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華 -ibara-  作者: 霧島葵
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13/20

第13話「霧谷総合の迷宮」

一回戦の対局室に入った瞬間、

紗佳は空気の“歪み”を感じた。


霧谷総合の選手たちは、

卓を囲んでいるのに、まるで“中心がない”ように見える。


影が揺れているのではなく、

影が“散っている”。


(……迷宮みたい……

 影がどこにあるのか、わからない……)


京一郎が紗佳の背後に立ち、

小さく囁く。


「紗佳。

 霧谷総合は“影を乱す”学校だ。

 影の深度を意識して、揺れを抱えろ。」


紗佳は深呼吸し、

影を軽くしてから席についた。



東家・霧谷総合の朔夜が静かに牌を引く。

その手つきは柔らかいのに、

切り順はまるで“意味がない”。


一巡目、朔夜は

字牌 → 中張牌 → 字牌 → 端牌

という、流れのない切り方をした。


(……読めない……

 影が……散ってる……)


紗佳は影を読む癖が出そうになり、

慌てて影を軽くする。


(読まない……

 読まない……

 深度を抱える……)


だが朔夜の打牌は、

紗佳の影の“浅い層”を揺らし続けた。


章仁が後ろから言う。


「霧島。

 迷宮は“浅い影”を乱す。

 深度を意識しろ。」


紗佳は頷き、

胸の奥の揺れを感じながら牌を引く。



中盤に入ると、朔夜の変則はさらに強まった。


鳴きは早いのに手は遅い。

手は遅いのに、テンパイ気配だけはある。

テンパイ気配があるのに、

切る牌はまるで“遠回り”。


(……迷宮……

 本当に迷宮みたい……

 どこが出口なの……)


紗佳の影が揺れ始める。


浅い層が波打ち、

深い層が震え、

読みが崩れそうになる。


(影が……揺れる……

 深度が……揺れてる……)


朔夜が静かに言う。


「霧島紗佳。

 影を読む人は、迷宮に迷う。」


紗佳は唇を噛む。


(読んでない……

 読んでないのに……

 揺れる……)


京一郎が声を張る。


「紗佳!

 影を軽くして、深度を抱えろ!」


紗佳は深呼吸し、

影を軽くする。


だが──

迷宮は紗佳の“深度”にまで手を伸ばしてきた。



朔夜の打牌が、

紗佳の胸の奥を揺らす。


(深いところが……揺れてる……

 怖い……

 でも……)


紗佳は影を軽くしながら、

深度の揺れを“感じる”ことに集中した。


(揺れてる……

 でも……逃げない……

 これが私の影……)


章仁が静かに言う。


「霧島。

 深度が揺れるのは、

 お前が“迷宮の中心”に近づいている証拠だ。」


紗佳は目を見開く。


(中心……

 出口じゃなくて……

 中心……)


迷宮は“出口を探す”ものではなく、

“中心を見つける”ものだった。


終盤。

朔夜の打牌が突然静かになった。


切り順が整い、

鳴きが止まり、

影が一点に集まる。


(……中心……

 ここが……迷宮の中心……)


紗佳は影を軽くし、

深度の揺れを抱えたまま牌を引いた。


胸の奥が震える。

影が揺れる。

だが──逃げない。


(揺れてる……

 でも……これが私の影……

 私の麻雀……)


紗佳は一打を置いた。


朔夜が目を細める。


「……中心に辿り着いたか。」


迷宮が静かになった。



京一郎が紗佳の背中に小さく触れる。


「紗佳。

 迷宮は抜けた。

 あとは……お前の麻雀だ。」


紗佳は頷く。


(揺れてる……

 でも……怖くない……)


迷宮の中心に辿り着いた紗佳は、

次の一打を静かに引いた。



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