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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
37/65

ー参拾参ー「秋になれば、雲も傍に寄る」

頭の中に思う描いていたシーンは沢山あったのに、其処に至る繋ぎがやけにあっさりしてしまった感…。

 眠る為に閉じた目を開く。眠れないとか、既に朝だったとかそうじゃなくて、瞬きするように意図せずに僕は目を開いて、自分が立っている事に気付いた。

そして目の前には、もう見る事はないと思っていた黄金の松の木。黒い空間に混じる事無く高く聳え立っている。


 つまり、此処は歌奏世界に来る前にいたあの場所であるという事。また此処に来れたのだと、僕の中で歓喜が沸き上がった。僕は駆けだした。松の木の根元にあの人がいる筈だと思ったからだ。


逢えたら、何を話そうか。


貴方の歌にとても助けられている事か。


貴方と別れた後、ちゃんと人と話す事が出来た事か。


白夜やさえちゃん、夜明や白菊さんの事。都で出会えた沢山の人の事だって、毎日が楽しいんだって事も伝えたいのだ。全部全部、貴方の御陰なのだと。



しかし、黄金の松の木の根元に彼の姿はなかった。諦めず走り回っても、松の木以外の障害物もない此の場所で彼の影一つ僕は見つける事はなかった。其れでも彼を探す事を止めなかった。





 されど、僕は段々と気付いていたんだろう。此処に彼はいない。

そもそも、此処は似ているけど彼と会ったあの場所ではない。


だって此処は………



                     ※       ※



 長月の三日。

秋になり、夏には青々しく実りを携えて育っていた植物の元気は衰えを見せだしたにしても、まだ立っているだけでも額から汗の噴き出る今日此の頃。


 眼下で草を掻き分け、ぴょんとやって来たのは茶色の野兎で、木の根元に生える草を突くように食み出した。其れは穏やかな光景だったけども、野兎が出てきたのとは違う方から飛び出てきた四つ足の、獣の姿の鬼で。あ、と言っている間もなく野兎は首を噛み切られ、夥しい血を噴出して死んでしまった。

 鬼は死んだ野兎の首元からぐちゅりぐちゅり汚い音を垂れ流して貪る。と、動きを止めた鬼が周りに威嚇をする。寄ってきたのは鳥型と人型の鬼で、折角獣型の鬼が殺した得物の御株を奪おうとしている為に阻止しようとしているのだろう。


「…『誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに』」


 空気に溶けるように静かに歌を詠う。 

 鬼は万物共通に敵であるというのだが、知能がなく本能が先行している様は以下とはいえ動物のようだと余裕に笑ってから、出現させた緑色の針を先行させて、身を隠していた枝の上から落ちるように飛び降りる。

 地面に足を着く前に針刀を振り抜き、足膝手の三点で着地した際には三つ頭の汚らしい三色団子が針刀を串に出来上がった。頭の引き千切られた三つの体は糸の切れたように倒れる。死にはしたが、此の鬼達は自分が死んだ事を分かっているのだろうか。其の自信が僕にはあった。





「…君を見て、気を緩ませてしまった所為で、君を死なせてしまった。…御免ね」


 野兎の墓は、野兎が食んでいた植物の根元に作った。申し訳程度に手を合わせた僕は立ち上がり、ある方向に緑の針を二本、銀色の針を二本投げた。

木にぶつかった、たんと軽い音を聞いて其の木に寄る。魚型の鬼だったらしい頭と胴に穴を開けたものが幹から滑るように落ちた。

 歌による緑の針は無いけれど、銀色の針は多く持ってるといっても、数が限られるので出来る限りには回収したい。僕は木に刺さった二本の銀色の針を抜いて懐に仕舞った。


 此の鬼は僕を得物として、僕の喉へ飛んできたらしいけれど、僕は野兎のようには死ぬわけにはいかないのだ。






「友、首尾は上々か?」


 がさっと草をのけて、(ちょっとばかし構えてしまった)僕に手を振って現れたのは白夜だった。僕は針を仕舞う。そういえば彼は近いところで狩っていたのだった。


「う、ううん……まぁまぁ、かな」


と僕が伝えると、白夜はくつり軽く笑った。


「嘘つけ。お前がまぁまぁな量で収まるとは思えねぇけどな」


 白夜は何故だか知らないけど、僕の事を過大に評価しているような気がする。野兎だって目の前で食い殺されてしまったんだから、まだまだだと思うんだけど…と閉口していると、白夜の後方にて物音がたった。


「ん?」


 振り返った白夜に襲い掛かる三種別型の鬼達。僕は仕舞った針をもう一度取り出そうとしたが、白夜の方が行動が早かった。目をかっと開き、三匹の鬼を洩れなく睨みつけた。

 目を向けられた鬼は動きを止める。其の時間は一秒あるかどうかだったが、短い時間を白夜は見逃さない。刀を逆手に持って近付いた白夜は、縦に一線、斜めに一線、逆の斜めから一線の計三回鬼の体をまとめて切り裂き、鬼は三匹共に肉片に変わった。


「《解》。やっべ…歌解くの忘れてたわ…」



 白夜は自身の歌を餌にして鬼退治をしている。鬼には意志はないものの本能と呼べるものは有り、食べたいもの、食べれそうなものに向けるものと相手を狩るより先に狩られるリスク感じるものを持ち合わせている。じゃないと其の辺の土を食べればいいわけだし、人を警戒して昼と夜で鬼の出る割合が変わる理由がない。


 其の二点を白夜は歌によって刺激し、無差別に周りに隠れている鬼に自分を得物として認識、問答無用で飛び掛かるように仕向ける。そうして飛び掛かった鬼の本能的恐怖心を増長する。

 鬼には彼が美味しそうで狩り易そうな得物から脅威の化け物へと意図せず印象が変化してしまうだろう。其のギャップは激しく大きく、現実が追い付く迄身動きが取れなくなる。したがって、如何なる生物も無防備を晒してしまうのだそうだ。

鬼や本能寄りの生き物は自ら本能を振り返る事が無い為、思考を表面化される危険性もないのだと彼は言う。


 なお、三井寺、さんに手合わせしてもらった時に此の手を少し変えて使用した際、一発で破られて地に伏したという。


 一先ず、三匹の鬼を葬り刀を納めた白夜の手際の良さに僕は拍手を贈った。


「おぉ、さ、流石」


贈られた当人は、うっかりミスを気にしてか気恥ずかしそうだ。


「茶化すなっての。そうだ、白菊の奴に呼ばれてたぜ」


「白菊さんが?」


「撤収するってよ」



                    ※       ※



「ひーふーみーよー…。よし、全員揃ったな!では…


『ゆきなやむ 牛のあゆみに たつ塵の 風さへあつき 夏の小車』!!


行くぜ!俺っちの牛ちゃん達!!!都に向けて出発だっ」


 人数の確認し終えた帆風さんは手綱を引く牛達に活を入れ、雑多に乗れるだだっ広い板状の車が動く。

本日は都からも他の町や村からも離れて手の入りが薄かった地域の鬼退治で、移動に時間を掛けぬようにと帆風さんに協力してもらったわけだが、五の隊の皆さんと僕達で十何人といる人数を乗せた牛車も帆風さんの牛の敵ではないようだ。




「ほ…帆風さんも詠い手…なん、ですか?」


 牛車の前の方に座っていた僕は身を乗り出して、大きい声で歌を歌っていた帆風さんに訊いた。彼の歌を聞いたのは歌の存在を知る前。あの時に詠っていたのが、帆風さんの歌、だったのだろう。


「おや~?友とかいう小僧は俺っちに興味有り有りって感じか~?…どうせなら其処の白菊の嬢ちゃんの方が良かったんだけど…(ぼそっ)。

そ、此れが俺の歌。歌意は〈強牛(つよきうし)〉。詠う事で愛しい牛ちゃん達の力を強くする、正に俺好みの歌ってわけよ」


 つまり、帆風さんの歌の下にある牛達は普通よりも重いものを動かす事が可能なようだ。初めて乗った牛車リムジンは此の世界独自で生まれたというより、帆風さんという御者がいたから実現可能だった。

牛が大好きで、牛に関わる力を持つ帆風さんにとって、運び屋の仕事は天職だったわけだ。


「私の歌意と似てるわねっ」

 

「だ・よ・なっ!俺っちも白菊嬢ちゃんの歌意を聞いた時にぴんっ、と来てたもんよ~!

どう?都に帰ったら、俺っちと熱い夜を過ごしてみない…?」


 白菊さんの歌意は物を強化する。帆風さんの歌意は牛を強化する。方向性は似ているだろう。

詠い手の歌意が似ていたとして、詠い手同士が相性が良いかは謎である。詠い手の絶対数も多くはないのだから分かったもんではない。


 帆風さんはラブコールを贈るものの、白菊さんは笑って眼を逸らして流した。曰く、花火を見た日に少女漫画の甘酸っぱさを体験したから私も成長した、と。しかし、眼を逸らされても帆風さんがラブコールを諦めきれてないのを見ると、まだ経験値が足りてないんだなぁと思う。

 其の横では白夜が鼻で笑った。


「大変なもんだな。其れって歌に仕事を決められたようなもんだろ」


 甘い視線から一転、


「黙れ。図体がでかいだけのガチムチが」


「あぁ?…がっちりはしてきたかもしれねぇがむっちりはしてねぇよ」


敵意に塗れた目で白夜を睨んでいた。此れ、白夜の発言以外の意図も含まれてるんじゃないかな…?


 此の様子だと、帆風さんに白夜は地雷で、選択肢にないんだなと思った。男でも女みたいに可愛ければ抱けるって前に言っていた事を思い出して、僕も範疇に無いなと思い返して夜明が心配になった。


「…俺っちもよ、玉ちゃんみてぇに闘い向きな歌で、お前は戦いに行く運命なのかよって傍から思った事はあるがな。だけどよ、俺っちは成りたいものに成ったつもりだ。歌が運び屋向きだからって、其れに従ったつもりは少しもねぇよ」


 白夜の一言で、歌を持つ事が人生に影響するような難しい話に一瞬成り代わったけど、帆風さんの答えに迷いはなかった。帆風さんの言葉に添えるように、牛車を引く牛がモウ、と息荒く鳴いた。










 会話が途絶えてからは、木製の車輪が土を踏みしめる音が耳についた。大人数を運ぶ以外考えていない此の牛車は乗り心地が良いとも言えないが、楽に移動できる事を考えると其れも気にならない。特にする事も無く座り込んでいると、視界に二日前に夢に見た黄金を映したような気がした。


「おい、友。…なんかあったか?」


 白夜が心配そうに隣から話しかけてくれる。


「夢が…」



と、僕は口にしたものの、夢のように目を閉じた先で見た空間が僕には単なる夢で収まるものではないとも思えた。説明しようにも自分でもまとめられず、口に出したとて白夜が分かるとは思えない。


白夜だって、こんな事聞かれても困るだけだろう。


「夢…だと?」


「…い、いや。やっぱり、な、なんでもない」


 当初は、単なる不思議な景色だった。しかし、其の後に出来事が僕にとって大きなものになってからは薄れていってなお、美化されて僕の中で意味を持ち始め、先日もう一度目にしてぶり返した。

 夢の中で黄金の松を再び見てから、瞼の裏にこびり付くように見える風景に幻視してしまう。

 僕は黄金の松木の景色に執着している…のだろう。

あの黄金から離れてしまう事も、離れられなくなる事も僕には恐ろしいみたいだ。


「……そうか」


 だけど、其れを白夜に言えそうにはない。

白夜は一拍置いて、そして詮索しないでおいてくれた。白夜に感謝しつつ、卑しい自分に嫌気が差し、空を見た。


 もう落ちるしかない太陽の光でも眩しいわけで、顔を顰めて直後に太陽を遮った雲をありがたいと目を開けて。


僕は目を凝らした。


「…?」








待って。あの雲おかしい。

なんで、(・・・)あんなにも(・・・・・)低い場所を飛んで(・・・・・・・・)いるんだ(・・・・)






 あまり凝視した僕は有り得ない事だが、其の雲の上に何やらいる事に気付いた。其の何かも僕が見ている事に気付いてしまった。やばい、見過ぎた。


「…白夜!し、白菊さん!ああれは雲じゃないっ!?」


二人と、帆風さんも其れ以外の人も僕に目を向ける。


「友、あんた雲を見て何を言っているの…?」


 頓珍漢な事を言う僕にさぞ困惑したと白菊さんは言う。周りも同調して頷くが、僕には余裕がなかった。おかしな小さな雲は此方に近付いていた。


「だっだからあれは雲だけど、た、唯の雲じゃなくて…っ」


言葉に詰まっている間に雲は動きを変えた。ゆっくりから途端に急加速した雲は一直線に帆風さんの方に突っ込んできた。帆風さんは僕に目を向けて後ろを向いている。だから迫る雲に気付いていない。


雲の上の存在が片手を広げたのが見えた。




「帆風さんっ!!…ぐっ、」


 僕は帆風さんの肩を押し退けた。途端に感じる首の痛み。


足の浮遊感。


 もげるような衝撃に唾液を吐き出す。喉を回った腕が僕の呼吸を邪魔する。

僕は必死に息がしたくて、肩の服を握って放さない腕と首の間に手を突っ込んで気道を確保した。



「友っ!」


伸ばされた手は僕に届かない。瞬く間に雲は空高く飛んで牛車を離れていく。


 みんなの姿はぐんぐんと小さくなって、咳き込みながら僕は、自分が連れ去られたのだと気が付いた。



                     ※       ※



 肩を握られ、僕も腕を掴み続けて、山と空は前へどんどん流れていく。何処に連れて行かれるのか不安であったが、高い所を移動する雲から落とされれば唯じゃすまないだろうから僕も指に力が入った。



 やがて其の雲がちょっとずつ高度を落として始め、高い空から森の中に突っ込んだようだ。枝や葉が体中を掠る。此のおかしな雲の進む方向に僕は背を向けているもんだから、背後に迫っているものの検討が付かず、避ける事は敵わなかった。

身体を捻ったら其処を太めの幹が通り過ぎた時には冷や汗ものであった。もしかしたら体が削れていたかもしれない。連れて行くのはもういいから、前を向かして欲しかった。序にそろそろ普通に呼吸をさせて欲しい。苦しい。



 そんでもって、おや、当たる葉がなくなったと感じたところで、肩を握った手が向こうが勝手に握ってきたいうのに振り解かれ、僕は地面に転がった。直ぐに地面にぶつかってほっとした。ずっと地面から離れた所を移動していたから、地面が近いのか疑わしかったのだ。

 だが、深呼吸をしようにも吸い込んだ砂埃で噎せ、生理的な涙で視界が歪む。


「…姐さんが帰ってきた……!」



「おい、手前にいる奴って…」

「侍か…?」

「て事は、姐さん、まじでやりやがったんだ!」



 ぼやける視界に動くものを捉え、聞こえる声から複数の人に囲まれているらしかった。

咳も落ち着き、視界が戻ってきて見渡すと、此処は森、もしくは山の光が入る木の薄い場所、奥迄有りそうな穴からは人が此方を覗いており、人が住んでいるのだと推測された。


「あれが…お侍さん?」

「じゃあ、本当にやるの…?」


 最初に声を出した男達から広がって喋る声が大きくなる。男達は主に喜ばしそうに興奮していて、女性は不安で心配であると如実に顔に現れていた。其の何方も話していてもちらちら僕の方に視線を寄越して、どんな話題であれ僕が関わっているようだった。





ガンッ


 声の束は僕の隣で響いた音で止んだ。視線をずらすと鞘に入った刀が地面に突き立てられていた。僕が刀に寄越した視線を上に移していくと、刀を持っていたのは淡いクリーム色の髪を真後ろ以外バッサリ切った野性味溢れる僕くらいの年だろう女の子だった。

 彼女が僕を此処に連れてきたのだ。


「お前達、騒ぐんじゃねぇ!無駄に鬼を呼び寄せてぇのか!?」


 びゃ、白夜みたいな口のわr…口調だ。

 威圧感たっぷりに彼女が言うと、ピンと背筋も伸びた。右の方でぼそっと、


「姐さんの声の方が大きい…」


言った男は隣の彼女にキッと睨まれ、すごすごと縮こまりそれっきりであった。


 静かなので丁度良いと、僕が声を出させてもらう事にした。


「あ、あの…此処は…?」


ぎらりとした目には背筋が凍って、口元から聞こえた舌打ちに逃げたくなるが、


「此処はあたい達山賊の拠点…住処だ」


疑問に答えてくれたあたり、話の出来る人だ。鞘に入っているとはいえ、刀の刃先を向けられて直ぐに其の印象も消えたけど。


「そんであんたは、あたいがあの侍共の中から連れ去った…云わば人質だ」





 あぁ…如何やら僕は、山賊だと名乗る者の人質になってしまったようです。

安易な考えで、此れは多くの人に多大な迷惑を掛ける事になってしまいそうだなぁ…なんて、僕は現実逃避を悟った。

帆風さんが登場したのが自分のスピードの遅さで約一年ぶりでキャラは覚えてたけど口調がなんか違う気がすると首を傾げました。入れる場所がなくて、〈ピー〉音もなく燃焼しきらなかった出演になりました…。


今回の話は四話くらい続けくつもりです。自分の中での話の切り替えにあたる話だと思っているので、此処から先、紹介程度にしか登場させていない今までの歌をその意味合いも交えながら物語に絡めていきたいですね。


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?


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