第115話 コーディの復帰について
いい匂いを辿っていくと、キッチンから鼻唄が聞こえてくる。
「リナベル、戻ったよ」
俺は上機嫌でフライパンを覗いていたリナベルに声をかけた。
「あ、お帰りライト君。ずいぶん遅かった……」
リナベルは俺を見たとたん、持っていたフライ返しを取り落とした。
その瞳孔が縦長になっていく。
「私の今日の夕食はライト君で……ごほんっ」
全てを言い切る前に、リナベルはわざとらしく咳をした。
「ご、ごめんね、おじいさんがいるのに私ったら」
そして落としたフライ返しを拾い上げた。
「……大丈夫かの?」
「あ、お気になさらず」
リナベルはフライ返しを洗って棚に置いた。
「そ、そうか。……それより助かった。まさか夕食を準備してもらえるとは……」
「いえ、泊めてもらってるから、これくらいはしなきゃね。……さ、ちょうど出来上がったから運びましょうか」
耳の形は変わってないから、なんとか我慢してるんだろうな……。
夕食のメニューは具沢山のシチューとブロッコリアのサラダ、それにワイルドチキンのピカタ、ふわふわ白パンだった。
お腹が減っていたのもあり、早々に食べ終わってしまった。
リナベルって意外と料理が上手いよな。出された料理が全て美味しかったんだよ。意外って言うと怒られそうだから言わないけどな。
そして、花の水やりに行こうとした俺の背中に、リナベルから声が掛かった。
「後で部屋に行ってもいいかしら?コーディの経過を伝えたいの」
「ああ、わかった」
返事をしてから気が付いた。これって口実……だよな?
いや、コーディのことは本当だろうけど、リナベルと二人きりはまずいって。
多分、俺の変化に気付いてたからあの反応だったんだよな……。
悶々と考えながら作業をしていたら、いつの間にか終わっていた。
「これはもう……不可避だな」
俺はすっぱりと諦めて、自室へ戻ることにしたのだった。
部屋のベッドに腰掛けて、真祖から借りた本を読んでいると、入口からリナベルの声が聞こえた。
「ライト君、起きてる?」
見ると、すでに耳が尖っている。
「ああ、うん、起きてるよ。……コーディのことだろ?」
「ええ。お邪魔するわね」
リナベルは近くにあった椅子に座った。
「実はライト君たちが出かけてる間にヒルダから連絡があったの。コーディの経過がすごく良くて、もう戦闘に耐えられるまで調整できたそうよ」
「ええっ!? 確か……2週間ぐらいかかるって言ってたよな?」
「私も驚いたわ。だから今日、リントヴルムに迎えに行ってもらったの。明日の夕方には合流できる予定よ」
明日!ほんとに早いな。
「ところでライト君、あなたに何があったか……聞いてもいいかしら?」
……リナベル、言葉と表情が合ってない……。
じゅるりと涎を垂らしそうな顔で俺を見るのはやめてほしいんだけど。
「話が終わるまで待てるのか?」
リナベルはぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。
「分かった。じゃあ……」
俺は竜の神殿での出来事をリナベルに話した。
「……ライト君が、精霊竜に……」
さすがのリナベルも驚いていた。
俺もいまだに信じられないんだけどな。
「なるほどね……だからそんなに美味しそう……あ、ごめん。……でも、もう我慢の限界だわ……」
リナベルが椅子から立ち上がり、俺に近付いてきた。
「……信仰の対象である精霊竜から吸血するなんて、背徳的な感じがするけど、ライト君なら許してくれるわよね……」
そう言うと、俺をベッドに押し倒し、覆い被さってきた。
そして首筋に犬歯を刺し込み、吸血を始めた。
痛みを感じた俺を宥める手つきは優しい。
「ああ……満たされるわ……。極上、いえ……もう言葉で言い表せないくらい素晴らしい味ね……」
リナベルは夢中になっているようだ。
これはまた結構吸われるな……。
俺は諦めて目を閉じたのだった。




