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華 -ibara-  作者: 霧島葵
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11/20

第11話「影の深度」

支部大会前日。

蒼陵南高校の部室は、いつもより静かだった。


窓から差し込む光が卓を照らし、

その上で霧島紗佳の指がゆっくりと牌を滑らせていた。


(影を軽くする……

 深呼吸して……

 指の震えを抑えて……)


だが、牌を触るたびに胸の奥がざワつく。

影が揺れる。

軽くしたはずなのに、奥のほうが波打っている。


(なんで……

 軽くしてるのに……

 揺れが止まらない……)


扉が開く音がした。


章仁が入ってきた。

いつもの落ち着いた目で紗佳を見つめる。


「霧島。

 影を軽くするだけじゃ勝てないぞ。」


紗佳は手を止めた。


「……軽くするだけじゃ、ダメなんですか?」


章仁は卓の向かいに座り、

牌を一つ手に取って言った。


「影には“深度”がある。

 浅い影は軽くできるが、深い影は揺れ続ける。

 お前の影は……深い。」


紗佳は息を飲む。


(深い影……

 だから揺れるんだ……)


章仁は続ける。


「影が深いほど、揺れは大きい。

 だが深い影は、強さにもなる。

 揺れの記録が深いほど、読みの幅が広がる。」


紗佳は胸の奥が熱くなる。


(影は弱さじゃない……

 私の記録……)


その時、京一郎が部室に入ってきた。


「紗佳。

 影を軽くするのは大事だ。

 でも深度を理解しないと、支部大会では崩れる。」


紗佳は拳を握った。


「……影の深度、か。」



章仁が卓に牌を並べる。


「霧島。

 影の深度を試してみろ。」


紗佳は頷き、牌を引く。

影を軽くする。

呼吸を整える。


だが──

牌を置いた瞬間、胸の奥が揺れた。


(……揺れた。

 軽くしたのに……)


章仁は静かに言う。


「深度が揺れている。

 浅い影は軽くできるが、深い影は揺れを抱えたままだ。」


紗佳は唇を噛む。


「じゃあ……どうすれば……」


章仁は牌を置く。


「深度を“知る”ことだ。

 影の揺れを否定するな。

 揺れを感じて、受け入れろ。」


紗佳は目を閉じた。


(揺れを……受け入れる……

 怖い……

 でも……)


ゆっくりと牌を引く。

影が揺れる。

だが逃げずに、その揺れを感じる。


(揺れてる……

 でも……前より……怖くない……)


章仁が頷く。


「それが深度だ。」



練習が終わると、京一郎が紗佳の隣に座った。


「紗佳。

 影の深度は、弱さじゃない。

 お前の影は……俺がずっと見てきた影だ。」


紗佳は京一郎を見る。


「……京ちゃん、私の影……わかるの?」


京一郎は少し照れたように笑う。


「紗佳が影を軽くした時、

 指の震えが止まる瞬間がある。

 あれが深度の“浅い層”。

 でも奥の揺れは……ずっと前から知ってる。」


紗佳の胸が熱くなる。


(京ちゃん……

 そんなふうに……見てくれてたんだ……)


京一郎は続ける。


「支部大会では、影の深度が試される。

 霧谷総合も、無音寺も、蒼陵中央も……

 影を揺らす打ち方をしてくる。」


紗佳は拳を握る。


「……揺れても、負けない。」


京一郎が微笑む。


「それでいい。

 揺れた影を抱えたまま打てるのが……紗佳だ。」



部室を出る前、紗佳はもう一度卓に触れた。


影が揺れる。

深度が震える。


だが──

逃げない。


(揺れてる……

 でも……これが私の影……

 私の麻雀……)


支部大会前日。

紗佳は初めて、

自分の影の“深さ”を受け入れた。



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