったから、生き返るわ……」
俺は色んな意味で死にそうだけどな。
……もう二度と、絶対に、こういう依頼は受けない。
俺はそっと固く心に誓ったのだった。




