第72話 対応策
少しって言ってたから、そんなに待たないでいいかなと思ってたら、そんなことはなかった。
ずいぶん待って、ようやくヒルダが奥の部屋から出てきた。
「待たせたね。大体データが出揃ったから説明しようかね」
ヒルダに座るよう促され、俺たちはそれぞれ近くにあった椅子に腰掛けた。
「まずはあんたの身体だけど、健康そのものでどこも悪いところはないね。良かったじゃないか。……それで問題の部位だけど、どうやらナノマシンが打ち込まれてるね」
「ナノマシン……?って何だ?」
知らない単語だ。
「そうさね……、生物を構成する細胞と同じくらい小さな機械さ。そいつが悪さをしてあんたの細胞を作り変えていってるんだよ。……頭じゃなくて良かったね、頭だったら一発で奴らの仲間入りしてたよ。……きっとネイティブガンナーたちも、捕まったらこうされてたんだろうね……」
ヒルダの思考が一瞬、昔のことに飛んだようだった。
「母さん、ライトもネイティブガンナーだよ。……僕の銃を撃てるんだ」
「なんだって!?……コーディの銃を扱えるなら、特級ってことになるね……。その事をアクセラバードは知ってるのかい!?」
「いや、知らないよ。だけど、何故かライトに執着してるんだ」
ヒルダもいつぞやのリナベル同様、可哀想なものを見るような目で俺を見た。
「やっかいな奴に目を付けられたね……、強く生きな。 しかし、こういうことをするあたり、本気で部下にしたいんだろうね。……おっと、だいぶ話が逸れちまったが、とにかくあんたに打ち込まれたナノマシンを駆除するナノマシンを開発しなきゃならない。それで侵食は食い止められるはずさ。問題はすでに変わってしまった部分だね……」
ヒルダが俺の前まで歩いてきて、俺の左手を持ち上げた。
「こっちは……最悪このままかもしれないね。……動作に問題はないんだろ?」
「うん、不思議な感じだけど、ちゃんと動く。……ううっ」
また痛みが出て、俺は左腕を押さえた。
「大丈夫かい!?」
俺はうなずいた。
「じゃあ先にこれを嵌めちまおう」
ヒルダは後ろに置いてあった箱から、腕輪みたいなものを取り出した。
「これはエルフの鍛冶師が作ったおもしろ……こほん、便利道具でね。嵌めた先の時を止めてしまえる代物さ。こいつを嵌めてればナノマシンも動けないから、今以上に侵食が進むこともない。ただ、嵌めた先……手が使えなくなっちまうけどいいかい?」
「他に方法がないんだろ?ならしょうがないよな」
「話が早くて助かるよ。 向きを間違うとあんたの時を止めちまうから……うん、こっちでいいね。じゃ、嵌めるからなるべく自然な手の形にしといておくれ」
俺がうなずくと、ヒルダは俺の左前腕の中ほどに腕輪を嵌めた。
「これでよし。ためしに動かせるかどうかやってごらん?」
俺は左腕を動かしてみた。肘までは問題なく動かせたが、手首から先は全く動かせなかった。
「うん、ちゃんと効いてるみたいだね」
いくら意識を集中しても無理みたいだ。
「不便だな、これ」
「すまないねぇ、駆除用ナノマシンの開発はそれなりに時間がかかりそうだからね。その前にあんたが機神になっちまったら意味ないだろ?」
「そりゃそうだ」
俺はうなずいた。
「とりあえず、処置はこれでひとまず終了だ。……さっきはあの子が噛みついて悪かったね。全く傷になってなかったのにはびっくりだけど、あんたのその手に反応したんだと思う。機神対策に奴らの反応を検知すると、攻撃するように設定してあるんだ」
「まさか……外のあれも?」
機神のような巨大な獣が洞窟の入口で襲いかかってきて、リントヴルムのブレスで沈黙させたことを伝えた。
「ああ、そうさね。……安心しな、ちゃんとあんたの情報も登録しといたから、もう襲われることはないよ」
「良かった……」
俺はほっと胸を撫で下ろした。
けど……機神と間違われたってことは、左手はすでに奴らのものへと変わってしまったってことで……地味にショックを受けてしまった。
俺はじっと左手を見る。
確かに……変わってしまったけど、フェルドのように心まで奪われてしまった訳じゃない。
大丈夫、俺は俺だ。
そう自分に言い聞かせ、ひとまず心の平静を保つことに成功したのだった。




