第13話「霧谷総合の迷宮」
一回戦の対局室に入った瞬間、
紗佳は空気の“歪み”を感じた。
霧谷総合の選手たちは、
卓を囲んでいるのに、まるで“中心がない”ように見える。
影が揺れているのではなく、
影が“散っている”。
(……迷宮みたい……
影がどこにあるのか、わからない……)
京一郎が紗佳の背後に立ち、
小さく囁く。
「紗佳。
霧谷総合は“影を乱す”学校だ。
影の深度を意識して、揺れを抱えろ。」
紗佳は深呼吸し、
影を軽くしてから席についた。
東家・霧谷総合の朔夜が静かに牌を引く。
その手つきは柔らかいのに、
切り順はまるで“意味がない”。
一巡目、朔夜は
字牌 → 中張牌 → 字牌 → 端牌
という、流れのない切り方をした。
(……読めない……
影が……散ってる……)
紗佳は影を読む癖が出そうになり、
慌てて影を軽くする。
(読まない……
読まない……
深度を抱える……)
だが朔夜の打牌は、
紗佳の影の“浅い層”を揺らし続けた。
章仁が後ろから言う。
「霧島。
迷宮は“浅い影”を乱す。
深度を意識しろ。」
紗佳は頷き、
胸の奥の揺れを感じながら牌を引く。
中盤に入ると、朔夜の変則はさらに強まった。
鳴きは早いのに手は遅い。
手は遅いのに、テンパイ気配だけはある。
テンパイ気配があるのに、
切る牌はまるで“遠回り”。
(……迷宮……
本当に迷宮みたい……
どこが出口なの……)
紗佳の影が揺れ始める。
浅い層が波打ち、
深い層が震え、
読みが崩れそうになる。
(影が……揺れる……
深度が……揺れてる……)
朔夜が静かに言う。
「霧島紗佳。
影を読む人は、迷宮に迷う。」
紗佳は唇を噛む。
(読んでない……
読んでないのに……
揺れる……)
京一郎が声を張る。
「紗佳!
影を軽くして、深度を抱えろ!」
紗佳は深呼吸し、
影を軽くする。
だが──
迷宮は紗佳の“深度”にまで手を伸ばしてきた。
朔夜の打牌が、
紗佳の胸の奥を揺らす。
(深いところが……揺れてる……
怖い……
でも……)
紗佳は影を軽くしながら、
深度の揺れを“感じる”ことに集中した。
(揺れてる……
でも……逃げない……
これが私の影……)
章仁が静かに言う。
「霧島。
深度が揺れるのは、
お前が“迷宮の中心”に近づいている証拠だ。」
紗佳は目を見開く。
(中心……
出口じゃなくて……
中心……)
迷宮は“出口を探す”ものではなく、
“中心を見つける”ものだった。
終盤。
朔夜の打牌が突然静かになった。
切り順が整い、
鳴きが止まり、
影が一点に集まる。
(……中心……
ここが……迷宮の中心……)
紗佳は影を軽くし、
深度の揺れを抱えたまま牌を引いた。
胸の奥が震える。
影が揺れる。
だが──逃げない。
(揺れてる……
でも……これが私の影……
私の麻雀……)
紗佳は一打を置いた。
朔夜が目を細める。
「……中心に辿り着いたか。」
迷宮が静かになった。
京一郎が紗佳の背中に小さく触れる。
「紗佳。
迷宮は抜けた。
あとは……お前の麻雀だ。」
紗佳は頷く。
(揺れてる……
でも……怖くない……)
迷宮の中心に辿り着いた紗佳は、
次の一打を静かに引いた。
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