第78話 出発
夕方になって、ヒルダはようやく目を覚ました。
「あ……れ?何でベッドで寝てる……?」
「母さん、精霊竜の剣に精神力を吸い取られたんだよ」
「んん……?……ああ、そうだったのか……」
どうやら思い出せたらしい。
「あ、起きたわね。勝手に夕食作らせてもらったわよ」
リナベルがいい匂いの漂う皿を運びながら、ヒルダに声をかけた。
「ああ、構わない。むしろ助かるよ。……ところで、あんたたち、明日にはここを発つんだろ?」
「ええ、そうね……昼過ぎぐらいには出ようかと思ってるわ」
「また寂しくなるねぇ」
「本当にそう思ってる?」
リナベルはにやっと笑いながら、ヒルダに手招きした。
「起き上がれそうならこっちで一緒に食べましょ。
……ライト君はそこで食べる?」
俺はベヒモスの前足の上に座っていた。
ここにはヒルダしかいないのが分かってから、ベヒモスは姿を現したまま、ずっと俺の側にいた。
言葉にこそ出さないが、どうやら心配してくれているらしい。
「いや、皿が持てないからそっちに行くよ」
ほんと、こういうちょっとしたことが不便なんだよな。
俺が立ち上がると、ベヒモスも付いてきた。
「ん?ベヒモスも食べるのか?」
この身体の大きさだから、絶対足りないと思うけど……。
〝いや、我に食事は必要ない。お前がちゃんと食べられるのか見るだけだ〟
保護者かよ!……俺の突っ込みが聞こえるはずはないのに、何故かリナベルがくすくす笑っていた。
そうして揃って夕食をとった後は、各自分かれて休むことにしたのだった。
ちなみにベヒモスは俺が使っている部屋まで付いてきて、俺をベッドで休ませずに、自身の身体の上に置いた。
ベヒモスは意外にもお日様の香りがして、良く眠れたのだった。
「いろいろありがとうヒルダ。あれから身体はなんともないか?」
次の日の昼過ぎ。俺たちは支度を終え、ヒルダに挨拶をしていた。
ベヒモスはいつの間にか姿を消していた。
「ああ、心配ないよ、大丈夫さ。……最後にちょっと確認をさせておくれ」
ヒルダは俺の左手の手袋を外して、様子を見た。
「……うん、侵食は止まってるね。……いいかい、絶対にこの腕輪を外すんじゃないよ。ちゃんと手順を踏んで外さないと、止めてた時が戻ってくるからね」
ヒルダは俺に手袋をはめながら忠告してきた。
「外す訳ないだろ、誰がそんな恐ろしいことするんだよ」
「ははは、そうかい。ならいいんだけどね」
ヒルダは笑いながら俺の左手をぱしぱしと叩いたが、全く感覚が無かった。
「……ところで、何でこんなのを持ってたんだ?」
「その腕輪かい?……昔、注射が嫌いなネイティブガンナーがいてね、そいつ用に作ってもらったのさ」
そんなに嫌だったのか、注射……。確かにこれ付けてたら痛くないよな。
「なにはともあれ、気を付けてお行き。ナノマシンが完成したら、そのナビゲーションボードとやらに連絡を入れるよ」
「分かった、ありがとう」
「それじゃ、行くわね」
「またね、母さん」
「ああ、気を付けるんだよ」
そうして俺たちはヒルダに別れを告げ、リントヴルムに乗り込んで、一路スールブリッサの南東、機神の基地を目指し飛び立った。
ちなみに昨日どこに行ってたのかリントヴルムに聞いてみたら、「大きなお魚と遊んできたー!」だってさ。結局よく分からずじまいだったよ。




