第119話 精霊竜王バハムート
次に目を開けた時、びっくりしすぎて声が出なかった。
巨木に囲まれた静謐な空間……、俺は圧倒されていた。
木って、こんなに大きくなるんだ……。
竜の神殿の周りに生えてるまばらな木とは比べものにならない程、圧倒的な存在感だ。
空を覆わんばかりに枝葉を伸ばし、それを支える太い幹は長い年月を生きてきた証拠だろう。
もしかしたら、リナベルとどっこいぐらい、もしくはそれ以上生きてるんじゃないだろうか。
どうやら感動していたのは俺だけじゃないようで、リナベルとコーディも無言で辺りを見回していた。
俺たちがやって来た転移用の魔法陣から、奥に続く道がある。
その道を辿り、巨木の森を抜けると、急に目の前が開けて湖が現れた。
湖の中に島があり、道はその島まで続いている。
島はそんなに大きくなく、中央にここに来る前に見た大きな竜の像があった。
「……ここで祈ったらいいのかな?」
俺はじいちゃんから習った作法で祈りを捧げた。
祈りを捧げ終わると、また俺の背に翼が現れた。
〝懐かしい気配がする……〟
突然声が聞こえ、空に大きな黒い竜が現れた。
磨かれた大理石のように美しい漆黒の鱗は、ラピスラズリのように金色がまぶされており、まるで夜空を思わせる。広げた翼の内側は綺麗な青色のグラデーションがかかっていて、こちらは昼の空のようだ。
金色の双眸が、こちらを見つめていた。
「まさか……バハムート……」
リナベルが小声で呟くのが聞こえた。
〝その通り、私の名はバハムート。……君たちの名を聞こう〟
俺たちは順番に名乗った。
大きな黒い竜……バハムートは、俺たちのすぐ近くまでやってくると、人型に姿を変えた。
〝ようこそ、新しき同胞とその友人たちよ。君たちを歓迎しよう〟
人型のバハムートは背が高く、黒い短髪で魔術士のような黒を基調としたローブを纏っていた。
バハムートは俺の前まで歩いてくると、俺にハグをしてくれた。
俺の背中の翼がバハムートを包みこんだ後、スッと消えた。
〝これは……。……ライト、君が力を渡してくれたのか、ありがとう。お陰で少し楽になった〟
バハムートは俺から身体を離した後、そう言った。
何のことだろうと思ったが、リナベルを見ると、恐ろしいものを見たような顔をしている。
「リナベル……?」
「……ライト君、そんなに力を渡して大丈夫なの?」
「えっ……?どういうこと……?」
〝リナベル、心配はいらない。力を貰ってはっきりと分かったが、ライトは無垢なる原初の精霊竜、ギンヌンガガプに連なる力を持っている。ギンヌンガガプがライトを通じて私に力を与えてくれたのだろう〟
俺の代わりにバハムートが答えてくれた。
〝私が司るはこの世界に在る全ての命、そして、その心だ。ギンヌンガガプがこの世界を創った時、一番初めに産み出され、これから産み出す全ての命を見守って欲しいと頼まれた。……一番初めに産み出されたがゆえに不完全、しかし成長する精霊竜、それが私だ。けれど……機神がこの世界に現れてから……多くの命が失われ、生き残った者の心も疲弊し……私も力を失っていった。今日、ライトがここに来なかったら、私は動けなくなっていただろう。だから、改めて礼を言わせてくれ、ありがとう、ライト〟
「ええと、俺もよく分かってないんだけど、力になれたのなら良かったよ」
俺の言葉を聞いたバハムートは、にっこりと笑った。
〝こうして人の姿になれるのも不完全であるがゆえだが、同じ目線で話せるのは良いことだな。……君の表情がよく見える〟
バハムートが俺の顔を覗き込んだ。
〝澄んだ良い目をしているな。……いいだろう、私も君と契約をしよう〟
そう言うと、球形の光を発生させた。




