↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華 -ibara-  作者: 霧島葵
PR
5/20

第5話「静かな練習台」

放課後の空は、少しだけ曇っていた。

紗佳は鞄を肩にかけながら、校門を出る。

向かう先は──学校とは反対方向。


(もっと強くなりたい。

 京一郎くんに言われた“影”の意味を知るためにも。)


胸の奥にある小さな痛みが、紗佳を前へ押した。


商店街の奥にある古いゲームセンター。

外観は少し色あせているけれど、

中からは電子音が絶えず聞こえてくる。


紗佳は扉を押し、静かに入った。


「いらっしゃいませー」


店員の声が遠くに響く。

照明は少し暗く、空気は独特の熱を帯びている。


(ここ……なんか落ち着く。)


奥の方にある麻雀ゲームの筐体。

画面には青白い光で牌が並び、

上部にはタイトルが輝いていた。


星雀ONLINEせいじゃくオンライン


紗佳はその前に立ち、

横のカード販売機に目を向けた。


カード販売機の画面には

星雀PASSせいじゃくパス

の文字が光っていた。


(これ……買わないとデータが残らないんだよね。)


紗佳は財布から千円を取り出し、

ゆっくりと投入した。


機械が低い音を立て、

一枚のカードがゆっくりと排出される。


紺色のカードに、

星の模様が散りばめられている。


(これが……私のカード。)


胸の奥がふわっと熱くなる。



紗佳は筐体の前に座り、

星雀PASSを挿入口にそっと差し込んだ。


「カードを読み込みました」


機械の声が響く。

画面に名前入力の画面が出る。


紗佳は指でタッチしながら、

ゆっくりと名前を入力した。


“さやっち★”


決定ボタンを押すと、

画面が明るくなり、メニューが開いた。


(これで……私のデータで打てるんだ。)


胸の奥が少し震えた。


◆ 初めての“外の麻雀”

対局が始まる。

紗佳は指先を画面に触れながら、

ゆっくりと牌を選んでいく。


(学校の卓と違う……

 でも、読みは同じ。

 河を見て、手を見て……)


CPUの打牌は淡々としている。

けれど、その淡々さが逆に紗佳の読みを試す。


「……この形なら、こっち。」


紗佳は静かに牌を切る。

画面の向こうで、CPUがわずかに手を変えた。


(揺れた……?

 読みが通ったんだ。)


胸の奥がふわっと温かくなる。



何局か進めるうちに、

紗佳は自分の中の“迷い”に気づき始めた。


(この一打……昨日なら切ってた。

 でも今は……違う気がする。)


読みが広がった分、選択肢も増える。

増えた選択肢は、紗佳の心に影を落とす。


京一郎の言葉がよみがえる。


「見える景色が増えるほど、迷いも増える。

それが影だ。」


紗佳は唇を噛む。


(影……これがそうなんだ。)


画面の向こうのCPUは、

紗佳の迷いを見透かすように手を進めてくる。


「……負けない。」


紗佳は指先を強く画面に置いた。



終盤。

紗佳は迷いながらも、最後の一打を選んだ。


「……これ。」


CPUの手が止まり、画面に文字が浮かぶ。


ロン


紗佳の勝ちだった。


「……っ!」


思わず小さく声が漏れる。

胸の奥が熱くなる。


(私……一人でも勝てた。)


誰もいないゲーセンの片隅で、

紗佳は静かに拳を握った。



筐体から離れ、外に出ると、

夕方の風が頬を撫でた。


紗佳は空を見上げる。


(影が見えるようになった。

 でも……それを抱えて前に進めばいい。)


京一郎の言葉が胸の奥で静かに響く。


紗佳はそっと呟く。


「……もっと強くなる。

 華も、影も、茨も……全部抱えて。」


その声は、夕暮れの風に溶けて消えた。


こうして──

紗佳の華は、学校の外でも静かに育ち始めた。



第5話を読んでくださり、ありがとうございます。




霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。


彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、


どうしても丁寧に描きたいと思いました。




麻雀という勝負の世界は、


牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。


紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、


二人の距離が静かに動き始める──


その最初の一歩が、この第1話です。




ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、


見守っていただければ嬉しいです。




霧島葵

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。