第108話 また一難?
いったい、どうやったら逃げられる?
この状態じゃ抵抗すら出来ない。
「そんなに構えることはない。今回は良き戦いを行ったそなたに免じて……見逃してやろう」
なん……だって……?
俺は疑うようにアクセラバードを見上げた。
「本当は連れて行きたい所だが……やはりそなたと戦ってからの方が楽しみがあって良い。ただ……」
アクセラバードは屈み込み、俺の左腕に触れた。
「何故そなたの機化が進んでいないかを知りたい」
「触るな……!」
力を振り絞って上体を起こそうとしたが、簡単に手で制され再び地面に倒された。
「もう力が残されてはいまい?大人しくしていろ」
そう言うと、手袋をそっと剥ぎ取った。
「これはいったい……」
アクセラバードは俺の腕に嵌められた腕輪を凝視している。
「……この腕輪が……機化を阻止しているというのか……」
アクセラバードはためしに腕輪を外そうと引っ張ってみたが、外れなかった。
「ふむ……そなたの腕を千切ってしまいそうだな。……しかし、時間停止とは……如何なる原理か……。この世界は分からぬ事だらけで興味が尽きぬ」
そう言うと、俺の腕から手を放した。
「そういえば、そなた……カードを使わずに術を行使していたな」
見られてたか……。次にこいつと戦う時にと思って、意図的に攻撃系は魔法陣符を使ってたのに。
「いつから見てたんだ……?」
「最初からだ」
アクセラバードは空を指差した。
「あれがそなたを見付けたと連絡してきた」
見ると、巨大な鳥型の機神が舞っていた。
あいつ……ほんとにどこにでもいるな……!
だけど、俺はそこではっと気付いた。
もし、あいつが俺を見付けてなかったら、俺は今頃……。
「我がここに着いた時、そなたと紅い奴が対峙していた……。すぐに戦いが始まったため、待機し見守ることにしたのだ。あの紅い奴……グラナギアに捕まる前に出会えていれば、楽しめたかもしれんな……。そなたの師と言っていたな、惜しいことをした……。だが、良い戦いであった」
アクセラバードは立ち上がった。
「そなたは会うたびに強くなっている……片腕でもあれほど戦えるのだ、次に会う時が楽しみだ」
その時だった。
いきなり黒い火球がアクセラバードに襲いかかってきた。
アクセラバードは突き立ててあった柄の長い斧を引き抜くと、一振りで黒い火球を薙ぎ払った。
「無粋な奴がやってきたか。仕方あるまい、ライトよ、また会おう」
アクセラバードが指笛のような音を出すと、巨大な鳥型の機神が降下してきた。
ひらりとその背に跨り、アクセラバードはあっという間に去っていった。
〝大丈夫か!? ライト!〟
見なれた黒紫の獣のように見える竜が、空から舞い下りてきた。
「ベヒモス……」
〝怪我はないか?〟
ベヒモスは鼻先を俺に近付けて、状態を確認している。
「う……うん」
ここに来る前のこともあって、まともにベヒモスの顔を見ることが出来ない。
一方のベヒモスは満足したのか、俺の顔を覗き込んできた。
……やっぱり居心地が悪いから、早く言ってしまおう。
「ベヒモス……ごめんな。……えっ?」
〝ライト、すまなかった。……ん?〟
見事に声が重なった。
「ええと……怒鳴ってしまったのは俺の方で……、何でベヒモスが謝るんだ?」
〝……リナベルに言われたのだ。いくら正論でも、ライトはまだ年若いから、感情を整理する時間が必要だと。……急かすなど以ての外だと〟
リナベル……。
〝二千を超える年月を数えた自分でも躊躇すると言っていた〟
い、今のは聞かなかったことにした方がいいのかな……。
〝だから……お互い様だ。……仲直りをしよう、ライト〟
「うん、もちろんだよ、ベヒモス。……ほんとごめんな」
〝構わぬ〟
そう言って、ベヒモスも俺の隣で横になった。
〝良い……景色だ〟
ベヒモスは花畑を見ながら呟いた。
「師匠にも、喜んでもらえたよ」
不意にまた一粒、涙が溢れた。
「……サラマンダーに……送ってもらったんだ。……師匠、精霊竜が大好きで……、サラマンダーを信仰してたから……」
〝そうか……〟
「満足そう……だった……」
死の間際の、穏やかな様子を思い出したとたん、涙が溢れてきた。
〝よく……頑張ったな、ライト〟
「うぅ……うわあぁぁ……!」
ベヒモスの労いに感情を抑えられなくなり、俺はずいぶん久しぶりに声を上げて泣いた。
そのままベヒモスにしがみつき、しばらく泣き続けたのだった。




