第71話 検査
洞窟の奥には、かなり広い空間があった。
窓は全くないが、天井に明かりが取り付けられていて、驚くほど明るい。
床や壁などがつるんとした材質で作られていて、雰囲気が……少し機神の基地に似ているような気がした。
「自己紹介がまだだったね。あたいはヒルダ・グレイス、ハーフエルフのしがない技術屋さ」
ヒルダはそう言って右手を差し出してきた。
「ライト・アルトノートです。よろしくお願いします」
俺もヒルダの手を握り返し、握手を交わした。
「アルトノート……!大巫女様の血族かい?こりゃ驚いたね」
きっと知ってる人は知っているって感じなんだろうな。アーイディオンポースの学校に通ってた時も普通に名乗ってたけど、驚かれたことなんてなかったしな。
あ、でも初日に校長先生に挨拶しに行った時……少し驚かれたっけ。
「まぁそんなに畏まる必要はないよ、普段の口調で話しな」
ありゃ、俺が猫を被ったのがバレてら。
「じゃ遠慮なく。……コーディがあんたならこれをなんとかできるかもしれないってんで、連れてきてもらったんだ。……診てもらえるか?」
俺は改めてヒルダの前に左手を差し出した。
ヒルダは触ったりひっくり返したりして様子を確かめている。
「……こうなった時の状況を教えてもらえるかい?」
状況……か。
「ええと……、アクセラバードが何かを俺の頭めがけて放ってきて、避けるのが間に合わなくて左手で受けたら、チクッて刺されたような痛みを感じたんだ……」
「ちょっと待った、アクセラバードって言ったかい!? あいつ……復活してたのか!?」
「ええ。私たち、彼に部下になれって誘われてるのよ」
「……楽しくない冗談だね。で、ライトがやられたって訳か」
ヒルダはガシガシと頭を掻いた。
「おっと、話が逸れちまったね。刺された……虫みたいな感じかい?」
「うん。……で、いきなり激痛が走って、刺されたとこの周りから、こんな風になっていったな……」
「ふうむ……」
ヒルダは俺の手をじっと見ている。
「彼、手を切り落とすつもりだったのよ。治らなかったら今度こそそうするかもね」
「母さん頼む。友人なんだ、助けてほしい……!」
リナベルの言葉に焦ったコーディが必死に訴えた。
「かわいい息子の友人か。……こりゃ頑張らない訳にはいかないねえ。じゃ、ちょっといろいろ調べたいからこっちおいで。そこのベッドに横になりな」
俺は言われた通り、長方形の台に白い布をかけただけの簡易的なベッドに横になった。
「あんまり痛いことはしないけど、ちょっと我慢しておくれよ」
そう言うと、ヒルダはいろいろな器具を使って俺の身体を調べはじめた。
正直、あの注射器とかいうやつはちょっと苦手だ。
血を採るっていうんで、あの針で俺の腕を刺したんだけど……あの刺すまでの間がどうにもダメだった。戦闘とはまた違った恐怖があるよな。
切って垂らすんじゃダメなのかって聞いたら、空気に触れるから正確な数値が出ないとかで却下された。
採られた血をリナベルが欲しそうに凝視してたけど、ヒルダにダメと言われると大人しく引き下がっていた。
「じゃあ最後に変異部分の組織を採取しようかね」
そう言ってヒルダはまた注射器を取り出した。
今度は何か液体が入っている。
「そ、それ……何するんだ?」
「ん?皮膚を切り取るから、痛くないようにあんたの腕に痺れ薬を入れるんだよ」
「そういうことなら自分でやるから!“麻痺”!」
俺は左腕の肘から先の部分を痺れさせた。
「ほら、つねっても痛くないから」
自分で腕をつねってみせる。
「便利なもんだね。じゃあちょっと切らせてもらうよ」
ヒルダは小さなナイフみたいなもので、俺の腕から皮膚を切り取った。普通の所、変わりかけてる境目の所、変わってしまった所の3ヶ所だ。
俺は回復をかけて傷を治した。
「ほお、いいね。んじゃちょっと待ってな、少し調べてくるから」
そう言って、ヒルダは奥の部屋へと引っ込んでいった。




