第74話 確認
コーディがいいよと言ってくれたので、俺たちは洞窟の外に出てきていた。
外は夜の帳が下りようとしていた。
「珍しいね。君から手合わせして欲しいって言ってくるなんて」
海岸沿いを歩きながら、コーディが話しかけてきた。
「ほら、左手がこんなだから、ちゃんと戦えるか気になってさ。コーディなら正しい評価をしてくれると思って」
「なるほど」
「別にリナベルでも良かったんだけど、対価に血をもらうとか言われそうで」
「ああ……」
コーディも容易に想像できたのだろう、苦笑いをしていた。
もうしばらく歩くと、ちょうどいい平地が見えてきた。
「うん、あそこなら良さそうだね。音も岩で遮られると思う」
寝ていたリントヴルムを起こすのも可哀想だしな。
「了解。じゃ、よろしくな、コーディ。……“灯”」
俺はこの辺りだけを照らす明かりを設置すると、片手で鞘から引き抜き剣を構えた。
「こちらこそ」
コーディも大剣を構えた。
「僕を相手に選んだのは、対アクセラバードを想定していたからだよね?……アクセラバードも一撃が重いからね」
「さすがコーディ。お見通しってことか。よし、いくぜっ!」
俺はコーディに斬りかかっていった。
コーディは俺の上段からの振り下ろしを容易に防いだ。
「ハハハ……負ければ我の部下になってもらうぞ、ライトよ」
「ぶはっ……!」
弾かれて距離を取った俺は思わず吹きだした。
「コーディ、それダメなやつ……口調だけ似せてもコーディはコーディだから」
「あれ、そうなの?ちょっと雰囲気出そうと思ったのに」
「いや、そんなのはいいから」
まさかコーディがそんな冗談を言うとは思わなかった。
俺は緩んだ口元を引き締め、再びコーディに斬りかかる。
コーディは俺の横薙ぎを弾き返し、そのまま斬りかかってきた。
バランスを崩した俺はかろうじて避けることに成功したが、コーディはさらに追撃してくる。袈裟斬り、薙ぎ払い、回転斬り、突きを連続で放ってきた。
俺はひたすら躱して、突きを繰り出した後のコーディに下段からの斬り上げを放ったが、躱されてしまった。
「強くなったね、ライト」
「いや、まだまだだな。…… コーディに勝てる気がしねぇ」
コーディはにっと笑うと再び斬りかかってきた。
「僕に勝てないなら、アクセラバードは無理だよ。まぁ、君には魔法もあるし、奥の手もあるから、それらを使えばわからないけど」
正面から受けると見せかけ、俺はギリギリで躱し足払いをかけた。
コーディはジャンプして躱し、そのまま俺めがけて大剣を振り下ろす。
「あぶねっ……!」
左手が使えないのを忘れてた!
起き上がるのに少し時間がかかった俺に、コーディは容赦なく斬りかかる。
俺は受け流すが、コーディの大剣もかなり一撃が重く、何度か受け流すうちに除々に疲労が溜まってきた。
そして次にコーディが斬りかかってきた時。
「しまっ……!」
受け流した際に剣が手から離れてしまった。
コーディの大剣は止まらない。
二連撃……!
「ライトっ……!」
そのままコーディの大剣は俺の左肩から右脇腹までを斬り裂いた。
「がっ……!」
地面に倒れ込んだ俺のもとに、コーディが駆け寄ってくる。
「ライト、回復を……!」
俺はすぐさま“回復”を唱えた。
傷はきれいさっぱり消えていった。
「ふう……。ごめんなコーディ、びっくりさせちゃって……」
「いや、僕の方こそ剣を止められず悪かった。……やはり君の左手が使えない間は、近接戦闘は避けた方がいいだろうね。特に長時間は耐えられないだろうから」
俺の上体を起こしながら、コーディはそう評価した。
「やっぱそうか……。まぁ、しょうがないよな……」
俺は左手を見た。
「大丈夫だよ。君には魔法があるから。それに精霊竜も呼べるし。……本当のことを言うと、君にはここに残ってて欲しいんだけど、ダメなんだよね?」
「当たり前だろ。俺だけ置いてけぼりなんて嫌だからな」
「ふふっ、そう言うと思った」
コーディは少し困った顔で笑っていた。
「じゃあ約束してほしい。しばらくは近接戦闘をしないこと。それと、アクセラバードと遭遇した時は無理はしないこと」
「うん、わかった」
俺がうなずいた時。
「……あら、私は置いてけぼりにしてもいいのかしら?」
その声に、俺とコーディの身体が強張った。
暗闇に真紅の瞳が浮かび上がり、こちらを見ている。
「リ、リナベル……」
めちゃくちゃ怖いんだけど!
そして全く気配を感じなかったんだけど!
俺とコーディは後退った。
「に……逃げる……?」
「出来るならね……」
「逃がさないわよ。……“捕縛”」
俺とコーディに光の輪が巻き付いて動きを封じた。
リナベルはコーディの所までやって来ると、ちょんとつついて地面に転がした。
「わっ……!」
「コーディはそこで少し反省ね。ライト君は……もう分かってるわよね?」
リナベルが俺に近づいてくる。これは逃げられない。
「ちょ、待って……許し……!」
問答無用で首筋に犬歯を突き立てられた。
「ああっ……!」
「……いいわよ、私が満足したら許してあげる」
……これはきっと気絶するまで吸われる……!
俺は絶望に染まった瞳で星空を見上げたのだった。




