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華 -ibara-  作者: 霧島葵
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14/20

第14話「揺れる影」

迷宮の中心に辿り着いた紗佳は、

静かに息を吐いた。


(揺れてる……

 でも……怖くない……

 迷宮は抜けた……)


だが、迷宮を抜けたからといって、

霧谷総合が止まるわけではなかった。


朔夜は、迷宮の中心を見せた直後、

まるで別人のように打ち筋を変えた。


切り順が整い、

鳴きが止まり、

影が一点に集まる。


(……迷宮じゃない……

 これは……)


章仁が後ろから静かに言う。


「霧島。

 迷宮は“入口”だ。

 霧谷総合の本質は……ここからだ。」


紗佳は息を飲む。



朔夜の影が、

一点に集まったまま動かない。


揺れない。

散らない。

軽くも重くもならない。


(……影が……止まってる……

 こんなの……初めて……)


影が止まるということは、

読みの“揺れ”が一切発生しないということ。


影を読む紗佳にとって、

これは迷宮よりも恐ろしい。


朔夜が静かに言う。


「霧島紗佳。

 迷宮を抜けたのは見事だ。

 だが……影の底は、もっと深い。」


紗佳の胸がざわつく。


(影の……底……?

 深度の……さらに下……?)


朔夜は牌を引き、

まるで“無音”のように牌を置いた。


その瞬間──

紗佳の影が大きく揺れた。


(っ……!

 揺れた……

 深度が……震えてる……)


浅い層ではない。

深度の“第二層”が揺れている。


章仁が低く言う。


「霧島。

 影の深度は一層じゃない。

 お前の影は……二層ある。」


紗佳は目を見開く。


(二層……

 私の影……そんなに深いの……?)



朔夜の打牌は、

紗佳の影の第二層を揺らし続けた。


揺れは波のように広がり、

胸の奥がざワつき、

指先が震え始める。


(読めない……

 迷宮より……読めない……

 影が……揺れすぎて……)


影を軽くしようとするが、

第二層の揺れは軽くできない。


浅い層は軽くできる。

だが深い層は揺れ続ける。


(軽くしても……

 奥が揺れる……

 どうすれば……)


朔夜が静かに言う。


「影を読む人は、

 影の底に落ちると……迷う。」


紗佳は唇を噛む。


(迷ってる……

 影が……揺れすぎて……

 読みが……崩れる……)


京一郎が声を張る。


「紗佳!

 影を軽くするんじゃない!

 “揺れを抱えろ”!」


紗佳は震える指で牌を引く。


(抱える……

 揺れを……抱える……

 怖い……

 でも……)


胸の奥の揺れを感じる。

逃げずに、受け止める。


(揺れてる……

 でも……逃げない……

 これが……私の影……)


だが揺れは止まらない。


終盤に近づくにつれ、

朔夜の影はさらに深くなった。


影が一点に集まり、

揺れが消え、

静寂が卓を支配する。


(影が……止まってる……

 揺れが……ない……

 読めない……)


影が揺れないということは、

読みの“入口”が消えるということ。


紗佳は影を読むことも、

影を軽くすることもできなくなった。


(影が……崩れる……

 深度が……壊れる……)


朔夜が静かに言う。


「影を読む人は、

 影が止まると……崩れる。」


紗佳の胸が締め付けられる。


(崩れる……

 私の影……

 私の読み……

 全部……)


京一郎が叫ぶ。


「紗佳!

 影を読むな!

 影を軽くするな!

 深度を抱えるんだ!」


紗佳は震える指で牌を引く。


(抱える……

 揺れを……

 深度を……

 怖い……

 でも……)


影が揺れる。

深度が震える。

読みが崩れる。


だが──紗佳は逃げなかった。



休憩時間。

紗佳は控え室で膝を抱えていた。


影が揺れすぎて、

胸の奥が痛い。


京一郎が隣に座る。


「紗佳。

 影が揺れるのは……悪いことじゃない。」


紗佳は顔を上げる。


「……揺れすぎて……

 読めなくて……

 怖いよ……」


京一郎は紗佳の手をそっと握る。


「紗佳の影は……深い。

 二層ある。

 揺れが大きいのは……

 それだけ“記録”があるってことだ。」


紗佳の胸が熱くなる。


「……記録……?」


京一郎は頷く。


「紗佳の影は、

 今までの全部を抱えてる。

 負けた時の揺れも、

 勝った時の揺れも、

 迷った時の揺れも……

 全部、影の深度になってる。」


紗佳は涙が滲む。


「……そんなふうに……

 見てくれてたんだ……」


京一郎は優しく微笑む。


「紗佳。

 揺れていい。

 揺れた影を抱えたまま打てるのが……

 お前の麻雀だ。」


紗佳は静かに頷いた。


(揺れてる……

 でも……抱える……

 これが……私の影……)



対局室に戻ると、

朔夜の影はまだ一点に集まっていた。


揺れない影。

読みの入口がない影。


だが紗佳は、

胸の奥の揺れを抱えたまま席についた。


(揺れてる……

 でも……逃げない……

 これが……私の影……)


朔夜が静かに言う。


「霧島紗佳。

 影の底に落ちても……

 まだ打つのか。」


紗佳は牌を引き、

震える指で一打を置いた。


「……打つよ。

 揺れてても……

 これが……私の麻雀だから。」


朔夜の目がわずかに揺れた。


迷宮の中心を抜け、

影の底に落ち、

それでも紗佳は打ち続けた。


揺れを抱えたまま。



長編疲れる~

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