第75話 過去の夢
そして次の日。
「だ……大丈夫かい?」
ふらふら起きてきた俺に、ヒルダが声をかけてきた。
「とりあえずは……」
俺は椅子に座ると、そのままテーブルに突っ伏した。
「まさか……リナベルにやられたのかい!?」
「正解……」
俺は顔を上げずに答えた。
「そりゃ災難だったね……。それにしたってひどいやつれ様だけど、何かあったのかい?」
「いや、リナベルにも相談しようと思ってたんだよ……ただコーディの方が先になったってだけで……」
心配するヒルダに、昨日の夜の出来事を話した。
「そうだったのか……。まぁ、いつもの姿を見てたら忘れがちだけど、彼女ああ見えてお嬢様だからね。ちゃんと正しく扱ってやらなきゃ拗ねちまうから気を付けな」
「わかった……」
眠くて、そう返事するのがやっとだった。
「あんた、死にたいの!?」
俺は魔物の血に塗れたまま、後ろを振り返った。
背の高い、赤い長髪の女が立っている。
「……そうかもな」
そう自嘲ぎみに返事をしたら、女は俺の前に回り込んできて、自身の手が血塗れになるのも構わず、俺の頬をはたいた。
「なにす……」
「誰だろうと命を粗末にする奴は許さないよ!……そこで倒れてる魔物にも、あんたから喧嘩を売ったんじゃないだろうね!?」
何でわかったんだ?
俺の目の動きから女は何かを察したようで、今度は反対の頬をはたかれた。
そして「炎」の魔法陣符を使用して魔物の亡骸を焼き払う。
「ついて来な!あんたに言いたいことが山ほどあるけど、まずは身体を綺麗にしてからだ!」
女は俺の手首を掴んで、どこかへ連れていこうとする。
振りほどこうとしたが、無理だった。
「放せよ!」
「あんな戦い方をする奴を野放しにできるか!絶対逃さないよ」
女は恐ろしい程の圧を放った。
俺はそこでようやく女との実力差を認識し、逃げられないと悟ったのだった。
近くには池があり、着くなり俺はそこに放り込まれた。
「ぷはっ……!なにしやがる……」
その先の言葉が続かなかった。
女が服を脱いで下着のような格好で池に飛び込んできたからだ。
「背中の方とか届かないだろ?洗ってやるよ」
「じっ……自分でやるっ……!」
「おーおー、かわいいねえ。でも言ったろ?逃がさないって」
俺はそのまま女に身綺麗にされる羽目になったのだった。
服が乾く頃には夕方になっていた。
「今から帰っても閉門時間に間に合わないね。仕方ない、今日はここいらで野宿するか」
女はてきぱきと動いて、あっという間に準備が終わってしまった。
「さ、飯にしようか。……そこに座りな」
その頃には俺も落ち着いていた。
言われた通りに丸太の上に腰掛ける。
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったね。あたしはマリー・スプレンディア、冒険者をやってる。ランクはSだ。……あんたは?」
Sランク……!あの圧も納得だ。
「ライト・アルトノート。……学生だよ、アーイディオンポースの……」
「学生……!なんで学生があんなこと……いや、学校には言わないでおいてあげるから、どうしてか教えてくれる?何があったんだ?」
相手は圧倒的な強者だ。俺に吐かせるのなら、締め上げるなり色々できそうなのに、話を聞いてくれるという。
俺もこの女……マリーに興味を持った。
……でも、どこから話せばいいんだろう……。
「……はっ」
どうやらテーブルに突っ伏したまま眠ってしまったようだ。
懐かしい……夢を見た。でも、どうして今頃……?
「ああ、起きたかい?これでも飲んで目を覚ましな」
ヒルダがお茶を出してくれた。
そうか、ヒルダの口調……少し師匠に似てるんだな、だからか……。
俺はヒルダに礼を言って、カップに口をつけたのだった。




