第2話「華の輪郭」
放課後の部室は、昨日より少しだけ明るく感じた。
紗佳は卓の前に座りながら、胸の奥の熱を思い返す。
京一郎と打ったあの時間──
それは、紗佳の中で確かに何かを変えた。
「紗佳、昨日の対局すごかったらしいじゃん。」
部室に入ってきた部員が、興味津々の目で紗佳を見る。
その後ろから部長も顔を出した。
「京一郎を揺らしたって聞いたよ。
ちょっと一局、やってみようか。」
紗佳は一瞬だけ固まった。
「えっ、わ、私が……部長と?」
「いい経験になるよ。」
部長は穏やかに笑う。
その笑顔に背中を押されるように、紗佳は席についた。
◆ 部長との初対局
配牌を整えると、紗佳の指先が自然と落ち着く。
昨日よりも深く、静かに。
(緊張する……でも、やるしかない。)
部長は淡々と牌を切る。
その一打一打が、紗佳の読みを試すように見えた。
紗佳は河を見て、部長の手を想像する。
昨日よりも鮮明に、輪郭が浮かぶ。
(この人……タンヤオを見てる。
でも、もう一つ……何かある。)
紗佳は一枚の牌を引き、迷わず切った。
部長の目がわずかに揺れる。
「……いい読みだね。」
その一言が、紗佳の胸を熱くする。
対局はギリギリの攻防になった。
部長の読みは深く、紗佳の直感は鋭い。
最後の一打──
「ロン。」
紗佳は静かに手牌を倒した。
部長はしばらく紗佳を見つめ、
ゆっくりと頷いた。
「紗佳……君、才能あるよ。」
紗佳は息を呑む。
(部長に……認められた。)
胸の奥が熱くなり、視界が少し滲んだ。
◆ 京一郎の影
部員たちが紗佳を褒める声が広がる。
紗佳は照れながら笑う。
そのとき──
京一郎が静かに席を立った。
紗佳はその背中を見て、胸がざわつく。
(京一郎くん……怒ってる?
それとも……何か考えてる?)
昨日よりも近く感じた距離が、
急に遠くなった気がした。
◆ 京一郎との会話
放課後。
紗佳は京一郎を追いかけて廊下に出た。
「京一郎くん、今日の対局……見てたよね。
どう思った?」
京一郎は少しだけ紗佳を見る。
「……強くなった。」
紗佳は嬉しくなる。
けれど京一郎は続けた。
「でも、まだ甘い。
読みが浅いところがある。」
胸がチクリと痛む。
(褒めてくれたのに……痛い。)
しかし京一郎は、最後にこう言った。
「もっと強くなれる。
お前は、まだ“華”の輪郭しか見えていない。」
紗佳はその言葉を胸に刻んだ。
◆ 紗佳の決意
部室に戻り、紗佳は一人で牌を触る。
部長の言葉。
部員の反応。
京一郎の評価。
全部が胸の中で混ざり合う。
(もっと強くなりたい。
京一郎くんに、ちゃんと認めてもらいたい。)
紗佳の瞳は、昨日よりも強く光った。
◆ ラスト:華の輪郭が形になる
翌日。
部室に入ると、京一郎が静かに待っていた。
「……打つか。」
紗佳は笑顔で頷く。
「うん。昨日より強くなってるから。」
京一郎はわずかに口角を上げた。
二人の距離が、昨日より少しだけ近くなる。
こうして──
紗佳の“華”は本格的に開き始めた。
第2話を読んでくださり、ありがとうございます。
霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。
彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、
どうしても丁寧に描きたいと思いました。
麻雀という勝負の世界は、
牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。
紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、
二人の距離が静かに動き始める──
その最初の一歩が、この第1話です。
ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、
見守っていただければ嬉しいです。
霧島葵




