第120話 ベヒモスのルーツ
バハムートが発生させた球形の光は、すぐに俺の身体に吸い込まれていった。
「え……っと、いいのか?」
困惑する俺にバハムートはうなずいた。
〝まだ大して役には立てないだろうが、君が草花などを芽吹かせたり、心を強く感じる瞬間に出会った時に、私に力が届くようにしておいた。力を蓄えることができたら、きっと君の力になれるだろう〟
バハムートは俺を真っ直ぐに見た。
〝私にギンヌンガガプの力を届けられる君に……本当はこのままここに居て欲しいが……〟
〝そうはいかぬ〟
突然声が聞こえたと思ったら、ベヒモスが現れた。
〝お前も知っての通りだが〟
〝ああ、そうだな。知っているよ、ベヒモス……私が捨てた執着心から生まれた精霊竜……。今はライトに執着しているのだな……〟
ベヒモスとバハムートは見つめ合っている。
「ベヒモスは、元々バハムートの……!?」
〝その通りだ。……昔、私に仕えてくれていた、とある巫女に執着して、迷惑をかけてしまったことがあってな……〟
ええっと……どう突っ込んでいいんだろ、これ……。
〝もう迷惑はかけないと決意して、執着心を切り離した。その頃の私は、かなりの力を持っていたから、切り離した心が精霊竜になってしまったという訳だ〟
切り離した心から精霊竜が生まれた?そもそも心って切り離せるものなのか?
まぁ、バハムートがでたらめを言ってる訳でもなさそうだし、現実としてベヒモスがいる訳だし……そのまま受け入れる、が正解か?
でも、こんな所でベヒモスのルーツが分かるなんて……。精霊竜王から生まれたって、ちょっとびっくりだよな。
〝……ところでベヒモス、その翼はどうした?以前は無かったはずだが……〟
〝これはライトが与えてくれたのだ。……ライトが我を刃と成した時、精神世界にある深淵の扉が開き、我に力を与えてくれたのだ〟
「深淵の扉……」
何故かリナベルが反応した。
「知ってるのか?」
俺の問いかけに、リナベルはうなずいた。
「ほら、前にライト君が収納魔法を使えるようにしてあげたじゃない?その時、ライト君の精神世界にアクセスさせてもらったんだけど、金色の竜がいて鍵穴まで案内してくれたのよ。その鍵穴がどうやら深淵の扉のものだったらしくて。 さらに深い精神世界に繋がってるって言ってたわ」
リナベルの言葉にベヒモスがうなずいた。
〝我はずっとお前の深淵の扉を調べていた。……結果、お前はどうやらその扉の奥で原初の精霊竜と繋がっているようだ。扉は常に開いている訳ではないようだが……〟
「開くには条件がある……?」
〝恐らく我々が関係ありそうだが……扉が開くと膨大な量の力を原初の精霊竜より受け取れるようだ……先程のバハムートのように。……我はその力の動きを感じて、お前のもとに現れた訳だが……〟
ベヒモスはバハムートを見た。
〝分かっている、ライトを引き止めたりはしない。ただ……届くか分からないが、少し我儘を言ってもいいだろうか?
そう言ってバハムートは俺を再び引き寄せた。
〝……ギンヌンガガプ、今一度私に力を与えてはくれないか?〟
ややあって、再び俺の背中から翼が生え、バハムートを包み込むと消えていった。
〝聞き届けてくれたようだ〟
そう言って、バハムートは俺から身体を離した。
〝本当に随分楽になった……ありがとう〟
バハムート……マジで結構ヤバかったんじゃないだろうか?
存在を保つだけで精一杯ってとこまでいってたんじゃ……。
〝……我々から働きかければ、原初の精霊竜は応えてくれるのか……?〟
その様子を見ていたベヒモスが呟いた。
〝この場所だからかもしれないが……、何を考えている?ベヒモス〟
ベヒモスは意味ありげに俺を見たが、すぐにバハムートに視線を戻した。
〝我も我儘を言ってみようと思ったが……今はよそう〟
〝……そうか〟
バハムートは短く答えると、空を見上げた。
〝そろそろ日が傾いてきたな。……ここには魔物はいない、今晩はここで過ごし、明日の朝発つといいだろう〟
「分かった、ありがとうバハムート。……わっ!」
いきなりベヒモスが俺を咥えて背中に放り上げた。
それを見たバハムートは苦笑いをしている。
〝今日は本当に助かった、ありがとうライト。また会うこともあるだろう、ではな〟
バハムートは竜の姿になると、空気に溶けるように消えていった。
俺はベヒモスの背からその様子を見上げていた。
その晩、リナベルとコーディは携帯用コテージで休んだが、俺はベヒモスに離してもらえず、外でベヒモスの毛に埋もれて寝ることになったのだった。
ベヒモスにどうしてそんなことをしたのか後で聞いたら、どうやら人型になれるバハムートに嫉妬していたらしかった。ハグしたり俺と同じことが出来るバハムートが羨ましかったみたいだ。
バハムートの苦笑いは、それが分かってたからだったんだな。
長い間存在していた筈なのに、意外と子どもみたいな所があるのに気付いて、ベヒモスのことをちょっとかわいいと思ってしまったのは内緒だ。




