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ある冒険者たちが世界を救うまで  作者: 如月つばさ


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106/122

第106話 決着

 遠くの空が白み始めた。

 もうすぐ夜が明ける。


 俺は荒い息を吐きながら、その場に立ちつくしていた。

 脱力感が半端ない……「身体強化(リインフォース)」と「継続回復(リジェネレーション)」の効果も切れてしまった。

 どうやら俺も、魔力切れを起こしているようだ。

「師匠は……どうなった……?」

 目を凝らして辺りを見回すと、少し離れた所に紅い機神が倒れていた。


 ……また起き上がってこないだろうか?

 しばらく待ってみたが、紅い機神は沈黙していた。

 俺はゆっくりと近付いていく。


 側まで行くと、その理由が分かった。

 アーマーがほぼ破壊されており、身体に深いダメージを負っている。

 動こうとしても、動けなかったのだ。

「師匠……」

 その有り様を見て、また涙が溢れてきた。


 俺は紅い機神の側に膝をつき、身を屈めた。

「……ごめん……ほんと、ごめんな……」

 やっとそれだけ呟き、嗚咽を堪えていると、背中にそっと触れるものがあった。

「それは……あたしの台詞……だよ……」

 紅い機神の手が、俺の背に回されていた。

「……ごめんね……あたしが……ドジ踏まなきゃ……、あんたに……辛い思いをさせずに……済んだのに……」

 師匠……意識が元に戻ったのか……!


 俺はゆるゆると首を振った。

「……クラウストルムの女の子は……無事に両親と再会できたよ」

「そうか……良かった……」

 紅い機神……師匠は、ほっと息を吐いた。

「……女の子を……助けたことは……後悔してない……けど……、結果的に……あんたに……迷惑を……かけることになって……しまった……。そこについては……ほんと悪かったよ……ごめんね……」

 全くだ、師匠……!

 俺の目から再び涙が溢れた。


「……奴……グラナギアに……捕まってから……随分と酷い目に……遭わされたよ……。この身体にされた時……、あたしはもう……世界の敵に……なったんだって……絶望して……。精神洗浄を……受けてからも……時々……意識が戻る……ことがあって……。あたしは……そのたびに……ずっと、ライト……あんたを探してた……。誰かに……倒されなきゃ……いけない存在なら……、あんたが……良かった……。ライト……あたしは……あんたに……倒されたかったんだ……」

 俺はぼろぼろと大粒の涙を零していた。


 そんな俺を見た師匠は、ふっと微笑んだ様だった。

「あたしのために……泣いて……くれるのかい?……いい男になったね……ライト……」

 師匠は俺の背をそっと撫でた。

 その時湧き上がった感情が何かは分からない。

 一瞬でいろんな感情とごちゃまぜになって、消えていった。


「……そういえば……あんた……左手は……どうしたんだい?……あたしと……戦ってた時……使えてなかった……いや、……あの感触は……」

 俺は呼吸を整えてから答えた。

「……師匠の感じた通り、ここだけ奴らと同じ構造にされてしまって……」

「あたし……だけじゃなく……あんたまで……!」

「大丈夫、動かせないのは侵食を防いでる影響で、治療できるなんとかってのが完成したら、動かせるようになるはずだから……」

「……そうか……なら……いいんだけど……」

 師匠はそれでも心配そうに俺の左手を見ていた。


 だんだん空が明るくなってきた。

 程なく朝日が昇ってくるだろう。

「……ライト……最後に……お願いがある……。あたしの心臓(コア)を……完全に止めて……欲しいんだ……」

 なんとなく分かっていた。こうして話ができるってことは……まだ倒しきれてないってことで……。


「その前に……俺から師匠に、感謝を伝えたいんだけど……いいかな?」

 師匠は首を傾げている。

 きっと、何するつもりなんだって思ってるだろうな。


 俺はだるい手を持ち上げて、髪の毛の間に隠れている竜の宝玉をつついた。

「力を……貸してほしいんだ」

「わかった」

 師匠が、突然聞こえた声に驚いているようだ。


 それには構わず、俺は地面に右手をつき、目を閉じた。

 そして大地に眠る種子に力を送り、イメージする。

 そこに広がるは、赤い野草の花咲く草原。

 竜の宝玉から力が流れこんでくる。

 ……目覚めよ。


 俺が目を開けると、そこはイメージ通りの花畑になっていた。

「ライト……あんた……」

 師匠は首を動かして、辺りを見回した。

「……ありがとう……あんたの……気持ち、確かに……受け取った……。いい……土産になったよ……」

 俺はうなずいた。その拍子にまた、涙が溢れ落ちた。

 そろそろ……師匠を送ってあげないと。

 ……俺が侵食された手を切り落とそうとしたように、この世界を害する存在となってしまった自分を……師匠は許せないだろうから……。


 俺は首から下げている、透き通った水色の牙に手を当てて願った。

「来てくれ、サラマンダー」


 俺の正面に、炎の翼を持った赤い竜が現れた。

 今度こそ、師匠は驚愕していた。

「サラマンダー……、本当に……」


 丁度その時、朝日が差し込んできた。

 陽の光を受けて、サラマンダーの炎の翼が輝く。

 赤い花畑が絨毯のように見え、その上に佇むサラマンダー共々、それは美しい光景だった。

 師匠は声も出ないほど、感激している様子だ。


〝どうした?ライトよ〟

「サラマンダー、お願いがあるんだ。俺の……刃になってくれないか?」

 サラマンダーはじっと俺を見ている。

 やがてロを開いた。

〝いいだろう。我がイメージを送ろう、その通りに想像するがいい〟

 サラマンダーから送られてきたのは、美しい両刃の赤色の剣。


 それをイメージすると、辺りが光に包まれ、俺の手に赤色の剣が握られていた。

 これは……長くは保たない。


「いくよ……師匠」

 師匠は微かにうなずいた。


 俺は迷わず、胸部のアーマーに精霊竜の剣(ドラゴニックブレード)を埋(うず)めた。


 そして、静かに引き抜いた。


 サラマンダーは即座に元の姿に戻った。


「……ありがとう、ライト……。まさか……サラマンダーの……精霊竜の剣(ドラゴニックブレード)で……送ってくれる……なんて……」

 急速に師匠の身体から生気が失われていく。

「師匠……!」

 俺はたまらず叫んでいた。

「最後に……もう一度だけ……マリーって……呼んで……くれないかい……?」

「もちろんだよ……!ありがとう、マリー……!俺を救ってくれて……!」

 師匠……、マリーは満足そうだった。

「……ライト……あんたに会えて……良かった……よ……」

 それだけ言うと、マリーは静かに息を引き取った。


〝その者は……我が加護を得ているな。よかろう、我が送ってやろう〟

 そう言うと、サラマンダーはマリーを白い炎で包み込んだ。

 あっと思ったが、熱くない……。

〝我が葬送の炎は生者を焼かぬ。心配するな〟


 しばらくそうしていると、マリーの身体は光の粒子となって、消えていった。


「……ありがとう、サラマンダー」

〝礼には及ばん〟

 そう言うと、サラマンダーは空気に溶けるように消えていった。


 俺はそのまま後ろに倒れ、大の字に寝転がった。

 驚いた竜の宝玉が、空へ飛び立っていく。


 昇ってきた朝日は優しく、全てを照らしていた。

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