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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
39/65

ー参拾肆ー「都の外側」

考えた時は短く、既に戦いも終わっている予定だったのに、まだ戦ってもいない不思議。

「…そ、其れで…僕を人質に、き、金品を要求する…つもり、ですか?」


 山賊の本拠地だという広場、周りを囲まれて脳の中では不利という答えが直ぐに弾き出されたが、舐められちゃいけないと、気丈に訊ねた。

 されど、如何してもどもる口調は怯えていると捉えられたようで、威嚇しか出来ない小動物を見るようにくすくす笑う声が聞こえた。


「ふっっざけんじゃねぇ!!」


 そんな大声を上げた男が人と人の間を割って前に出た。


「んな卑怯な事するわけねぇべ!オラたちゃぁ健全たる山賊様ざ。そんなやり方で金品を得るつもりはねぇど。やるんなら堂々と、真正面から襲い掛かって奪ってやるべさ!」


…えーと、此処にいるのは山賊…なん、だよね。え、山賊って卑怯なんじゃないの…?有り得ない事聞いたよ…?

 衝撃を受ける発言に閉口した僕を返す言葉がないという風に受け取ったのか、男は満足そうに人と人の間に戻っていった。僕に刀を突き付けたままの女の子からも溜息が聞こえて、あの男の発言が仲間にも呆れられているようで安心した。


「あの馬鹿が言ったようにあたい達は金品なんて、其の辺の道でぶんどりゃぁいいもんを要求するつもりはない。あたい達はただ、都が果たさずにいる責任を果たして貰いたいだけだ」


 其の女の子は始め口をまごつかせて息をすっと吸うと、刀を其の儘に僕に顔を近付かせた。


「あたい達が、都に要求したいのは、村に住み着いた大鬼(だいき)…其の討伐だっ!」


「大鬼……?」


 やけにタイムリーな話題に見開いた目で瞬きをする。

大鬼の事は昨日聞いたばっかだったのだ。



                    ※        ※



大鬼(だいき)と…慧鬼(けいき)?」



 昨日の朝方、僕達の部屋を訪ねてきた初雁さんが口にした耳慣れない言葉。八月の半ばから姿を見なかった初雁さんは、其れ等の調査に都の外に出ていたらしい。


「皆さんも此の都で過ごして一ヶ月以上が経った。藤姫様も其の活躍に感謝なさっていたよ。戦い慣れてもきて、此れから鬼退治に行く機会も増えていくだろう君等に、知ってもらおうと思う。接触する事もあるかもしれないからね…。

お浚いとして、鬼が喰らう一番の理由は何だったか、覚えているかい?」 


ふ~ん…、夜明は口元に指を当てて天井の方に目線を上げた。


「存在を満たす為。だったかな」


「そう。鬼は此の世界、歌奏世界の外側に滞留する〈概念〉の残滓が集まった歪な存在。故に存在する事を世界に認められていない。だから、世界に存在するものの概念を喰らう事で世界に認められた存在に成り代わる。此れが鬼の満たす行為だ。

ではもう一つ、侍が守るだけだは無く、出向いてまで鬼を退治しなければいけない理由は何だろう、はい、友」


突然名指しされて、ビクつく。さっきの質問は指名してなかったよね?


「え…えぇ!?えっと…郊外で、ひ、人が食べられるのを、防ぐ、為…じゃないかな…」


「そう思うのが尤もなところだけれど、其れでは人気の無い森にまで鬼退治をしに行く理由にならないんだ。私達が鬼を退治するのは、偏に鬼が満ちる事を防ぐ事にある。

其れが大鬼、そして慧鬼の話に繋がるのさ」


 初雁さんは柔らかい表情を険しく変えた。


「大鬼と慧鬼は、満ちた、つまり存在が足り得た鬼が変化したものさ。進化といっても良い。

鬼も其のつもりで動いている通り、満ちた時点で鬼は鬼ではなく此の世界の一つの存在になっている筈なんだ。だがしかし、原因は分かっていないけど…今の所言われているのは世界が認識する為の軸が無いからだと言われているんだけれど、鬼は鬼のまま、其の形を形を変える。

目的を達成してなお、理想に届かなかった鬼の絶望と言ってもいいのか、大鬼や慧鬼となった鬼は唯の鬼に比べて段違いに厄介になるのさ。此れ等に会って死んだ侍も多い」 


表情を歪めていった初雁さんは自分で寄った眉間の皴を解し、何でもないように笑顔を浮かべて説明を続けた。


「先ずは、大鬼だ。此れは破壊に特化し、鬼ではまだ見てとれていた本能が既に壊れているとさえ思える個体だ。其の姿は鬼より歪であり、図体も数倍大きくなる。

今迄皆さんが鬼は大抵が膝下くらいの大きさだったよね。偶に喉下くらいの大きさの鬼もいたかもしれないけど、でも其れ位だ。大鬼は人よりも大きい、人の身長の二倍か其れ以上を体躯として持つんだ。


弱点は鬼と変わらない。だけど体が大きくなった上に死を感じ本能も壊れていて…慧鬼にも言える事だけども、満ちた鬼であるが為に異常な再生能力を身に着けた大鬼は、頭や胸に刀一本突き刺したぐらいじゃ死にはしない。少なくとも胸を貫通させて、首を割いて分断くらいしないと大鬼は止まらないよ」




 鬼を退治するのは、何十匹でも一人で事足りた。しかし、大鬼を退治するには一般の侍で最低五人、隊長でも二人、攻撃性の高い詠い手でやっと一人で倒せるかもしれないと聞いた時、僕は無意識に喉を鳴らしていた。



                     ※       ※



という話を聞いたのが、昨日の事だ。そんな会うものではないと聞いていた筈なのに。


「…八年前、あたい達の村は壊滅した」


「其の…大鬼、に?」


 女の子は首を振った。


「大鬼なんて、目じゃねぇくらいの…でかいでかい鬼だった。山と間違えるような…悪夢のような鬼だったよ。あたい達は村を捨てて命辛々逃げ出したんだ。

あの鬼がどうなったかは知らねぇ。あたい達にはあいつが去った。其れだけで充分だったからな。

でも、村に戻ってみたらどうだ!大鬼が村に居ついていやがった!!あたい達に大鬼を殺す力はない。あたい達の村は大鬼に奪われてたんだっ!」


 山と間違えるような、悪魔のような鬼。僕は其の言葉が気になったけど、今は頭の隅に置いて、刀の先が地面に落ちている事にも気づかずに唾を撒く彼女の言葉に耳を傾けた。


「侍なら大鬼を倒せる!あたい達は山賊に身を落として、侍が来てくれるのを待った…八年もっっ!

都の奴等なら此処に村がある事も、異変だって気付けるはずなんだ!なのに来ない!!都はあたい達を見捨てたんだ!」


高ぶる感情に鞘は地面に打ち付けられて、地面は軽く削られる。


「だからあんたを使って、都に言ってやるんだ!やるべき事を!果たせってっ!!」








言い切った彼女は、出すもんは出したと、荒い息に肩が上下する。

周りを囲む人達も思う事は彼女と同じなのだろう、動向を見守るようにじっとしていた。


「…其れって、お、脅す必要…ある、のかな?」


「何だよ…あたい達のやる事にケチ付けたいっていうのかい?」


 息も荒いのに噛みつきそうだ。でも、口に出してしまった以上、噛み付かれる事覚悟で僕は自分の思った事を伝えないと。

彼女の考えを覆さなければ。


「き、君は…侍が、大鬼がいるって知れば…退治すると、お…思うんだよね?し、知らないから…来ない、だけで」


「あんた…何が言いたい」


「な、なら…今し方、知った侍が…此処にいるよ、ね?」


 一応、と侍の前に心の中で付け加えておく。

さり気なく自分を指差すと、何処からも反応が窺えなかった。変な事言ったかな…とちょっとだけ笑い掛けてみると僕の前に立つ彼女の肩が震えて、わなわなと声を上げた。


「あんた、自分が何を言ってるのか分かってんのか!?」


「分かってる、よ。僕は…都のさ、侍として…出来る事をしたいんだ。ぼ、僕の信じる侍はこんな、と、時、見過ごす筈が…ないから。僕もそういう風に…動きたい」


 言っといてなんだけど、考え無し…だったかもしれない。けれど、都で今日も元気に務めを果たしているだろう僕が思い浮かべた侍の内の何人かは、言っちゃ悪いが今の僕みたく突っ走りそうだと思って、こっそりにやける。

うん…僕の行動は間違ってないと、思えるようになった。


「っば、馬鹿な事言ってんじゃねぇ!大鬼って…あれだろ。侍でも、一人じゃ倒せねぇって聞いた事があっぞ!?」


 周りを囲む人の中から男が声を荒げた。多分さっきとは別の男だ。他の人も同意とばかりに頷いているのを見てると、初雁さんから聞いた事は一般にも広まっている事のようだ。


「そう、だね。…でも、こ…こういう話もあるんだ」


 僕は出来るだけ余裕そうに、不敵に見えるように歌を詠い、現れた緑の針を掴んで立ち上がり刀を構えようとした女の子へ寄って、抜かれるより早く其の首に突き付けた。

 普段から接する人に詠い手が結構いるから忘れるが、都の中でも詠い手は珍しい存在。都の外ともなれば、都の中以上の希少ものだ。複数会えるものではないのが、一般に常識だろう。目の前で詠い、歌意を見せた事で大体が静かに様子を窺っていた人達が騒めきだした。




「詠い手なら…一人でも勝てる」




 攻撃性の高い歌だとか、やっとという枕詞は、此の際邪魔になるから無しだ。

騒めきの中でも、仲間に針を向けられたと分かった男達が敵意を持って刃物を手にしている。彼女に危険物(緑の針は刺さったところで痛くも痒くもない代物であるのだが)向けているから僕に手出し出来ないようだが、此れで僕も引くに引けなくなった。

 彼女は針を向けられても、其の目には怯え一つなかった。仁王立ちの彼女を前に、針を突き付け続ける。僕も周りも動けなくなっていた。

 







 耐え切れなくなった誰かが、ざりっと音を立てて飛び出そうとしたのを、さっき周りを黙らせた時と同じように抜くのを止めて鞘に収まった刀を地面に突き立てる事で止めた。


「あんた…名前は?」


「た、高砂…友」


「友か。あたいは北山 蒼(きたやま あお)。蒼でいい。

…明日、村に案内する。洞窟の奥を貸してやるから、今日はもう寝ておきな」


 女の子…蒼さんは背を向けて歩き出した。二歩、歩いて振り返って僕に強い視線を向けた。彼女の後ろに付くと前に視線を戻したから此れが正しいのだろう。

 蒼さんの歩く線上にいる人は退いて、開いている穴…洞窟迄道が開ける。左右を見ると、まだ武器を手放さない男数人が歯軋りを立てているようだが、彼女に付いて行く限り後ろから襲ってくる事は無さそうだ。




 洞窟の入り口の隅に転がっている太めの枝を手に持ち、光の届かない洞窟の中に足を進める彼女。

入り口の傍では先程頭の見えた子供達がいて、顔を向けると怯えた顔で此処では珍しい妙齢の女性の後ろに隠れてしまった。


「おい」


 洞窟に薄く反響した音に呼ばれ、足早に中に入る。枝には洞窟の入り口付近を照らしていた松明から移した火が付いており、其の光を頼りに中に入っていった。洞窟は思った通りに長さはなく、暗くなったら周りが把握出来ないなという距離で壁に当たった。此処が最奥のようだ。

 女の子は膝をついて手探りで何かを探り、見つけたものに持っていた簡単な松明を立て掛けた。炎の光は床や壁に反射して、最低限に辺りを照らしてくれる。


 僕が壁や床に目をやっている隙に、蒼さんは洞窟の奥に置いた儘だったんだろうボロボロの布を二枚敷き、布を爪先で突き乍ら、僕に顎で示した。寝ろと言いたいんだろう。余計な事をされたくないんだろう。

 示された通りに寝転がると、蒼さんは松明の隣に座り込んだようだった。


「…あたいが刀を持ってる事を忘れるなよ」


 刀を分かり易く示して、鍔に爪を添えて腕の中に巻き込みながら肩に置いた。

今動くとしたら、寝転がっている僕は初動で遅れてしまう。隠し持っている針は出すつもりはないけど、寝るのに邪魔になる針刀は背中から外して見える位置に置いているというのに、用心深いものである。


「もう一つだけ…し、質問しても良いかな?」


「早く寝ろ。…何だ?」


 撥ね退けたようで、聞いてはくれるみたいだ。


「…君達は、た、助けを求める事は…しなかった、の?」


話を聞いて真っ先に思いながら、聞いて良いのか迷っていた。

印象では瞬間で「聞くな」と返されると思ってたけど、蒼さんは「き」と言って、言葉を引っ込めた。

 揺れる炎が彼女の顔を仄かに照らす。




「…五人。此の洞窟で暮らし始めて二ヶ月で、森の中に潜む鬼に何人も喰われて、もう耐え切れないって都に向かった男達は帰ってこなかった。

其の頃に有った刃物はあたいが持ってる此の刀だけだったから、何も持たずに行って…多分死んだんだろ」


吐き捨てるように彼女は言う。


「そんな事があって、待つしかない、耐え凌ぐしかないって誰もが言うようになった。だけど、半年も経てば、食べ物の足りない餓死で殆どが死んだよ。

何時か侍が村から大鬼を追い出してくれたなら、素知らぬ振りをして村に帰ろうって口を合わせて始めた山賊紛いの行為を始めて、やっと、食べ物も刃物も潤沢に得られて死人も出なくなった」


 蒼さんは鍔の傍に寄せた手で刀を強く握り、近く寄せて体全体で抱き込んだ。



「今更…助けてなんて言えるわけないだろ…」



そんな姿じゃあ、直ぐに刀を抜けんだろうと思いながら、僕は目を閉じた。空中散歩をしていた体は自分の思っていたよりも疲れていて、意識は直ぐに遠ざかった。



                   ※        ※



 次の日。長月の四日。

気持ちの良い朝が来た。希望の朝だ。


 都以外の場所で起きるのは初めてで、何時もよりも眼が冴えて起きる事となった。松明は限界と言いたそうに微かに炎を散らし、傍で刀を抱えた儘寝落ちたそうな蒼さんの影を地面に落としていた。僕は彼女、其れに洞窟の中で眠る人達を起こさないように洞窟を出て、霧の掛かる木々を目にしながら息を吸った。何となく、水の味がした。


 自然の中で目覚めるのは乙なものであると生意気にも考えていると、走り寄ってきた者が得物をきらりと光らせ飛び掛かってきた。 


「おめぇ…姐さんの監視を振り切って、何をしようってんだべさ」


 僕は針刀を鞘ごと抜き取り、襲い掛かった刃を制した。


「ま、まさか…何もするつもりも無いよ」


彼の小刀を抑える針刀を引き、柄の後ろを小刀を持つ手の親指に抉るようにぶつければ、小刀は彼の手から離れ、彼の後方に落ちた。


「はぁ…やっぱ、オラなんかが姐さんの認めた相手に太刀打ちできるわけねぇべなぁ…」


 男は一部が赤くなった手を擦り、溜息と一緒に肩を落とした。


「姐さん…あっ蒼さんはやっぱり、こ…此の中の、い、一番の…実力者…なんだね」


「んだべ。姐さんは村の長の娘で、村から逃げる際に亡くなった親父さんの代わりにオラ達を纏めてくれてんざ」


 彼の小刀と交わらせて、何となくだけど昨日刀を突き付けただけの蒼さんの方が彼より全然強いんだろうと思えた。「姐さん」と慕われている通り、僕と同じくらいに見える彼女が此の山賊の集団の中心だった。






「…今からする話は姐さんには内緒にして欲しいべさ。姐さんは、自分が都に行った話はしてねぇど思うざ」


「み、都に行った男達とは、別に?…無事に、着いたって、こ、事?」


「そうだべ。姐さんの歌意は乗る事の出来る小さな雲を作る事ざ。其の力を使えば、鬼の隠れる場所の無い空を飛ぶ事が可能になるざ。

オラと姐さんは、男達が帰って来る希望が無くなった頃に、皆には内緒で姐さんの歌で都に向かったべさ。…空でも飛ぶ鳥や魚の形を鬼は襲い掛かってきたけんど、持ち出してきた唯一の刀の御陰で無事に都に着いたんざ」


「え、そ、それじゃあ…今のき…君達のじょ、状況と噛み合わないよ」


「だべ。オラたちゃぁしかと助けてと言ったべ、都に入って一番近い隊舎で。

けんど、侍達は慌ただしくしててな小さかったオラ達の声を立ち止まって聞いてくれる奴は一人もおらんくて、一人もいなくなっちまった隊舎を前に姐さんは泣いとったざ」


 僕は都で生活していたからか、あの御人好しにも程がある隊長さん達がそんな、と思ったけど、精々二ヶ月、八年前の都の情勢は知らぬ存ぜぬだ。しかし、慌ただしくしているにも理由がと考えるのは男も同じだった。

男は肯定した。


「今考えりゃぁ、あん時の都はオラ達同様に馬鹿みてぇな大きさの鬼の被害を受けて、まだ其の傷が癒えてねぇから目が回りそうなくらいに都の中だけでも手一杯だったんだろうとも思う。律儀に次に希望を持って行った街じゃ、んな事を言われて姐さんは張り倒されて追い出されたからな。


そうして帰ってきた此処は、悲惨だったべ。

行く前は生きてた人等が沢山死んどった。オラ達が村に帰る三日、其の三日の間で何人も鬼に喰われて死んどった。理由は、オラ達が刀を持ち出しちまったからざ。鬼に唯一有効な手段をオラたちゃぁ持っていっちまたんざ」


余程悔いているんだろう、彼は自分を責めるような顔をしていた。


「帰ってきた事を喜ばれたけども、沢山責められた。何より姐さんが自分を責めた。あれから姐さんは意固地って程に何もかも引き受けるようになった。けど姐さんだって普通の女の子だったんざ!何だって背負い込むような大きな背中は持ってねぇんだべ。

もう、姐さんにもういいって休ませてやりてぇんざ。

大鬼さえ何とかなりゃ姐さんもオラ達も其れで全て終わりになる。だけんど、オラ達じゃ大鬼には勝てないんだべ。


だから、よ。連れてきちまったのはオラ達だけどよ。頼む。オラ達を、助けてくれ」


 僕を前に彼は両手に力を込めて握り、頭を下げる。直ぐに頭を上げない彼の思いは、本気なんだろう。

蒼さんにも、目の前の彼にも、山賊という影を背負う姿は如何にも似合わない。

だから、僕の答えは決まっていた。


「助ける…なんて、たっ大層な事は自信がないけど。けれど僕は…都の侍として、大鬼を殺すよ」



                   ※       ※


「『北山に たなびく雲の 青雲の 星離れ行く 月を離れて』」


 蒼さんが詠うと、蒼さんの前にはふわふわとしたものが集まりだして、大体二人位が乗れそうな広さの小さな雲が出来上がった。

乗れ、と短く彼女に端的に指示され、雲に触ると、雲は感触を以って質感が僕に返ってきた。想像の儘の綿菓子のようなふんわり感触だ。

 足を引っ掛けて上がると、体重で軽く沈み安定して乗る事が出来た。感じた事の無い浮遊感が付き纏うものの、慣れれば拉致られる前の牛車より乗り心地が良いかもしれない。


「行くぞ。…今から泣き言言っても遅ぇからな」


 慣れた風に軽々と乗った蒼さんにより、昨日と同じ様に囲った山賊達に見送られて雲は動き出す。



 後ろを振り向くと、幼い子達が片手は女性の着物を握って、おずおずとも手を振る姿が目に入った。昨日、女性の後ろに隠れてしまった子達だ。

 僕等の乗る雲は進む出して、スピードを上げ、彼等の姿を小さくしながら山賊の住処を離れていった。

一人一人の語りが長くて、区切りに描写入れようにも思いつかない。


歌意は鑑定士が付けるので、蒼の場合は付いてません。危うく載せそうになりましたが。



【初出の短歌】

北山に たなびく雲の 青雲の 星離れ行く 月を離れて


              『万葉集』 百六十一首 持統天皇


 誤字脱字、文章的に可笑しな点はないでしょうか?

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