第104話 決意
どれくらいの時間、そうしていただろう。
流す涙も枯れた頃、ようやく心が落ち着いてきた。
「師匠……」
待ってると言ったその声は、苦しそうだった。
そして、時間がないとも。
……アクセラバードが言っていた。グラナギアが紅いやつに精神洗浄を行ったって……。
記憶と感情をまっさらにされて……それでも、俺を思い出して会いに来た……。
「俺は……」
師匠の想いに応えてあげたい……。
けど、それをすれば二度と……師匠に会えなくなってしまう……。
俺はもう一度、師匠の姿を思い浮かべた。
俺に触れたその手は、少し震えていた。
師匠は苦しんでる……。
苦しんでるその声は、救いを求めているように思えた。
他ならぬ俺に、救って欲しいと……。
その瞬間、俺の心が決まった。
「……分かった、師匠。今行くよ」
ようやく踏ん切りがついた。
俺が師匠を救わなきゃ。
「後でベヒモスに謝らないとな……」
さっきは感情がぐちゃぐちゃになってて気付けなかったけど、ベヒモスが言ってたのはそういうことだったんだ。
許してくれるか分からないけど……。
「でも、まずは師匠の所に行かないと」
俺はそのまま静かに村を後にした。
北の山までは徒歩でおよそ1時間。
無策で行けば逆にやられるだろうから、道すがら準備をすることにした。
「心は決まったようだな。ならば、我が見届けよう」
声が聞こえて、竜の宝玉が頭の上に乗ってきた。
「ありがとう」
独りじゃないと思うと、少し心が軽くなった。
さらに雲が出て、いつもより暗い夜道をひたすら歩く。
最初、リントヴルムに頼もうかと思ったけど、どこかに行ってていないし、「飛翔」は……まだちょっと自信がないんだよな。
こんなことならもっと練習しとけば良かった……。
ぼやいててもしょうがない、とにかく急がないと。
師匠は……強い。
現役のSランク冒険者で、両の腕を振るう者、今は……機神の精神感応兵器も使えるはずだ。
対して俺は、右手しか使えず本来の戦い方が出来ない。
コーディから近接戦闘は避けた方がいいと言われてるから、剣も使えない。
魔法一択か……結構きついな。
それでも、やるしかない。
北の山の山頂付近には、古い時代に建てられたと思われる神殿の跡があった。
神殿は石で作られていたのだろう、繊細な彫刻を施された石があちこちに散らばっている。
「……お待たせ、師匠」
奥に佇んでいた影に、声をかけた。
影が振り返り、こちらへ歩いてくる。
「……遅イ」
紅い機神は、俺の前で立ち止まった。
「モう……来ナいかト思っテイた……。アイつに見付カる前デ良かっタ……。ウゥッ……!」
紅い機神は頭を押さえた。
「イイかい、ライト……機神の心臓ノ位置はヒトと変わラなイ……!隙がアれバ……ひと思いニやっテ……アアアアアッ……!!」
「師匠っ……!」
「……我々ノ敵ハ……排除スル……!」
紅い機神は剣を抜いて斬りかかってきた。
「くそっ、いきなりかよ……!」
俺は防御膜を張り、「身体強化<全>200%」と「継続回復」をかける。
そして剣の間合いから急いで脱した。
紅い機神は追撃とばかりに「炎」を放つ。
「“氷”!」
炎と氷がぶつかり、地面に水たまりができた。
「相殺できた!威力は負けてない……!」
紅い機神はさらに「雷」を撃ってきた。
俺は横っ飛びで避け、急いで態勢を整える。
「魔法陣符はほんと何使われるか分からないから厄介だよな……」
紅い機神は手を止めて俺の出方を伺っている。
俺はそんな紅い機神を睨み返した。




