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華 -ibara-  作者: 霧島葵
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第7話「揺れる影」

翌日の放課後。

紗佳は部室へ向かう足取りが、いつもより少しだけ軽かった。


(星雀ONLINEでの練習……

 あれが、私の読みを変えてくれた。)


胸の奥にある小さな熱が、今日の紗佳を前へ押していた。


部室に入ると、部員たちがすぐに紗佳に気づいた。


「紗佳、昨日のアドバイスまた頼む!」

「星雀ONLINEで練習してるって聞いたぞ!」


紗佳は照れながら笑った。


「うん……昨日も少しだけやったよ。」


部員たちが自然と紗佳の周りに集まる。

その空気は、昨日よりも明らかに変わっていた。


(私……本当に“部の一員”になれてるんだ。)


胸の奥がふわっと温かくなる。


一年の男子部員が対局している。

紗佳はその後ろで静かに見守る。


河を見て、手を見て、

星雀ONLINEのCPUの癖を思い出しながら読みを重ねる。


(この形……昨日のCPUと似てる。

 この打ち方は、スピード重視の人がよくやる……)


紗佳は自然と口を開いた。


「その牌、切らない方がいいかも。

 相手、スピードで来てる。」


男子部員は驚いたように振り返る。


「紗佳……なんで分かるの?」


「星雀ONLINEで、似た形を何回も見たの。

 CPUって、変なところで急にスピード上げるから……

 その癖が、ちょっと人にも似てる気がして。」


部員たちがざわっとする。


「紗佳、読みが深くなってる……」

「ゲーセンで練習してるのに、なんでこんなに実戦で通るんだ?」


紗佳は照れながら笑った。


(私……本当に強くなれてるのかな。)



その様子を、京一郎は卓の向こうから静かに見ていた。

昨日よりも長く、紗佳を見つめている。


紗佳がふと気づき、目が合う。


京一郎は、ほんの少しだけ視線を逸らした。


(京一郎くん……どうしてそんな顔するの?

 怒ってるわけじゃない……よね?)


胸の奥に、小さなざらつきが生まれる。


華が広がるほど、

その影に茨が伸びるような感覚。



部活が終わると、紗佳は自然と商店街へ足を向けていた。


(もっと強くなりたい。

 今日の読み……まだ浅いところがあった。)


ゲーセンの扉を押すと、

電子音が一気に耳に流れ込む。


奥には、いつもの星雀ONLINE。

その隣に──新しい筐体があった。


黒と赤の筐体。

画面には力強い文字が浮かんでいる。


雀闘羅じゃんとうら


(これ……新しい麻雀ゲーム?

 星雀ONLINEとは雰囲気が全然違う……)


紗佳は吸い寄せられるように近づいた。



星雀PASSとは別に、

雀闘羅専用のカード販売機が横に置かれていた。


紗佳は迷わずカードを購入し、

筐体に挿した。


画面が赤く光り、

対局が始まる。


星雀ONLINEとは違い、

雀闘羅のCPUは攻撃的だった。


(速い……!

 星雀ONLINEのCPUよりずっと速い……!)


紗佳は必死に読みを重ねる。

星雀ONLINEで得た“迷いの影”が、

ここでは逆に役に立った。


(影が……見える。

 この攻撃の裏にある“もう一つの狙い”が……)


紗佳は一打を選び、画面をタッチした。


CPUの手が止まり、

画面に文字が浮かぶ。


ロン


紗佳の勝ちだった。


「……っ!」


胸の奥が熱くなる。


(星雀ONLINEと雀闘羅……

 両方やると、読みがもっと深くなる……!)



ゲーセンを出ると、

夜風が頬を撫でた。


紗佳は空を見上げる。


(影が濃くなってる。

 でも……それを抱えて前に進めばいい。)


京一郎の言葉が胸の奥で静かに響く。


紗佳はそっと呟く。


「……もっと強くなる。

 星雀も、雀闘羅も……全部使って。」


その声は、夜風に溶けて消えた。


こうして──

紗佳の華は、二つの麻雀ゲームの光と影を受けてさらに揺れながら強くなっていく。



第7話を読んでくださり、ありがとうございます。




霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。


彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、


どうしても丁寧に描きたいと思いました。




麻雀という勝負の世界は、


牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。


紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、


二人の距離が静かに動き始める──


その最初の一歩が、この第1話です。




ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、


見守っていただければ嬉しいです。




霧島葵

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