第110話 竜の神殿へ
ダイニングにいたじいちゃんは、何かを堪える顔をしていた。
「……お前は昔からそうじゃった。何も言わずに出ていった時に限って、大怪我やらなんやら大変なことになって帰ってくる……。いつかあやつみたいな……いや、儂がどれだけ心配したか、お前は分かっとらんな!?」
じいちゃんは両手を握り拳にして、俺のこめかみを挟み込んで、ぐりぐりと押した。
「あだだだだぁっ……!」
それはやめてくれっ……ほんとに痛いから……!
「ごめん、ごめんってば……!」
俺がギブアップを訴えると、じいちゃんはしぶしぶ解放してくれた。
「全く……無事に戻ったから良かったものの……」
じいちゃんはまだ何か言いたかったみたいだけど、それを飲み込んだようだ。
「仕方あるまい、ほれ、食べろ」
じいちゃんが俺の目の前にパンとスープを置いた。
「ゆっくり食べるんじゃぞ。……さて、儂らもいただくか」
リナベルがうなずいて席に着いた。
「先に食べてよいぞ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
そう言ってリナベルも食べ始めた。
じいちゃんはいつもの短い祈りを唱えてから食べ始めた。
「……ライト、起きたばかりで悪いが、竜の神殿まで行く元気はあるか?」
食事の途中で、じいちゃんがそんなことを聞いてきた。
「ああ、大丈夫だよ。……なんか調子はいいみたいだから」
そうなのだ、起き上がってみたらスカッとした気分で、寝すぎで身体が痛いとか、だるいとかも一切なかったのだ。
「そうか、ならば食事が終わったら行くとするか。すまんがリナベル殿には留守を頼みたい」
「ええ、いいわよ。……書庫の本を読ませてもらっても?」
「構わんよ。……ブックデーモンには気を付けてな」
「うふふ、見付けたら退治しとくわね」
リナベルはいい笑顔だ。
それも含めて楽しむつもりなんだろうな。
食事が終わって、少し準備してから俺とじいちゃんは家を出発した。
村の見張り番に、竜の神殿へ行くことを告げて村を後にする。
じいちゃんは毎日一回、竜の神殿に祈りを捧げに行ってるから、慣れたものだ。
30分の道のりがあっという間だった。
「さて、着いたな」
石造りの建物の周りに、まばらに木が生えている。
いつもの景色だ。
だけどあの日……ここでアクセラバードに殺されかけてから、俺の日常が変わった。
ベヒモスに会って……リナベルとコーディに会って……ガーディアンフォースに参加して機神と戦うことになって……。
少し前のことなのに、ずいぶん昔のことのように感じる。
「……今でもお前の気持ちに変わりはないか?」
じいちゃんが唐突に尋ねてきた。
これはあれだ、俺が司祭を継ぐってことを言ってるんだろう。
「うん、気持ちは変わってないよ。俺に都会暮らしは向いてないし、今はほら、精霊竜の声が聞けるようになったし。……ここでゆっくり精霊竜と向きあいながら暮らしたいなって思ってる」
「そうか……ありがとう、ライト。儂は嬉しいぞ」
じいちゃんは目頭を押さえていた。
歳を取ると涙腺が緩くなるって、村で井戸端会議をしてるおばちゃんたちが言ってたけど、あれはほんとかもしれないな。
「……もしかして、その話をするためだけにここへ……?」
「いや……これからやることに、少し関係があると思ってな……。ライト、儂がお前にやった透き通った水色の牙をもらえるか?」
「ん?いいけど?」
俺は紐をかけて首から下げてある、透き通った水色の牙を外し、じいちゃんに手渡した。
「ふむ……」
じいちゃんは少し眺めてから、うなずいた。
「よし、行くか。……ついて来い、ライト」
俺はうなずいて、じいちゃんに続いて神殿の中へ入っていった。
……じいちゃん、何をするんだろうな?
中に入ると、だだっ広い部屋に祭壇がある。
ここに供物とかを捧げて、精霊竜に祈るのだ。
右奥の壁にぽっかり開いている穴はそのままだな。
じいちゃんはそれとは反対側の、左奥の方へ歩いていく。
俺もじいちゃんの後についていった。
「……どれ」
じいちゃんは、扉のように見える壁の横にある石の一つに魔力を流した。
すると、壁が消えて通路が現れた。
「神殿にこんなとこが……」
驚きつつ見ると、通路は真っ暗だ。
じいちゃんは気にせず奥に進んでいった。




