ー伍拾参ー「唱鬼」
遅くなるから、クオリティ上げるって言ったな。ありゃ嘘だ。
何時も通りです。これが私の実力です(´・ω・`)。
全然語彙が枯渇しているし、描写が下手過ぎる…いつも同じシーンを作っている気がする。
特に友の視点がうまくできなかったなぁと思います。あと、紅の立ち回り。
生きるとか、死ぬとか、新しい鬼とか、それぞれの立場とか、そういう話。
沢山人が出る割りに、その辺の説明を抜いているので、遡ってもらえるとありがたい。
長月の十九日。
「うわぁぁぁぁぁん!にいちゃぁぁっ!」
「兄ちゃん、目開けてよ…」
ヒック…ヒック……
瓜助さんの実家。前に来た時は楽しい空間だったが、今は悲しみだけに支配される。鼻を啜る音が響く。
上のきょうだい達は大きな声は出さないものの、其れでも感情を抑えきれず、静かに泣いている。其れでも、下の子達が布団を捲らないように、ぎゅっと端を握り込んでいた。
其の光景を目にしながら、襖を占める。廊下には、瓜助さんの遺体を運び込んだ僕達と、瓜助さんの両親、金さんと優さんだけがいる。
「侍という役目を熟す上で、我々も瓜助も、覚悟は出来ておりました…亡骸に逢えただけでも、我々は十分で御座います。連れ帰って下さり、有難う御座います」
今回の鬼が、もっと普通なら何事も無く帰宅していた。イレギュラーが発生したから、瓜助さんは死んだ。理不尽に奪われた事を嘆いても良いだろうに、二人は感謝だけを述べて、頭を下げた。
金さん達は今にも崩れ落ちそうにも、笑みを浮かべて僕達の応対をする。其れは、文官としての仕事をする一つの意地なのかもしれない。
僕の後ろにいる白夜が、早く去るべきだと肩を叩いた。
金さんは、ぽろりと口から小さく零す。
「…つい此の間、私の誕生日を祝ってくれたね…楽しかった思い出が昨日の事の様だよ…もっと、沢山話をすれば良かったって、思ってしまう………もう遅いというのに…」
大分、此の世界に滞在して感じたのは。
此処じゃ、人が頻繁に死ぬわけじゃないけど、僕達の世界よりも人は死に易くて。
家族の死が心に影が差すくらい哀しいのに、形が残っているだけでも喜びの物種となって。
人の命は軽くて、重い。
※ ※
ノーサイド
「…して、岩船を名乗る鬼の討伐と成りました」
「うむ。御苦労であった。御主等が無事に帰ってきて何よりじゃよ」
玉梓から、藤姫に事の一部始終が伝えられる。
城の最上階では、隊長達が集められ、報告会が開かれた。始めは、近い内に起きた都の出来事を各々報告していたが、気になるのは矢張り、新しく現れた鬼の事であった。
春人によって、半ば無断で飛び出していったものだったが、其れを知るのは、此の場では春人、玉梓、藤姫、理知だけであり、他は正式なものとして伝えられていた。
「初雁殿、貴方の見た光景については後程、阿古辺殿とも共有させていただき、意見を頂こうと思います。…それにしても、驚きました。人型とは聞いてはいましたが、角と牙がある以外には正しく人であるとは…」
理知は目の前の風景ではない其の光景を瞳に映し、額に汗を流す。
話がされる前に《去見》によって、玉梓が見た景色は理知へと共有されている。事前に話には聞いていたが、見るとまた其の事実に圧倒される。玉梓も、理知の様子にはさも当然と、受け入れていた。
傍から見ていた一人が、興味の高まりから声を投げた。
「えー!そんなに人っぽかったの!?僕も見たいっ!りっちゃん僕にも《去見》で見せてよ!」
「こら、守。理知さんの歌を不真面目な用途で使おうとするな…。今回の件は、城下にも不安が広がっているみたいだ。実力のある侍が五人…遺体となって運ばれて来たんだからね…」
自分の報告以外では、正座で大人しく座っていた守だが、前にのめり込んだ体を支えるように両手を前につく。其れを叱るのは隣に座る真継。城下ではかなり子供のように行動しては、身内を困らせる真継だが、守に対しては少々保護者のようになる。
玉梓の報告で、話しているのは藤姫、理知、玉梓のみであった場が、此の二人が言葉を発したのを皮切りに崩れる。
「遺体を堂々と道の真ん中で運んできたからでしょ。布で隠してたみたいだけど、あんなの膨らみと匂いで分かるわ」
呆れたように息を吐いて言うのは、守を挟んで真継と反対の方に座る幸だ。幸は、門を通って帰ってくる玉梓達を大勢の人の間から見ていた。周りの人の声も聞こえていた。そして、此れは後を引く事を感じていた。
幸に対して、守は声を発そうとしたが、対岸から響いた冷たい声に、言葉は中断された。
「…其れは正しい判断と言えたのか?そもそも死んだ人間を持ち込まなければ、都の住人程度ではこの事は知らずに済んだ筈だ。此れは余計な不安だ。侍が死ぬ事は、常の事。そして、其の死体を其処に置く事も」
今の所、大人しく聞いていた紅が玉梓を鋭く射貫く。余計な事をしてくれた、と目で訴えかける。見られている玉梓は、其の視線を藤姫の方から外す事はしない。周りを意に介する事はしないといった風だ。そして、自身が間違った事をしていないという意志の現れ、である。
其の代わり、口を開いたのは紅の隣に座る、春人だ。
「其処に置く事を常にしているのではない。其処に置かざる得ない事が常であるのみだ。其れを違えてはならない」
「死んだ侍は全て五の隊。そして、運び込んだ侍には貴様の隊の者もいたようだな、三井寺」
胡坐を掻いて目を閉じた儘、強弱の変わらぬ声が横槍を刺す。紅は、一連の事には玉梓だけではなく、春人も関わるのだと感付いた。紅の視線が春人に向く。
「今回は運が良かった。迎えに行って死ぬようなら、笑えない」
「えぇ…私共は、間違え無く、運が良かった…運が良かったから、彼等を連れて帰る事が出来たのさ」
視線を寄越す事無く、玉梓は紅にそう言った。紅はちらっと玉梓を見たが、其の視線は直ぐ春人に向いて鋭く睨みつけた。強い視線を向けるのは紅だけで、春人は目を閉じ、玉梓は目線を向けていない。しかし、互いに正しさを譲らない故に、場は膠着に陥った。
真継は、守と幸に目線を寄越し、自分達が声を上げる迄にはなかった重さに、自分達の所為かな?という念を飛ばす。二人、真継にだけ分かるように首を振った。
其処に、また別の方から声が飛び込んだ。渡が、控えめに両手を胸迄上げて、発言する。
「まぁまぁ…俺としてはどちらの意見も間違ってないと思うぜ。死者が出るのは侍の中じゃ普通だ。けど、其れは月に一人くらいで、昔に比べれば圧倒的に減ったもんだぜ。其れが今回は、一度に五人、其れも五の隊から出た事を考えるべきなんじゃないのか?」
「五の隊で五人かぁ…四と五以外じゃ、両手の指で数えられないくらいの人数が死んでいただろうね!」
次いで、守が明るく声に出す。おちゃらけて言うが、言っている事が重い。おい、と真継は睨む(この睨むは、きっと紅の視線に比べれば御遊びにも等しいだろう)。守は真継に対し、へらっと笑って見せるが、其の実、真継が何を咎めているのかはよく分かっていなかった。
「ほんとに鬼だったの~?鬼に偽装した人とかじゃなくって~?」
「えぇ、間違い無く。皆さんも対面すれば分かるさ。あれは人ならざる者…というより、人に慣れていない者と感じられたよ」
「へぇ~?」
渡と幸の間に座っていた大河に、玉梓は視線は寄越さないものの、柔らかに玉梓は答えを寄越した。大河は興味が有るのか、無いのか、分からない緩い声で返して以降、何も言わなかったが、含みのある事は感じとれて、何も変わらない顔でも、何かを考えているみたいであった。
「しっかし…なんで大鬼でも慧鬼でもない鬼が現れたんだ?八年前に出たあれは規格外ではだったけど、一応は大鬼の枠組みの存在ではあったよな。数百年も新しい鬼の発現は無かったのに、今になって如何してだ…?」
がしがしと髪を掻きながら、渡はぼやく。
「其の様な事、決まっている。あの五人だ」
冷たい声が飛んできた事で、やべ、と零して渡の髪を通す指の動きが止まる。
「其れって、友ちゃん達の事?」
紅の言葉に、一番に聞き捨てならなかったのは守だった。楽し気だった表情を消して、紅を見る。守を横目に、真継は一つ咳払いをする。
「失礼。友ちゃんとは高砂 友…五人の中の一人に対して、守が呼んでいる相性です。彼等が怪しいとは?」
「怪しくは思わないのか?あれ等は唐突に此の都にやってきて、理由も無く此の都に留まっている。そして、同じ時期からおかしな出来事は起こり始めている。都内への慧鬼成り掛けの侵入、遭遇する鬼の異常過ぎる減少、喋る慧鬼、そして今回の人の姿をした鬼だ。関係しないと考える方がおかしい」
強くものを言う紅。彼に先ず言い返したのは、対岸に座る二人ではなく、紅の隣で此処迄静観に勤めていた燈だった。
「其れは言い過ぎじゃないか?俺達が不甲斐無いばかりに都内に鬼を侵入させちまう事も無いわけじゃない。其れも慧鬼の成り掛けだったから…なんだろうよ。鬼が一時減ったのだって、喋る慧鬼が鬼を集めていたからで話は纏まっただろうよ。其れを今回の鬼に結び付けちゃいけねぇ。逆に聞こう…何故、其処迄彼等を目の敵にしようとする?」
気の昂る紅に対して、燈は冷静だ。此の場合、気持ちが表に出過ぎた紅の言い分よりも、燈の客観的な物言いの方が百倍は正しい。だがしかし、此れを紅に言ったのが燈だったから、紅は落ち着く事も後に引く事もまた敵わなかった。
「目の敵?違うな。怪しいものを怪しいといって何が悪い。鬼を倒せば、友好な者だと?喋る慧鬼と繋がっていて、自演自作した事も考えられる筈だ。内部から手引きをする事が目的かもしれない」
「………。」
燈は黙って紅を見つめる。言い返せないという様子は無い。寧ろ、口に出すよりも語り掛けられているようだ。
燈の光彩を通して、紅は自分の姿を見る。玉梓や春人を敵対した自分、其れより遥かに醜く映り、思わずというように立ち上がった。
「俺にはそんなにもあの五人を受け入れようとするお前らが分からない。其の気楽が、此の都を滅ぼす」
紅は、座布団から降りて、自分と考えの異なる複数人に背を向け、部屋を後にした。彼に理知は戻るように声を掛けたが、彼の好きにさせろと藤姫から声が掛かった。
「…なんであいつ、あんなかっかとしてんだ?」
最後に其の背中を見送った、藤姫の座から一番離れた所に座る印南が、襖の方を眺めながら口にする。特に返ってくる言葉は求めていなかった印南は、自分の座る場所から真反対…対岸の藤姫の座から一番近い所に座る、二三に声を掛けられ、肩を大きく震わせた。
「…あの子も此の都が大切なんだよ。おいちゃん達は、目に見えるものを懐疑的に見つめ続ける、其の役割の大部分をあの子に背負わせてしまっている。あの子が怒るのは、そういう事さ。
其れと別に、あの子は自分に出来なかった事を彼等にされてしまった。其れが悔しいんだろうねぇ…」
「彼の場合は、彼等五人と関わらな過ぎる事もあるとは思いますが…少なくとも、自分と藤姫様は彼等と此処で向き合って、彼等を受け入れる事を決めました。そうでなくとも、彼等は詠い手です。敵対する者であろうと、其れを発覚する迄の間は利用するが吉だと考えますよ」
「うへぇ~、僕は純粋に良い子達だと思うけどねぇ…」
繋ぐ理知の言葉に、吐くように言う守。対岸で、紅の募る言葉を聞いていたが、守には難しく考える意味が分からなかった。簡単に考える事にも、見えるものはある。そうして、守は今の通りに件の五人を見られているのだ。
結局、守の価値観に、紅の価値観が触れ合う事は無かった。
「紅殿も去ってしまいましたし、本日は此処迄としましょう。…藤姫様」
理知が藤姫に目線を送り、藤姫は頷く。
「うむ。…此度現れた人の姿をした、歌を用いる鬼は新たな脅威とし、これを唱える鬼と書いて唱鬼とする。此度の討伐で難は去ったと考えたいところではあるんじゃが…五の隊は暫くの間、此の唱鬼の捜索、及び情報を集める事を重点的に行なって貰いたい。唱鬼が見つかったとなれば、接触や戦闘を避け、一度都に帰還せよ。命は大事に、じゃな。三の隊、並びに都の外回りの警備に当たる者達は、普段通りの任に就きつつ、都に入る者に角、牙があるかどうか、注意を頼もう。人の姿をとる以上、門から堂々と入る事も考えられよう。取り越し苦労であろうとなかろうと、住民の不安が高まれば、いざという時に足並みを揃える事は難しくなる。あくまで普段通りを徹底し、現状の不安感を拭う事に努めよ。以上じゃ」
解散が伝えられ、立ち上がる隊長達。
彼等が出ていくのを見送りながら、今度は藤姫が理知に声を掛ける。
「更なる唱鬼の発見となれば、周辺の都に文を綴る事も必要になろう…用意を頼む、理知」
「御意」
ノーサイド エンド
※ ※
今は、都の隊長達が城の最上階に集まり、先の戦闘についても話題に上がっているのだろうか。部屋の前の廊下から城を見上げる。中から呼ばれて、城の方から目線を外した僕は、部屋に入る。
部屋の中では、真ん中ではなく何故か廊下側に寄るように、僕以外の四人が円になっていた。其の、間に僕も交ざって座った。
「では、僕達の円卓会議第三回目を開始します。ぱちぱち~」
「…?……ぱちぱち~…」
夜明の偶に来る謎のノリには、さえちゃんだけがのっていた。
「此の部屋で輪になって座るの、そんな名前の会議だったか?」
「気分。多分次には変わってるよ」
「そうか…」
「…一先ず、岩船との戦いお疲れ様。此の都でも此れ迄に無いケースだったし、対面してよく分かった。死ぬかと思った。其れでも、僕達から死者は出なかった。其れだけが嬉しい。…瓜助さん達の事は残念だけど、ね」
最後の言葉で、夜明の声のトーンが落ちる。僕達が行った時には手遅れだった。其れでも、悔やむ気持ちはある。五の隊の稽古に交ざった時の生き生きとした彼等の姿は僕も覚えている。
「僕も…助けてもらわなかったら死んでた。ごめん、足、引っ張った」
「仕様が無いだろ、あれは。てめぇは俺等ん中じゃ動ける方じゃねぇし、あん時はヘイトが溜まってた。其れよりも、離れた所で冷静に考える奴がいたのは良かったんだろうよ。…けど、何度も続くものじゃないだろうがな。夜明は今後、出る機会は少ない方が良い」
「私達もちょっと、夜明の強い歌意に頼り過ぎちゃったものね。切り札ってところかしら」
「体良く言われているような気がする…」
夜明は口を尖らせるが、白夜、白菊さん、僕で意見は固まっていた。夜明は歌意が強い分、狙われやすい。夜明が歌を使った後、狙われるのは夜明だ。なのに、敵の前に姿を晒し続けたいと思う事は最早僕達は難しかった。
前に出なくてもいい歌ではあるので、相手の攻撃が届かない所から使う事を考えた方が良いだろう。
「みんな、怪我とかは大丈夫?僕は平気だけど、白夜はあの細い石柱に思いっ切り腹を撃ち抜かれてたよね?」
「あぁ、石柱の頭が面上だったからな。抉られる事も無かったのは幸いだ。其れに、さえにもある程度治してもらった」
「…でも…絶対安静……私の歌意は…直ぐに治す事は出来ない……みんな…今迄のだって…治りきった…わけじゃない………次に出なきゃいけない……其の時…以外は……あまり無理はしないで欲しい……」
「「「分かった」」」
僕、白夜、白菊さん揃って、素直に返事をする。というのも、まぁそれなりの自覚が有るわけだ。経験の多い都の侍に比べても、無茶苦茶に戦っているところはある。枝を腕で止めたり、相手の出方を見る前に突っ込んだり。
まだ、完治とはいえない大鬼、慧鬼の時のものも残ってて、今回も打撲が主に体を痛める。今と同じ様に戦ってしまえば、ガタも来る。
…つまり、反省は頑張ってしようと思う。
………出来れば良いなぁ。
「………さえちゃんには悪いけれど、其れに関連した事が今日話したい事だよ。…僕達の戦った岩船を名乗る人の姿をした鬼。あれは、大確率で僕達に関わる事だっていうのは、此処に居る皆、何となく感付いたものだと思う」
「まぁそう、ね…。其れって、私達が此処に居るから岩船が現れた…って事にもなるの…?」
「そりゃあ言い過ぎだよ。僕達に其れ程の影響力があるとは思えない。あるとすれば、僕達が此処にいる原因の方さ」
膝の上の手に少しの力が入りつつ、控えめな声で訊ねた白菊に笑って夜明は否定する。
「物か現象か…正体は分からないが、〈其れ〉があるから俺達は如何してか此処に居るし、〈其れ〉
があるから岩船が現れた」
「そして、第二に“岩船”と呼べる別の者は現れる。此れは確実さ。進んだ段階が、戻る事はないのだろうね。で、此処からさ」
夜明が全員の顔を見てから、言葉にした。
「次に“岩船”が現れた際、此れを僕達が主となって此れに対応する。此の事を藤姫様に提案しようと思う」
「…なんで……?」
僕は夜明が言って直ぐに頷くアクションを取ろうとしたが、止まる。
細い声でそう呟かれた。其の声の方を皆が向く。
「…なんで…?…戦って……強かった…なのに…もっと……?…次は……死ぬかも…しれないのに……」
さえちゃんが此れ迄に無く険しく、夜明を見ていた。一種、責めているとも見える。
「人の姿をする鬼が此れからどんどん現れる。理由は此れだけさ。言った通り、僕達と“岩船”は理由が違うけど、根幹を共有している。だから、さっき白菊さんが言ったような誤解は必ず生まれる。『人のような鬼は現れる原因は僕達にあるんじゃないか』と。此れは違うけど、其の証拠を僕達は持っていない。そして其れは、時間が過ぎれば過ぎる程、手遅れになる。
一つの例え話、ヒーローがいるからヴィランが生じるのか。ヴィランがいるからヒーローが生じるのか。結局、両方共に人より力を持っていて、ヒーローもまた脅威であるとはよく言われる事さ。其れでもヒーローがヒーローなのは、ヴィランを倒してくれる有益さがあるから。何方も不利益であるなら、片方の不利益を倒してしまえれば、其処に有益を証明出来る。僕達が此処に居る事の不利益が勝手に生じる事は避けられない。でも、僕達が此処で追い求めるものを待つと決めた以上、不利益に勝る有益さを証明しなければならない。故の考えさ」
「…でも…沢山戦わなきゃいけないのは……三人なのに…」
さえちゃんが嫌がったのはきっと此の部分だ。夜明は、さっき話した通り、後ろに下がって行動する事になる。だというのに、積極的に前に出る事になるだろう僕達に物を言っている事が、もやりときたのだろう。自分も、帰ってくるのを待つ方なのも、有るのかもしれない。
今、さえちゃんは死ぬかもしれない事に過敏だ。死ぬリスクも増え、複数の死体を一度に見た。其処に態々、死ぬリスクを増やす様な提案がされたのが彼女の動揺を誘ったのだろう。
しかし、此れには立場の違いがあった。
「…さえ。此れは今された話とはいえ、俺達は其のつもりでいた。じゃねぇと、今回の件だって自分から行きやしねぇよ」
「元々、何もしないのも如何なんだろう?思っていたものね」
「更にいえば、此れに積極的に関わる事で、関連する情報を一早く取得する事も可能だ。立場も明確になる。…決して、簡単じゃないだろうけどさ」
其れは、実際に前に出ているか、そうでないか。岩船という鬼を殺したか、否か。
岩船のいた場所を爆破した時点で、さえちゃんを除いた四人の意見は、言わずとも一致していた。白夜と白菊に言われて、さえちゃんは何も言えなくなってしまった。
さえちゃんの素直な心に対してか、白夜は其の小さな頭に大きな手を乗せて一撫でする。同年代にやられたくなかったのか、頭を振って拒絶する。
「…此の手は……傷を治す…事が出来る……でも…其の力は…弱い…夜明よりも…前に出れない……死なないで欲しいと……願う事しか出来ない………だから…止める…其の立場から……動く事は出来ない……」
「…さえちゃんは其れで良い。其の儘でいて欲しい。僕達は学校に通う一学生であって、生き死にに麻痺しちゃいけない。でも、気付いたら、そんな事も忘れているかもしれない。其れをさえちゃんだけでも覚えていてくれるなら、僕達は学生に戻れると思う」
「…多分、俺達が怪我しやすいのも、さえが治せる事に安心している事もあるんだろうな。説教は御免だから、出来る限り傷は負わないようにはするぜ」
僕達はさえちゃんの言葉を待った。さえちゃんは口を開いては、噛み締める。何度か繰り返して、声が出る。
「……三人が決めたなら………」
小さく言葉にして、けれど、沈黙が続く。僕達の考えはさえちゃんには伝わった。でも、彼女の願いは一つ、死なないで欲しい。其れ等は彼女の中で葛藤を産んだ。
「…其れでも……一度…此処を離れたい……」
立ち上がったさえちゃんは、答えを聞かず、外に出た。
元々、そんなに騒がしくなかった部屋の中だが、静かになったみたいだ。
「…みんなも、僕の事罵るくらいの事しても良いと思うけど」
襖から目線を外した夜明が、ちょっとは真剣だった表情を崩して、息を吐く。
「てめぇが常に考えているのは俺達の事だ。俺達は其れに従うって前に言ったろ。俺達は真っ直ぐに進むだけだ。今回は特に、俺達三人、てめぇの言おうとしていた事は分かっていて、既に承知していた。そういう点もさえとは違っていたんだろうよ」
「確かに、友の言うように麻痺してるのかしらね。人の形のものを倒すのも、向こうにいた時なら、もっと動揺していたと思うの…」
「さえちゃんは、一番忘れないよ……彼女は特に執着しているから」
彼女は心の整理の為に、部屋を出ていった。時間が経てば、心の折り合いをつけて戻ってくるだろう。納得は、していなくとも。彼女の意見は、今後とも変わる事は無いだろう。
彼女は少々の歪みはあるが、誰もが持っているわけではない信念を持っている。其れは、素晴らしい事なんだ。其処に斬り込んでいく方が、残酷だ。
「友、君は余り口を出していなかったけど、此の儘藤姫様に伝えて構わないかい?」
「…うん。僕も、岩船のような存在には自分で会いたいと思っていたから」
「へぇ…其れは、また如何して」
「訊きたいんだ」
「うん?」
「僕達は始めから人として生まれる。だから、人である事について深く考える事はしない。でも、人に成った者がいるなら」
此れは、さえちゃんに聞かれたら怒られるだろう。彼女が部屋を出ていて良かったと思う。
僕は岩船の声を張り上げるのを見ながら、思った。
「人である意味とは…一体何なんだろうって」
彼は、僕なんかよりもずっと、生きていた。
そんな存在に、もう一度会いたいという私欲が僕の中を走った。
※ ※
ノーサイド
門から出て、真継は息を吐いて、肩を回す。やっと緊張が解けた。
守達には、隊長が一堂に集められるような真面目な場だと何故かしっかりする、と喜んでいいのか分からない評価を貰うが、とんでもない。普段の調子が出ないだけなのだ。
今日だって…今日は紅と春人、玉梓、そして燈が何時にも増して火花を散らし、守も怒り出す(直ぐ引っ込んだが)し、其れだけで背筋は凍る。なのに、余り関与しなかった面子…百済は問題を起こすのは今か今かと楽しんでいる様を崩さないし、天地は何時も通りに暗い(時折口をもごもごと何か呟いている)し、鶴は…おっとりと眺めているだけだったが特に其れ以上をする気も無かっただろうと真継は予想する。兎も角、あの集まりでおちゃらける事は今後とも来ないだろう、と思う。
直ぐ其処にある四の隊の隊舎に目が行く。先に去った紅は既に中にいるのだろうかと思案する。何時も糸をぴんと張ったような男であるが、今日は引き千切れそうな印象だった。あの男は此の都が緩み過ぎだと怒るが、真継としては彼の様に過ごしては、必要な時に疲れてしまいそうだ。此ればかりは、人の作りに依るのだろう。其れを人に強いる事は如何なものか。
「真継~」
「おわっ」
さて、自分の隊舎に戻ろうと歩を進めようとしたが、後ろから両腕が肩から首にかけて巻き付き、背中に体重が掛かる。
「大河…城から出たとはいえ、後ろから飛び掛からないでくれ…」
「真継ってほんとに、こういう時だけしっかりするよね~」
横を見れば、気の緩んだ見慣れた顔が覗き込んできた。肩に入った力を抜きながら、巻き突いている腕を解こうとするが、外れない。
体を揺らしても、ぷらぷらと体が揺れるので大河が体全て預けているのだと分かり、真継は内心、こいつ…と思った。
仕方なく、其の儘帰路につく。
「ねぇ~真継~…」
「どうした?」
「人の姿をした鬼なんて、驚きだったね~」
「あ、あぁ…大鬼や慧鬼よりも強いみたいだし、俺達も気を引き締めないとな…」
「真継って~気~ちゃんと引き締められるの~?」
「五月蠅いやい」
十歩位歩いて、また真継の背中で大河は口を開いた。
「ねぇ~真継~」
「…どうした」
「…鬼がさ~人になったんならさ~……鬼と人の違いって、何なんだろうねぇ~………」
其の言葉に真継は、大河が話題に上がった鬼に思うところがあったのだと理解する。其れは、哀しいだの、傷ついただのに近い感情。
大河自身は、其れに気が付いてない。気がつけない。痛みに鈍感とは、精神に及ぶのか、真継は知識に無かったが、少なくとも大河は自分が感じたものに名前を付けられていなかった。
知らない儘に、門の前に立っていた真継を見つけて、行動に移したのだろう。
「……それでも、お前は人だ。鬼じゃない」
真継は、何時か路地裏で見つけた、痛みを感じない所為で鬼と嫌悪された少年の姿を思い出す。
真っ直ぐに九の隊の隊舎に戻るつもりだったが、十二の隊の隊舎に立ち寄ってから戻ろうと思い直した。
ちょっとした、寄り道だ。
ノーサイド エンド
※ ※
ノーサイド
藤姫へのアポイントは流石に難しく、城にいる誰かに話を通して最上階へ入らせてもらおうと夜明は考えていた。
しかし、城の中に入ると待っていたとばかりに理知が夜明を迎え入れた。
藤姫様が御待ちです
目を見張るも、促される儘に階段を昇る。途中振り返り、背後の理知を見るが、何も言わずとも「自分は何も聞いてませんよ」とだけ返ってきた。
最上階の襖を開けると、上座には藤姫が。少し前迄、隊長達が集められていた広間には、藤姫と向き合うように一枚の座布団が置かれている。
「おお、待っておったぞ。夜明よ。其処に掛けるが良い」
自分は最初から呼ばれていたのか、錯覚してしまうように藤姫は迎え入れた。
夜明は下品に成らない程度に座布団に堂々と座り、背筋を伸ばして藤姫と向かい合った。
ノーサイド エンド
五人が唱鬼と戦う事は、一度戦った事があるため他の人よりも経験値がある、五人以外が対応しなければいけない可能性が減る、自然な流れで死んでくれるかもしれない、といった事で友達に友好的な人も敵視している人も歓迎される提案です。
五人それぞれの考えとしては、
友…役に立つ行為をしたいと思いつつ、岩船のような存在に興味がある。生死の価値観は麻痺しつつある
白夜…盲目的なもの一切なしで、夜明と意見は一致している。だから、夜明の提案する通りに動くつもりである。一度死に掛けた所為か、死に対する考えが少々薄くなっている
白菊…自分のやれる事はとりあえずやっていきたい。生死の価値観は麻痺し始めである
夜明…自分の手の及ぶ範囲で、全員で元の世界に戻る手段を常に考えている。生死の価値観は割と普通
さえ…治すことはできる。でも、待っているしかない。それでも、今回は言葉に出した。生に執着、死を拒絶
まぁ、自分の表現力の無さによって、重い話にはできません
プリーズ文章力
この世界の安全度は、自分の想定では現代日本以下戦国時代以上くらいです。むっちゃ死ぬわけじゃないけど、死なない保証はされない。だから、生死の価値観もその狭間を彷徨います。
それも都内レベルなので、都の外だと更に下がります。
だから隊長達も、死人が出るのは哀しいけど簡単に話せる程度。
今回問題だったのは、「一番死に難い筈の人達」が複数死んだから。守が言ったように、他の人達なら、もっと死んでました。襲われたのが五人の小隊だったから、後から死んだ人も含めて死者は五人でしたが、もっと人がいても死人が増えていただけかもしれない。
自分の描写不足になりますが、物語外ではちょくちょく人が死んでいるんじゃないかなぁ…
(何となく考えていると、常々交通事故の死人が出ている現代の方が危ない?と思わなくはないですが、それはそれ、これはこれ。で、考え過ぎない様にします)
登場人物のセリフ口調が違う?かもしれないんで、あとで見返します。
誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?




