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ある冒険者たちが世界を救うまで  作者: 如月つばさ


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85/120

第85話 過去の夢 その2

「……カラス」

「カラス?」

「……俺に付けられたあだ名。……クラスでそう呼ばれてるんだ……」

 目の前で燃える焚き火を見ながら、俺はそう切り出した。

 マリーはじっと俺の顔を見ている。

「最初はほんとに些細な事で……。俺のクラスに虐められてた奴がいて、そいつを助けたら今度は俺がターゲットになっちまって……。そこから“カラス”呼びだよ、こいつといると不幸になるぞってね……」

 俺は火の中に小枝を投げ入れた。

「……いろんな嫌がらせをされたし、時々暴力を振るわれたりもしたよ。……やられっぱなしは癪に障るから、少しやり返したりもしたけど……結局数倍になって返ってくるから、最近は無視してたんだ……」

 俺はもう一本、小枝を投げ入れた。

「でも昨日……授業が終わってから、俺をターゲットにしてるグループのリーダーに捕まって、私刑(リンチ)されちまったんだけど……」

 俺は投げ入れようとした小枝を、片手で握って折ってしまった。

「そこにあいつがいたんだ!俺が助けた奴が……!あいつは俺に〝お前のお陰で助かったんだよ、ありがとう〟って言って、俺の腹にパンチをくれやがった……!」

 俺は折った枝を乱暴に火の中へ投げ入れた。

「ショックだったよ……どうしてあいつがそっち側にいるんだ……って!……んで、むしゃくしゃして……気付いたらここに来てた……」

 俺は俯いて地面を見つめていた。

「……魔物と戦ってたら、いつか死ねるんじゃないかと思って……」


 気付くと、マリーが目の前に立っていた。 怖い顔をしている。

「やっぱりあんたも殴るのか……?……そうだよな、魔物には俺の事情は関係ない……」

 そこで突然、マリーから抱きしめられた。

「く、苦し……」

 胸が当たって……。

「あんたの言う通り、魔物にはあんたの事情なんて関係ないよ。だからそれは悪いことだ。……だけど、あんたも苦しんでたんだね……自らの死を願うほどに。……何もかもうまくいかなくて、自棄になる人も確かにいるけど……あんたはまだ若いんだ。全てを投げ出すのはまだ早いよ」

 マリーは俺の頭を優しく撫でた。

「けど、ずっと独りで抱えてきたんだろう、辛かったね……」

 分かってくれる人がいた……。

 そう思ったら不意に一粒、涙が零れた。

 そこからはもう、涙が止まらなかった。

 マリーは俺が泣き止むまで、抱きしめたままずっと頭を撫でてくれていた。


「……俺はどこで間違えたんだろう……?あいつに対して……どうすれば良かったんだ……?」

 ひとしきり泣いた後、俺はぽつりと漏らした。

「あんたは間違っちゃいないよ。ちゃんとできることをやったんだから。精霊竜の裁きが下るのは、あんたが助けてやった奴だろうさ。あたしの信仰するサラマンダーなら、間違いなく焼き尽くしてるね」

 マリーは少し力を緩めて、俺の頭をぽんぽんっと軽く叩いた。

「……ありがとう……聞いてくれて。……あんたのお陰でちょっと楽になったよ」

「どういたしまして」

 そう言って微笑んだマリーの顔は、とてもきれいで眩しかった。



「う……」

 考えないようにしてたのに、夢で見てしまうなんて。

「……師匠……」

 俺はベヒモスの毛に顔を埋めた。

〝どうした?怖い夢でも見たか?〟

「怖い……そうかもしれない……。ベヒモスは、紅い機神を覚えてる?ルフトカイザーでリナベルとコーディが相手してたやつ」

〝ああ、覚えている〟

「それ……俺に戦い方を教えてくれた、師匠かもしれなくて……。いや、十中八九、師匠だと思う……俺の呼びかけに反応してたから……」

 俺は顔を上げ、上体を起こした。

「師匠を助けたい……、けど、どうしたらいいんだろう……」

〝そうだな……、まずはヒルダとやらに聞いてみるがよい。昔の技術に詳しいのだろう?〟

「そっか……うん、わかった。ありがとう、ベヒモス」

〝助ける糸口が見付かればいいがな〟


 それから少しして、奥の部屋からリナベルとヒルダが出てきた。

「コーディは……?」

 俺はベヒモスから下りて、二人のもとに駆け寄った。

「大丈夫、ちゃんと治療できたよ。けど、まさか循環機をやられるとはね」

「それって……?」

「人間でいうところの心臓に近い働きをする機関でね。結構頑丈にガードしてあるんだけど、大剣を折った上に、あそこまで達する傷をつけられるなんて、いったいどんな奴と戦りあったんだい?」

「天のヴァルドファードだよ」

「なんだって!? ……復活したのかい!?」

「うん、俺たち丁度目撃してしまって……」

 ヒルダにその時の出来事を話した。


「よく無事に……じゃないけど戻って来れたね」

「ほんとにな」

「まぁともかく、コーディは少し様子を見る必要があるから、あんたたちもその間ゆっくりすればいいさ。……ああ疲れた。あたいもちょっと休んでくるよ」

 ヒルダはひらひらと手を振りながら部屋から出ていった。

 そっか、ずっとコーディの治療をしてたからな……。

「じゃあ私も休むわね。……久しぶりに慣れないことやったら疲れちゃった」

 部屋を出て行きかけたリナベルに、声をかけた。

「コーディに会ってもいいか?」

 リナベルはにっこり笑った。

「いいわよ。……寝てるからそっとしておいてあげてね」

「わかった」

 部屋を出て行くリナベルを見送ったあと、俺は隣の部屋のコーディの様子を見に行ったのだった。

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