第100話 本の魔物
居間に着いてから、俺はじいちゃんにインディアを出てからのことを話した。
ほんとにいろんなことがあったよな。
「……儂はてっきり女王様に報告が済んだら帰って来るもんだと思っとったよ」
「俺もそのつもりだったんだけどな」
隣に座っているリナベルは、俺の視線を受けても涼しい顔をしていた。
「……機神よりこの世界を守ってくれって、契約するときに精霊竜から頼まれてたじゃない、だから私はあなたを連れて行くことにしたのよ。……竜の御子様」
その単語を開いたとたん、じいちゃんが椅子から立ち上がった。
「……其は豊かなる緑を育む力を持ち、精霊竜と心を通わせ、その力を刃として振るいし者……汝こそ竜の御子なり……。まさか……ライトが?」
「そうよ。彼は豊穣の力を持っていて、精霊竜を呼べるし、精霊竜の剣を生成できるの。ちゃんとこの目で見たから間違いないわ」
じいちゃんは目を真ん丸にして驚いている。
「……精霊竜と契約できたとしても、その属性の力を使えるようになるだけで、呼べる者はほんの一握りじゃ。さらに精霊竜の剣を生成できるとは……、儂の目は本当に節穴だったんじゃな……」
じいちゃんはそう言うと、力なく再び椅子に腰掛けた。
こんなに落ち込んだじいちゃんを見たのは初めてだ。
「……いや、じいちゃんが分からなかったってのも無理ないよ。さっきも話したけど、俺だって自分に枷が嵌められてたなんて知らなかったからな」
小さい頃なら、ほんとに普通の子どもにしか見えなかっただろうな。
「ライトに慰められるとは、儂も歳を取ったものよ。……そういえば、儂に聞きたいことがあると言っておったな」
「ああ、うん、他の精霊竜がどこにいるか知りたいんだ」
「なるほど、契約をするんじゃな。分かった、ちょっと古い本を調べるから手伝ってくれ」
俺はうなずいて、リナベルと一緒にじいちゃんについていった。
そこは様々な本が収められている書庫だ。
小さい頃、ダンジョンに見立てて遊んでいたら、じいちゃんに怒られたのを思い出す。
「ふむ……この辺りだったはずじゃが……」
じいちゃんはタイトルを見ながら目的の本を探している。
「……魔物大全……なかなか興味深い本ね」
リナベルも本が好きなのか、目を輝かせている。
「……これかの?」
じいちゃんが一冊の本を手に取って開いた時。
中から何かが飛び出してきた。
そいつはじいちゃんの後ろに回り込んで羽交い締めにした。
「なんじゃ……!?」
「ブックデーモン!どうしてこんなところに!?」
そして、あっという間にじいちゃんを連れ去っていった。
「くそっ……!」
「ライト君、落ちついて。まだ間に合う、追いかけましょう!」
「どうやって!?」
「……〝探索〟」
リナベルが唱えると、青い球形の光が現れた。
青い光はふわふわと飛んでいき、とある本の前で明滅した。
「この本ね」
本を手に取ったリナベルが悪い顔をしている。
何をする気だ?
「〝火〟」
「ちょ……!」
その時、いきなりその本が勝手に開き、煙が出てきた。
「ごほっ……!これ……」
煙を吸い込んだとたん、視界が暗転した。




