第3話「揺れる華」
放課後の部室は、昨日よりも少しだけ賑やかだった。
紗佳が入ると、部員たちが自然と視線を向ける。
「紗佳、昨日の部長戦すごかったよな。」
「読みが鋭いって京一郎が言ってたぞ。」
紗佳は照れながら笑った。
胸の奥が、昨日よりも少しだけ温かい。
(私……本当に強くなれてるのかな。)
卓に座ると、指先が自然と落ち着く。
昨日よりも深く、静かに。
◆ 部員からの相談
「紗佳、ちょっといい?」
声をかけてきたのは一年の男子部員だった。
「昨日の対局見ててさ……
この形、どう進めるのがいいと思う?」
彼は手牌の写真を見せてくる。
紗佳は少し驚いた。
(私に……相談?)
写真を見つめると、手の中の牌が自然と動くように見えた。
「これ……三色が見えるよね。
でも、急ぐならタンヤオに寄せた方がいいかも。」
男子部員は目を丸くした。
「なるほど……!
ありがとう、紗佳!」
その言葉に、紗佳の胸がふわっと軽くなる。
(私……誰かの役に立てたんだ。)
部室の空気が、昨日よりも少しだけ変わっていく。
◆ 京一郎の静かな視線
部員たちが紗佳の周りに集まる。
質問が増え、紗佳は嬉しそうに答えていく。
その様子を、京一郎は卓の向こうから静かに見ていた。
紗佳はふと気づき、京一郎と目が合う。
京一郎は何も言わず、視線を逸らした。
(京一郎くん……なんでそんな顔するの?
怒ってるわけじゃないよね……?)
胸の奥に、小さなざらつきが生まれる。
華が広がるほど、
その影に茨が伸びるような感覚。
◆ 京一郎との対局
「……打つか。」
京一郎が静かに言った。
紗佳は頷き、卓につく。
配牌を整えると、京一郎の指先がわずかに止まった。
「昨日より……落ち着いてるな。」
「うん。なんか、少しだけ分かるようになってきた気がする。」
対局が始まる。
紗佳の読みは冴え、京一郎の手を何度も揺らす。
しかし──
京一郎は紗佳の一打を見て、静かに言った。
「……そこ、浅い。」
紗佳の胸がチクリと痛む。
「え……浅い?」
「読みが半分しか届いてない。
その一打は、俺の手を見切れていない。」
紗佳は唇を噛む。
(褒めてくれたのに……痛い。
でも……京一郎くんは嘘をつかない。)
京一郎は続けた。
「強くなったのは事実だ。
でも、華が広がるほど……影も濃くなる。」
その言葉は、紗佳の胸に深く刺さった。
◆ ラスト:揺れる華
対局が終わると、紗佳は静かに息を吐いた。
昨日より強くなった自分を感じる。
でも同時に、胸の奥に小さな痛みが残る。
(もっと……強くならなきゃ。)
部室を出ると、夕陽が校舎を赤く染めていた。
紗佳は空を見上げる。
華は広がり始めた。
でも、その影には──
まだ名前のない“茨”が静かに揺れていた。
紗佳はその影を見つめ、そっと呟く。
「……負けない。
絶対に。」
その声は、夕陽に溶けて消えた。
こうして──
紗佳の華は揺れながらも、確かに前へ進み始めた。
第3話を読んでくださり、ありがとうございます。
霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。
彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、
どうしても丁寧に描きたいと思いました。
麻雀という勝負の世界は、
牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。
紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、
二人の距離が静かに動き始める──
その最初の一歩が、この第1話です。
ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、
見守っていただければ嬉しいです。
霧島葵




