第113話 母親のこと
ベヒモスは俺を調べているんだろう、その場から動かない。
この際だ、俺も気になってたことを聞いてみよう。
「……なぁじいちゃん。俺も聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ?」
「俺の母さんのこと……何か知ってたら教えてほしいんだ」
俺は真っ直ぐに、じいちゃんを見た。
「会ったことないし、顔も知らないから、その……寂しいとかじゃなくて、俺がまだ何も分からない時にそういうことをしてたから……どんな人なんだろうって思って……」
じいちゃんは何かを堪えるように、じっと俺を見ている。
「……枷を外してもらった時に、一瞬声を聞くことができて……俺に普通の人間としての生を歩ませてあげたいって言ってたんだ。……もう今さらだけどな」
「……あやつめ、そんなに嫌だったのか」
じいちゃんの握り拳が震えていた。
「じいちゃん……?」
「……子にまで己の考えを押しつけおって……!」
空を睨んで言葉を吐き出したじいちゃんはちょっと怖かった。
これ、地雷だったのか?俺が話を振っちゃったせいだけど、なんとかしないと俺に被害が……。
「……ライトよ、お前の母親はわしの娘じゃ。父親については本当に分からん。最期に顔を見ただけだからな」
幾分落ち着いたのか、じいちゃんは少しずつ話し始めた。
「……あやつは才能があった。儂なんかよりずっとな。幼い頃からどうやら精霊竜の声を聞いていたらしい。せっかくの才能じゃ、わしは司祭となれるよう教えていたが、あやつは全く興味を示さんかった。それよりも都会に出て素敵な人を見付けて、普通に暮らしたいと言っておったわ。そしてあやつが18になった時、置き手紙一つで村を出ていった……」
俺はただじっと、じいちゃんの話に耳を傾けていた。
「あやつはそれきり手紙も寄越さず……音信不通じゃった。……わしの連れは、お前も知っての通り、早くに病気で逝ってしまったが……連れがおったら、少しはあやつと話が出来たかもしれん……とも思っておったが……。そして、久し振りに帰って来たかと思ったら……、お前を儂に託して事切れおった……」
じいちゃんの拳がまた、震えていた。
「あやつは気が強くて……自分の意思は曲げない奴じゃった……。儂もだいぶ手を焼いたが、何故こんなことになってしまったのか……。儂はいまだに囚われておるんじゃろうな……」
じいちゃんにかける言葉が見つからなかった。
俺はじいちゃんに近付いて、ただハグをした。
「ライト……」
「じいちゃんが過剰に心配する意味がやっと分かったよ……。でも、俺には一緒に戦ってくれる仲間がいるから大丈夫。精霊竜からの頼まれごとを果たしたら、必ずまたここに帰って来るよ。……母さんのこと、話してくれてありがとう」
じいちゃんは……まだ割り切れてないけど。
多分、生き方の違いで……、母さんは母さんで精一杯、生きたんじゃないかと思う。
しばらくして、俺はじいちゃんから離れた。
何故か、じいちゃんが怪訝な顔をしている。
どうしたんだ?
「ライト……お前、精霊竜になっておるのか……?」
えっ……?なんだって……!?
「お前に触れることで感じたが……、これは……」
〝……司祭よ、我もその結論に至った〟
ベヒモスが言葉を挟んできた。
〝恐らく……ライトの中にあった精霊竜の因子が、牙の力をもってライト自身を精霊竜へと昇華させたのだろう〟
ベヒモスは俺をしっかりと見据えていた。




