第111話 竜の神殿にて
真っ暗な通路を抜けると、不思議な部屋に出た。
床一面が草に覆われていて、ところどころに光る鉱石が覗いている。
壁は石で出来ているようだが、そこにも光る鉱石が生えていた。
光の届かない四隅に生えている鉱石が、ぼんやり光っていて幻想的だ。
ぽっかりと穴の開いた天井からは陽の光が差し込み、部屋の中央にぽつんと置かれている椅子を照らしていた。
「ここ……は……?」
俺は入口で立ち尽くしていた。
「ここは精霊竜の庭と呼ばれている部屋じゃ。代々司祭の引き継ぎをする時に使われておる」
「えっ……?俺、もう司祭になるのか?」
「そんな訳なかろう、まだ勉強すら始めておらんのに」
じいちゃんはため息をついた。
「実はな、お前がベヒモス様に運んで来られた日の夜……儂の夢にサラマンダー様が現れて、こう言った。“時は満ちた。ライトを目覚めさせて欲しい”と」
「俺……を?」
「そうじゃ。……サラマンダー様はそれしか言われなかったから、儂は書物を調べた。目覚めさせるとはどういうことなのか、それからその方法をな」
じいちゃんは俺をじっと見ている。
「分かったんだな……?だから俺をここに連れて来た……」
「そうじゃ。……目覚めれば、お前は精霊竜に近い存在となるじゃろう。サラマンダー様のご希望じゃ、儂は叶えたいと思うが、お前はどうしたい?今ならば……まだ引き返すこともできる」
俺は顎に手を当てて考えた。
「その……精霊竜に近い存在っていうのは何なんだ?俺……竜になるのか?」
〝いや、姿は変わらぬ〟
突然、ベヒモスが目の前に現れた。
「ベヒモス様……!」
じいちゃんがびっくりしている。
〝人の身のまま……そうだな、精神力が増えると考えれば良い〟
「えっ……!? ほんとに!?」
それは願ったり叶ったりというか……。
精神力が増えれば、精霊竜の剣の使用時間が伸びる。そうすれば今よりもっと戦えるはずだ。
「そういうことなら……お願いしたいな」
「わかった。……では、あの椅子に掛けるがよい」
じいちゃんはぽつんと置かれている椅子を差した。
じいちゃんと一緒に近くまで寄ると、椅子は陽の光を受けて青銀色に輝いていた。
「凄いな……全部魔法銀で出来てるのか……」
細かく模様のようなものが彫られて……これ、魔法文字だ!
「……これを見るたび、先人への畏怖の念を抱かずにはおれんな……」
じいちゃんがぽつりと漏らした。
難しいことはよく分からないけど、とにかく凄いのは分かる。
「……座っていいんだよな?」
なんとなく躊躇われたが、俺は椅子に座った。
俺が椅子に座ったのを確認すると、じいちゃんは透き通った水色の牙を取り出した。
「これを……お前に取り込んでもらうぞ」
「えっ?どうやって……?」
じいちゃんの手の中にある透き通った水色の牙は、光を受けて輝いており、とても美しい。
俺はふと、その尖った先端に目がいった。
ま、まさか……。
「少し驚くだろうが、痛いのは最初だけらしい」
そう言って俺の胸……心臓のあるあたりにその先端を当てた。
俺の想像はどうやら当たってるっぽい。
「ちょっと待って、心の準備が……」
俺は一度、深呼吸をした。
「……ん。……いいよ」
じいちゃんはうなずくと、透き通った水色の牙を押した。
「痛っ……」
それは服をすり抜け、肌に触れたかと思ったら俺の身体に入っていく。
本当に痛いのは最初だけで……それは不思議な感覚だった。
するすると溶けるように除々に短くなり、牙の全てが俺の中に消えていった。
「……大丈夫か?」
じいちゃんが確認してきた。
「うん、大丈夫……」
言いかけたが、突然、心臓が跳ねた。
「う……うあ……」
〝ライト?〟
俺の異変に気付いたベヒモスが、近寄ってきた。
だめだっ……力が溢れて……!




