第73話 対応策の弊害
リナベルとコーディも、ヒルダが俺の身体を調べるのに付き合ってくれて、結局昼ご飯を食べずじまいだった。
それでヒルダが少し豪華な夕食を用意してくれたんだけど……改めて左手が使えないことの不便さを思い知ったよ。
くそう、ステーキが切れないなんて……!
苦戦してたらコーディが切り分けてくれた。
「ありがとな、コーディ。助かったよ」
「どういたしまして」
そんな俺たちのやりとりを、リナベルとヒルダが微笑ましい感じで見ていた。
「……そういえばリナベル、あんたライトの血にえらくご執心だったねぇ?」
「当たり前でしょ、ライト君、豊穣の力を持ってるんだから」
グラスの水を飲んでいたヒルダは、誤って気管に詰まらせたようだった。
「ごほごほっ……!豊穣の力だって……!? まさか……」
「それだけじゃないわ、精霊竜を呼べるし……なんと精霊竜の剣も生成できるのよ」
ヒルダは今度は飲もうとしていた水を吐き出した。
「ちょっと、汚いわね……」
リナベルはテーブルにかかった水をナプキンで拭いた。
「い、いや、リナベル、あんたおかしいよ!なんで平然としてられるのさ!精霊竜の剣だなんて、生成出来ないもの……」
「この目で見たからに決まってるじゃない」
「この目で見たからって……ええ!? 見たのかい!? 実際に!? ……ほんとだとしたら、そりゃあまりにも規格外すぎるだろ!?」
「あら、でも全部精霊竜に連なる力よ?思い出して?ライト君の名字は?」
ヒルダも吹き出した水を拭きながらすぐに答えた。
「アルトノート……大巫女様の血を引いてるって言っても、最後の……精霊竜の剣を生成できるって本当なのかい!?」
「だからこの目で見たって言ってるじゃない。……そんなに疑うなら、ライト君、ヒルダに見せてあげて、精霊竜の剣を」
俺は頬張っていた肉を急いで飲み込んだ。
「い、今から……?」
ヒルダは俺の前の皿に盛られた食べ物の量をちらりと見た。
「いや、今日はいろいろあったから明日で構わないよ。焦らなくていいから、ゆっくり食べな」
「よ、よかった……」
ただでさえ食べるのに時間がかかってたんだよ。
これからしばらくは、片手でも食べられるメニューにしよう。
「はい、これで全部だよ」
コーディが俺の分の食べ物を、全て一口で入るように切り分けてくれていた。
「ありがとう、ほんと助かったよ」
「またいつでも言ってね」
コーディは優しいよな。
心の中でもお礼を言いつつ、俺は食事を進めたのだった。
食後は各自で自由に過ごしていた。
ヒルダは俺たちにそれぞれ部屋を用意してくれた。
全体的につるんとして無機質な感じがする部屋だけど、寝具がふかふかだったから、俺はちょっとご機嫌だった。
ベッドの隣には机と椅子があり、俺は椅子に座って真祖から借りたぶ厚い本を取り出した。
最近はあまり魔法陣符を使ってないけど、何枚か空きのカードがあったはずだ。
収納魔法の空間から、空きのカードと小さな杖を取り出すと、杖の先に魔力を流しながらカードに魔法陣を描く。
描き終えた後にキラキラと魔力の残滓が舞った。
「これでよし。回復は何枚あってもいいしな」
相変わらず魔法陣を描くのは苦手だけど、さすがに回復はもう間違わない。
本に載ってる別の魔法陣を描いてみようかとも思ったが、結局空いてるカード全てに回復の魔法陣を描いた。
描き入れた魔法陣符を再び収納魔法の空間に仕舞うと、俺はぶ厚い本のページをパラパラとめくった。
暴風刃、吹雪、爆熱光、聖光槍、飛翔、脱出……あれ、俺……ここに載ってるやつを使えるようになったんだよな……?真祖との鍛錬でそこそこ使ったことがあるけど、さすがに全部じゃないから、一度使ってみた方がいいよな。
そして最後のページに。
「創造魔法……?」
“原初の精霊竜のみが使えたといわれる魔法。詳細不明。一説には、この世界を形作った時に使用されたという。”
「へえ……この世界を形作るだなんてロマンだよな。そんな魔法があったなんて……」
俺は余韻に浸りながら本を閉じ、収納魔法の空間に入れた。
そして、ちらっと左手を見る。
「……うん。ちょっとコーディに付き合ってもらおうかな」
俺は部屋を出ると、コーディの部屋へ向かった。




