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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
40/65

ー参拾伍ー「大鬼 其の壱」

久しく短くなりました。

一対一での戦闘だと、文章があまり伸びませんね。もっと長く書きたいんですけど。

 雲に乗って二山越え、眼下に広がるものは悲惨、というべきものだった。

考えていたよりは、一部以外形も残っており、人が住んでいた村だったのだと分かる。元の村は山と山の間に中心となる道があり、なだらかな斜面を生活圏に家を建てて営みが広がっていたんだろう。


しかし、


「あ…あんな事が、でっ出来る生き物がいるって、いうの…!?」


村の右側を抉り、穿り返している爪跡。村の真ん中と山には、大きさのよく分かる手形が付いていた。手形の大きさから推測するに、其の全体像は山を容易く超える事が窺えた。


そんな化け物、如何やって斃すっていうんだ…!?


「そっちを見んじゃねぇよ。そいつはもう都の連中が殺り終わってもういねぇんだ。

今重要なのは…あいつだ」


 生きている物の感じられない村の跡地で、動くものが手形の真ん中にいた。今迄見た鬼と同じ様な色の肌、ゴリラの王様をぐっちゃりさせたような姿のものが地面に手をつきながらうろうろと。

ちらり見た顔は此れ迄見た鬼と同じ、目と牙がぎょろりとする蛙顔。満たされても、鬼を抜け出せないのだという事がまじまじ分かる。


 大鬼は空に目を向けずに、顔を背いた。ほっとした自分がいて、大鬼の届かない雲の上にいるのに、もう怖気ずいているのだと自覚してしまった。


「…い、いけるか?」


 泣き言を今更言っても遅いと言ったのは彼女の筈なのに、僕の身を案じるのも彼女だとは。つくづく悪い人に成れないんだろう。

蒼さんがいてくれるから、僕は後ろに引かなくて済む。


 僕は、よし、と声に出して靴を履き直して、針の位置を確認し、


「『誰をかも 知る人にせむ 高砂の  松も昔の 友ならなくに』」


一発、歌を口にする。

歌は僕に安心感を与えて、今なら未知の鬼をも殺れそうな気にさせた。今こそ、飛び降りる時だ。


「蒼さん。僕は人を信じるの、結構苦手なんです」


直前、蒼さんに一言添える。蒼さんは、僕の言っている事にぴんときていないようだった。


「だから…信じさせて下さい」


 安心を分けるつもりで笑顔を作り、僕は小さな雲の上から、頭を下に落下させる。目を開いて手を伸ばす彼女を見る限り、失敗したみたいだ。笑顔って難しい。

白夜や初雁さんの余裕ある笑顔を見ると僕は安心出来るのに、あの笑顔は如何やって浮かべてるんだか。


無事に帰れたら、聞いてみよう。


僕は今迄で一番の覚悟を以って、地上に降り立った。



                   ※       ※



ノーサイド


〈ギジャァァ?〉


 友が地面に着地した音で、大鬼は振り向く。振り向いた大鬼の目に友の姿はなかった。友の姿は既に大鬼の傍にあった。

徐な動きよりも断然に早く、大鬼に迫ったのだ。

そして、鬼が下に目を動かすより先に大鬼の無沙汰である右手の指を、親指から小指迄針刀で串刺して、掌から引き千切った。予め、付け根に一本づつ緑の針を刺しておいたから容易く千切れた。


 指が手から取れる痛みは想像に絶するはずだ。

しかし、千切った指を捨てた友に降り注いだのは、空気を震わす叫び声ではなく砂埃を降らせる影。


〈ギギィッ〉


友が後ろに跳び去った時、友がいた地面に指が健在な左手が振り下ろされる。振り下ろされた地面は割れ、砂や石が飛ぶ。


「なんて馬鹿力…っ」


其の行方を追う事無く、地面のついたばかりの足を離す。指の無い手が地面を割った。後ろに跳ぶと、背中がぶつかった。背後には腐った柱があり、前を見れば体当たりの如く大鬼の顔が迫って来ていた。


 考える暇も無く、柱に足を掛け、真っ二つに折られる柱を踏み台に大鬼の腕に飛び移った。二歩、走って肩に差し掛かる前に其の付け根に三本緑の針を刺し、針刀で突き刺す。

其の儘抉り断とうと考えていた友であったが、針を刺した場所は良くても其れ以外は針刀が動かなかった。抉るにも針は必要だと分かった今、腕を断つ前に針刀が如何にかなってしまう為に、針刀を引き抜いて大鬼の背中を蹴って跳び去る。


〈ギャッギャッギャッ〉


 振り返り、自分のいた所を見て、友はぞっとする。無事な方の手で空の場所を握っている。其れはつまり、自分がいたならあの手に握られていたという事。


 友は空中にいる間に緑を二本、後ろに銀色の針を一本、次に緑の針を三本、銀針を二本。駄目押しだとばかりに、二本緑の針、一本銀針を投げつけ、大鬼の背中から心臓部に当てる。

緑の針が溶けたところに銀の針が当たった皮膚が抉れ、内臓の見えない内部に掘り進め、緑の針の効力が切れた時点で、二波が着弾し繰り返す。

 空いた穴からは大鬼の体の色とは異なる茶色が覗いた。だが、大鬼が崩れ落ちる様子はない。廃墟の残骸にぶつかった顔を上げて振り向こうとしているのを見て、地面に足をつけた友は、屋根の一部だったんだろう木片の裏に隠れた。


其処で友は、気付かれない限りにし忘れていた分の呼吸を清算していた。


「(まるで、暴走している大型トラックを相手にしているみたいだ…)」


胸が呼吸で大きく動く。


 こんな時ながら…こんな時だからこそ、体術や戦闘術を教えてくれた師たる二三さんには感謝したいと友は思った。

只管、「命を大事に」ってレベルで避けるだの逃げるだの、隙っぽい時にだけ攻撃するヒット&アウェイ戦闘法を徹底的に仕込んでくれた御陰で一発も喰らってない。でなければ、動けない場面は今の一瞬で何度もあったのだ。

というか、一発でもクリーンヒットさせてしまえば死ねる気がした。

友はミンチには成りたくない。誰だって其れは同じだろう。


「(機敏さで云えば僕の方が上だ…でも、破壊力だとか、皮膚の固さとか単なる鬼とは桁違いだ…)」


 何よりヤバいのは再生力だ、と友は考える。友が心臓を狙うつもりで後ろを振り返った時、抉った腕の傷口はもう再生し始めていた。更に心臓の穴も隠れる前に見たら向こうの景色が見えなくなり始めていた。


 心臓を抉れば此れ迄の鬼は死んだのに、大鬼には事前に聞いていたとはいえ通じなかった。場所がズレた可能性を考えるも、心臓部であった事は確かだという謎の確信は持っている。

やはり、首と心臓の二箇所を断つ必要があるというのか。厄介なものだ。


ノーサイド エンド



                   ※       ※



 大鬼、そして慧鬼の事を初雁さんから聞き、


「友君、ちょっと良いかい?」


解散となった其の後に僕は初雁さんに呼び止められた。


「は、はい…何でしょう?」


僕は足を止めて、初雁さんを見た。


「私が思うに、君の戦い方は大鬼に最も相性が悪い」


「そ、そうですか?」


 大鬼と戦っていない僕は言葉でしか、大鬼を知らないので、そう言われても実感が沸かなかった。


「君は避けに避けて、最小限の動きで仕留めている。鬼に対して刀よりも効率が良く、素早く多数の鬼を退治する事が出来ていると思っている。

でも、大鬼は一撃で殺せる相手じゃない。首を斬るにも、心臓を抉るにも君の針刀では時間が掛かるだろう。大鬼の再生力なら、君が殺しきる前に再生するよ。

君の戦い方は大鬼には合わないんだ」


だからなのか、戦ってもいないのに負けると言われたのには、少しムッとした気持ちが生まれた。

僕は言葉を強めに、言い返した。


「な、なら…刀で、戦えって、そういう事ですか?」


僕は背中から鞘ごと針刀を取り出し、握る其の手を見て、初雁さんへ顔を向ける。

柄を持つ手はとても馴染んでいた。


「君には、今の戦い方が合っている。其れに、二三さんも其のつもりで君に教えている。今から変える事は出来ない。

刀に変えたところで、根本的な解決にはならないさ」


僕も今刀を振っている自分が思い描けない。刀に握り替えてしまえば、其れこそ単なる鬼にやられてしまう気がした。

 初雁さんは首を振り、僕の前に歩み寄って、


「私としてはね…特に君には、大鬼と出会ったのなら、逃げて欲しんだ。

君達全員、無事な姿で元の世界に帰って欲しいからね。良いかい…絶対に戦わないでくれ」


僕の両肩を掴み、深く深く言い含めた。



                   ※       ※



ノーサイド 


「(付け込めるとしたら、其の再生方法。腕の抉り跡は元に戻ったけど、完全に千切り取った指は其の儘だった。

だとすれば、大鬼の再生は早いけど、普通の鬼と同じく埋めるものであって生えるものじゃない)」


其の点は良かった。つまり、断ち切れれば再生しないのだ。針刀だけでは針刀の方が耐えられない。断ち切る考えなら、緑の針が絶対に重要になる。

 大鬼の足音に耳を傾けながら、友は其の点を踏まえ、自分なりに作戦を再度構成した。


「(片手だけ指を奪って握る行為は封じられたけど、殴れる事には変わりない。

確実なのは腕と足を断って達磨にしてから殺る事。けど、体力持つか?


…先ずは、もう一つの可能性を試してみよう)」


 玉梓には推奨されなかったが、観察した上で希望がある賭け。此れで終われば、楽なんだけどという賭けに出ようと友は結論付ける。

息を軽く吸い込み、友は陰から飛び出した。



 警戒していた大鬼は、先程と異なり、陰から出てきた友を直ぐに目で追った。


〈ギジャァァァァァァッ〉


鬼は崩れた廃墟の木片を指の残っている手に持ち、ぶん投げる。殴るだけでも地面を罅割る腕力で投げられた木片は、形を崩しながら相応の威力を持って友を襲う。

友は避け、着地点で木片は散開し形を失う。当たったらこうなると、暗示しているようで友の表情が引き攣る。


 大鬼は手当たり次第に有る木片をぶん投げているようで、大鬼に近付こうとする友に沢山の残骸が襲う。

片手で投げられる量は両手で投げられたら如何なっていたかという量で、全部を避けきれないと悟った友は緑の針を二本投げ入れ、針の溶けた木片に針刀を突き付ける。

友の腕に大きな負荷が掛かるものの、木片は友を押し潰さず砕けて、力の方向に友の後ろへと流れていった。

しかし、砕けた木片は友の皮膚に引っ掛かり、数箇所の小さな切り傷を残していった。


「っく!」


 大鬼はまた新たに木片の代わりに大きめの岩を手に友に投げようとする。

だが、大鬼の手から岩は零れる。


〈…ギ?〉


 考えた事でもあるのか、大鬼が投げ損ねた手にやると指に銀色の針が三本刺さり、有らぬ方向に曲がっていた。瞬く間に元の向きに指は戻るも、針は役割を果たした。

 戦いの中で目を逸らすとは言語道断、友は緑の針五本と針刀を大鬼の横っ面、首に当たる部分にぶっ刺した。


「ぉおおらっ!」


 刺した針刀と空中を踏み台に、首皮を抉り取り、大鬼の項付近に飛び乗り占領する。

大鬼は背中に回られた事に気付けてないのか、友の姿を探していた。後ろに行った事は目で見ていても、其の姿が背後に無いのだ。

 友は緑の針を五本、横一直線に並べて刺し込み、刺した儘の針で剥ぎに掛かった。

大鬼の項がぱっくりと分かれる。


〈ギッ?…ギィッ?〉


大鬼は本能的に首元が危険、首近くに害を成す存在を感じたが、大きい腕と大きな背中が邪魔となり友迄届かない。


「(よしっ後一回横一線に抉ってしまえば、首は落とせる!)」


 心臓を討つのとは違って、頭と体は分かれてしまえば再生する事はないと友は考えた。

相手も手を出せない絶好の好機。


此れで此の命懸けの戦いは終わる筈




…だった。



「…なぁっ!?」


 友は思わず、声に出してしまう。

というのも、友は首皮を剥ぐのに充分な五本の緑の針を手にするつもりだった。


しかし、空中から具現化したのは三本。

一体如何してなのか。


友は直ぐに答えに辿り着いた。


「(もう僕は、歌の針を三十本使っていたっていうのか!?)」


 実は、友の歌には本数に限界があった。一度、何本出せるか試してみたところ、途中で一切針が出せなくなったのだ。

其の数が、きっかり三十本。


友は使い切ってしまったのだ。


 友は其の三本で如何にか出来ないか、と其の三本だけを開けた首に刺して針刀を突き入れるが、針の効力の及ばない場所で針刀は案の定進行を止めた。

無理矢理に押し進めようと力を入れるも、針刀の刀身が撓り、嫌な予感だけを産んだ。


「《解》!!」


 歌を一度解き、詠い直せばまた緑の針を使う事が出来る。緑の針が無い状態では太刀打ち出来ないと分かっている為に、友は迷わず歌を解除する事を選んだ。

歌を解けば、既に刺し済みの針の効力も失われる。


「『誰をかも 知る人にせむ』t……!?」


 友は緑の針が大鬼の皮膚の耐久劣化のみに効力を発揮していると考えていた。其れ以外にも劣化させているという考えが巡ってはいなかった。

歌を詠い直している間に引き抜こうとした針刀が引き抜けない。

針刀の周りの肉が急速に再生し始めている。針刀を巻き込んで首が直り始めているのだ。

針刀を伝って青い肉が登り、手に触れたのを拍子に友は手を放してしまった。


〈ギャッ〉


 友の歌は、大鬼の再生能力をも劣化させていたのだ。

手を離した友は、抑えが効かず身を捩った大鬼によって振り落とされてしまった。


「しまった…針刀が」


 地面を転がり、別の廃屋を崩して止まった。顔を上げ、大鬼に向けると、大鬼の項中心に針刀の柄が見えた。

喰われた訳ではないが、鬼は総じて如何なる概念も吸収してしまう存在。刺さった儘の針刀も長く其の状態にしてしまえば、大鬼の概念の一部となってしまう懸念があった。

早急に回収する必要がある。


 そんな友の前が急に暗くなる。振り落とした友の姿を大鬼が確認して、友に襲い掛かってきた。


〈ギャギジャァッ〉


 大鬼が友を押し潰す前に友は跳び、立っていた柱を倒して廃屋の裏へ逃げた。

降りた友は更に走って、三つ先の形が大分残っている建物の反対側に隠れた。


「(受け身取れなかった…罅入ってそうだなぁ…)」


 走っている間、ずっと痛みがあったところを押さえながら、友は歌を詠おうとする。

針刀を取り戻すにも、大鬼を殺すにも、何をするにも、友には歌が必要だった。


「『誰をかも 知』r……!」


 嫌な予感がして、友は其の場から跳び去る。


〈ギィィィッ〉


バキィッッ


建物が木端微塵に壊され、友のいた場所に大鬼が現れた。跳ばなければ如何なっていた事か。


「(なんで?さっきは気付いていなかったのに…)」


 隣の廃屋の上に乗って、振り向くと大鬼と目が合った。友は其の時、気持ち悪い汗が額から流れた感覚になった。


〈ギギ〉


 大鬼は自分の姿を追えている。見つからないようにするには、声を出さないようにしなければいけないのに、歌は詠う為に声を出さないといけない。其れを大鬼は耳敏く拾ってもいるようだ。


 従って、歌を詠おうとすれば大鬼は友を絶対に見つけるだろうという結論に達する。見た目に似合わず大鬼は速く、歌を詠い終わる前に友に追いつき、襲い掛かる未来ははっきりした。

鬼を避けながら歌に意識を向ける余裕は無いから、歌は中断してしまう。中断してしまえば、歌は歌意を発現しない。


 大鬼に立っている廃屋も壊され、跳んで、乗り移った屋根からも移動して、空中を一度踏んで、友は地面に降りて走る。


「(い…今は逃げるしかない!)」


………ドスッ……ドスッ…ドスッッ


 攻撃の手段を二つ無くした友は、歌を詠う時間だけでも稼ぐ為に背後に迫る重低音を耳にしながら逃げた。


ノーサイド エンド

その時の話によって、地の文と会話文の書きやすさが変わってきますが、今の敵は地の文です。上手く書けない。


誤字脱字、文章的に可笑しな点はないでしょうか?


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