第8話「二つの星」
翌日の放課後。
紗佳は部室へ向かう途中、
昨日のゲーセンでの感覚を思い返していた。
星雀ONLINEの静かな読み。
雀闘羅の攻撃的な圧。
(どっちも……私の読みを強くしてくれる。)
胸の奥がふわっと熱くなる。
部室に入ると、部員たちがすぐに紗佳に気づいた。
「紗佳、昨日の読みマジで助かった!」
「今日も見てほしい!」
紗佳は笑顔で頷く。
(星雀ONLINEの読み……
雀闘羅の圧……
どっちも、私の中で混ざってる。)
一年の男子部員の対局を見ていると、
紗佳の読みは自然と深くなっていた。
「その牌、切らない方がいい。
相手、スピードで来てるけど……
裏で“もう一つの形”を見てる。」
男子部員は驚いたように振り返る。
「紗佳……昨日より読みが深い……!」
紗佳は照れながら笑った。
(星雀ONLINEの読みと、雀闘羅の圧。
両方やると、読みが二段階深くなる……)
胸の奥が熱くなる。
その様子を、京一郎は卓の向こうから静かに見ていた。
昨日よりも長く、紗佳を見つめている。
紗佳がふと気づき、目が合う。
京一郎は、ほんの少しだけ視線を逸らした。
その表情は、昨日よりも影が濃い。
(京一郎くん……どうしてそんな顔するの?
怒ってるわけじゃない……よね?)
胸の奥に、小さなざらつきが生まれる。
華が広がるほど、
その影に茨が伸びるような感覚。
「……打つぞ。」
京一郎が静かに言う。
紗佳は頷き、卓につく。
配牌を整えると、京一郎がわずかに目を細めた。
「昨日より……さらに深いな。」
「うん。星雀ONLINEと雀闘羅、両方やったから……
なんか、読みが前より見える気がする。」
対局が始まる。
紗佳の読みは冴え、京一郎の手を何度も揺らす。
しかし──
京一郎は紗佳の一打を見て、静かに言った。
「……そこ、深すぎる。」
紗佳は息を呑む。
「深すぎる……?」
「星雀ONLINEの読みと、雀闘羅の圧。
両方を混ぜると……“影が濃くなりすぎる”ことがある。」
紗佳の胸がチクリと痛む。
(影……また出てきた。
でも、昨日より怖くない。)
京一郎は続けた。
「強くなるほど、影は濃くなる。
その影を抱えられるかどうかが……
お前の“華”を決める。」
紗佳は唇を噛む。
(私の影……私の茨……
それを見つけなきゃいけないんだ。)
部活が終わると、紗佳は自然と商店街へ足を向けていた。
(今日の読み……まだ浅いところがあった。
もっと深く……もっと強く。)
ゲーセンの扉を押すと、
電子音が一気に耳に流れ込む。
奥には、青白い光の星雀ONLINE。
その隣には、赤黒い光の雀闘羅。
紗佳は迷わず星雀ONLINEにカードを挿し、
静かな読みを磨く。
CPUの淡々とした打牌。
その裏にある“静かな影”。
(この影……昨日より見える。)
数局打ったあと、
紗佳は雀闘羅へ移動した。
赤黒い画面が光り、
攻撃的なCPUが牙をむく。
(この圧……昨日より怖くない。)
紗佳は読みを重ね、
星雀ONLINEで得た“静かな影”を使いながら、
雀闘羅の攻撃を受け止める。
そして──
ロン
紗佳の勝ちだった。
「……っ!」
胸の奥が熱くなる。
(二つの星……
どっちも、私を強くしてくれる。)
ゲーセンを出ると、
夜風が頬を撫でた。
紗佳は空を見上げる。
(影が濃くなってる。
でも……それを抱えて前に進めばいい。)
京一郎の言葉が胸の奥で静かに響く。
紗佳はそっと呟く。
「……もっと強くなる。
二つの星も、影も、茨も……全部抱えて。」
その声は、夜風に溶けて消えた。
こうして──
紗佳の華は、二つの麻雀ゲームの光と影を受けてさらに揺れながら強くなっていく。
第8話を読んでくださり、ありがとうございます。
霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。
彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、
どうしても丁寧に描きたいと思いました。
麻雀という勝負の世界は、
牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。
紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、
二人の距離が静かに動き始める──
その最初の一歩が、この第1話です。
ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、
見守っていただければ嬉しいです。
霧島葵




