↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華 -ibara-  作者: 霧島葵
PR
4/20

第4話「影の輪郭」

昼休みの教室。

紗佳は窓際で弁当を食べながら、昨日の京一郎の言葉を思い返していた。


「華が広がるほど……影も濃くなる。」


その言葉は、褒められた嬉しさと、胸の奥の痛みを同時に残した。


(影って……なんだろう。

 私の中にある“茨”のこと……?)


考えれば考えるほど、胸の奥がざわつく。

でも、そのざわつきは嫌なものではなく、

どこか“前に進むための痛み”のようにも感じられた。



部室に入ると、部員たちが自然と紗佳に視線を向ける。


「紗佳、今日も対局お願いしていい?」

「昨日のアドバイス、めっちゃ役に立った!」


紗佳は少し驚きながらも笑顔で頷いた。


(私……こんなふうに頼られるようになったんだ。)


卓につくと、紗佳の指先は自然と落ち着く。

昨日よりも深く、静かに。


部員たちの対局を見ながら、紗佳は気づく。


(読みが……前より見える。

 なんでだろう……京一郎くんと打ったから?)


華が広がる感覚。

胸の奥がふわっと温かくなる。


「紗佳、これどう思う?」

「この形、攻めるべき?」


部員たちの質問が続く。

紗佳は嬉しそうに答えていく。


その様子を、京一郎は卓の向こうから静かに見ていた。


紗佳がふと気づき、京一郎と目が合う。

京一郎は何も言わず、視線を逸らした。


(また……昨日みたいな顔。

 どうしてそんなに静かなんだろう。)


胸の奥に、小さなざらつきが生まれる。


華が広がるほど、

その影に茨が伸びるような感覚。


「……打つぞ。」


京一郎が静かに言った。

紗佳は頷き、卓につく。


配牌を整えると、京一郎の指先がわずかに止まった。


「昨日より……さらに落ち着いてるな。」


「うん。なんか、読みが前より見える気がする。」


対局が始まる。

紗佳の読みは冴え、京一郎の手を何度も揺らす。


しかし──


京一郎は紗佳の一打を見て、静かに言った。


「……そこ、危ない。」


「え……?」


「読みが深くなった分、見える範囲が広がった。

 でも、その広がりに飲まれかけてる。」


紗佳は息を呑む。


「飲まれ……かけてる?」


「強くなると、見える景色が増える。

 その分、迷いも増える。

 それが“影”だ。」


紗佳の胸がチクリと痛む。


(影……私の中にある、もう一つの何か。)


京一郎は続けた。


「お前は華だ。

 でも、華の根元には必ず茨がある。

 それを見ないまま強くなると……折れる。」


紗佳は唇を噛む。


(京一郎くん……そんなことまで考えてくれてるんだ。)


胸の奥が痛いのに、どこか温かい。


対局が終わると、紗佳は静かに息を吐いた。

昨日より強くなった自分を感じる。

でも同時に、胸の奥に小さな痛みが残る。


(影……茨……

 私の中にある“もう一つの何か”。

 それを見つけなきゃいけないんだ。)


部室を出ると、夕陽が校舎を赤く染めていた。

紗佳は空を見上げる。


華は広がり始めた。

でも、その影には──

確かに“茨の輪郭”が見え始めていた。


紗佳はその影を見つめ、そっと呟く。


「……強くなる。

 影も、茨も……全部抱えて。」


その声は、夕陽に溶けて消えた。


こうして──

紗佳の華は揺れながらも、影と共に前へ進み始めた。



第4話を読んでくださり、ありがとうございます。




霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。


彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、


どうしても丁寧に描きたいと思いました。




麻雀という勝負の世界は、


牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。


紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、


二人の距離が静かに動き始める──


その最初の一歩が、この第1話です。




ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、


見守っていただければ嬉しいです。




霧島葵

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。