↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華 -ibara-  作者: 霧島葵
PR
10/20

第10話「影の深度」

翌日の放課後。

紗佳は部室へ向かう途中、

昨夜のオンライン対戦の感覚を思い返していた。


星雀ONLINEの認定雀士。

雀闘羅のプロ。

部活の仲間の“外の顔”。


(全部……私の読みを揺らしてくる。)


胸の奥がふわっと熱くなる。

その熱は、昨日よりも深かった。



部室に入ると、部員たちがすぐに紗佳に気づいた。


「紗佳、昨日のオンライン戦すごかったって聞いたぞ!」

「認定雀士に勝ったってマジ?」

「雀闘羅でプロとも当たったって……!」


紗佳は照れながら笑った。


「うん……たまたま、だけど。」


部員たちが自然と紗佳の周りに集まる。

その空気は、昨日よりも明らかに熱かった。


一年の男子部員の対局を見ていると、

紗佳の読みは自然と深くなっていた。


「その牌、切らない方がいい。

 相手、スピードで来てるけど……

 裏で“もう一つの形”を見てる。」


男子部員は驚いたように振り返る。


「紗佳……昨日より読みが深い……!」


紗佳は照れながら笑った。


(星雀ONLINEの影……

 雀闘羅の圧……

 認定雀士の静かな読み……

 プロの深度……

 全部が私の中で混ざってる。)


胸の奥が熱くなる。



その様子を、京一郎は卓の向こうから静かに見ていた。

昨日よりも長く、紗佳を見つめている。


紗佳がふと気づき、目が合う。


京一郎は、ほんの少しだけ視線を逸らした。

その表情は、昨日よりも影が濃い。


(京一郎くん……どうしてそんな顔するの?

 怒ってるわけじゃない……よね?)


胸の奥に、小さなざらつきが生まれる。


華が広がるほど、

その影に茨が伸びるような感覚。



「……打つぞ。」


京一郎が静かに言う。

紗佳は頷き、卓につく。


配牌を整えると、京一郎がわずかに目を細めた。


「昨日より……さらに深いな。」


「うん。星雀ONLINEと雀闘羅、

 それに認定雀士とプロ……

 全部と戦ったから……

 なんか、読みが前より見える気がする。」


対局が始まる。

紗佳の読みは冴え、京一郎の手を何度も揺らす。


しかし──


京一郎は紗佳の一打を見て、静かに言った。


「……そこ、深すぎる。」


紗佳は息を呑む。


「深すぎる……?」


「読みが深くなるほど、影も深くなる。

 その影を抱えられないと……

 強さは折れる。」


紗佳の胸がチクリと痛む。


(影……また出てきた。

 でも、昨日より怖くない。)


京一郎は続けた。


「外の強者と戦ったのは正しい。

 でも──

 “外の影”をそのまま持ち帰ると、

 自分の影が濃くなりすぎる。」


紗佳は唇を噛む。


(私の影……私の茨……

 それを見つけなきゃいけないんだ。)



部活が終わると、紗佳は自然と商店街へ足を向けていた。


(今日の読み……まだ浅いところがあった。

 もっと深く……もっと強く。)


ゲーセンの扉を押すと、

電子音が一気に耳に流れ込む。


奥には、青白い光の星雀ONLINE。

その隣には、赤黒い光の雀闘羅。


紗佳は迷わず星雀ONLINEにカードを挿し、

静かな読みを磨く。


CPUの淡々とした打牌。

その裏にある“静かな影”。


(この影……昨日より見える。)


数局打ったあと、

紗佳は雀闘羅へ移動した。


赤黒い画面が光り、

攻撃的なCPUが牙をむく。


(この圧……昨日より怖くない。)


紗佳は読みを重ね、

星雀ONLINEで得た“静かな影”を使いながら、

雀闘羅の攻撃を受け止める。


そして──


ロン


紗佳の勝ちだった。


「……っ!」


胸の奥が熱くなる。


(二つの星……

 どっちも、私を強くしてくれる。)



ゲーセンを出ると、

夜風が頬を撫でた。


(影が濃くなってる。

 でも……それを抱えて前に進めばいい。)


京一郎の言葉が胸の奥で静かに響く。


紗佳はそっと呟く。


「……もっと強くなる。

 影の深度も、茨の形も……全部抱えて。」


その声は、夜風に溶けて消えた。


こうして──

紗佳の華は、影の深度を抱えながらさらに強く揺れ始めた。



第10話を読んでくださり、ありがとうございます。




霧島紗佳という少女は、光と影の境界に立つ存在です。


彼女が初めて卓に向かう瞬間の“揺れ”を、


どうしても丁寧に描きたいと思いました。




麻雀という勝負の世界は、


牌の音よりも、心の音のほうがずっと大きい。


紗佳の影が揺れ、京一郎の影が寄り添い、


二人の距離が静かに動き始める──


その最初の一歩が、この第1話です。




ここから紗佳の“華”と“茨”がどう育つのか、


見守っていただければ嬉しいです。




霧島葵

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。